「NISAをください」
数年前ですが、私のいる銀行窓口にいらっしゃった初老の女性がこうおっしゃいました。
「知識のない高齢者などいいカモ」などとは考える余裕もなく、びっくりしてお話をうかがうと、友人からNISAを進められ欲しくなったので、よくわからないけれど銀行にきたとのことでした。(銀行に「売っている」と思ったそうです)
投資の初心者ということもあり、基本的な説明をして、ご家族とも相談してうえでゆっくり検討されるようお話しし、その日はお帰りいただきました。
これは私の経験談です。
金利上昇が話題にのぼる現在、投資を始めようという人も多いと思います。
そこで今回は、NISAとは何かなど今さら聞けない基礎知識を銀行員が解説します。
説明をわかりやすくするために定期預金と比較しながら進めていきます。
金融資産1000万円が「見える世界が変わる」節目 つみたてNISAを続けることで到達可能
NISAとは
一般的に、貯蓄や投資で得た利益(もうけ)には税金がかかります。
たとえば預貯金なら利息に対して20.315%の利子税が課税されます。
例)預金利息が1万円なら税金は2,031円(1万円×20.315%)
税率は所得税15%、地方税5%と、復興特別所得税(*)が0.315%です。
(*復興特別所得税:東日本大震災復興の財源確保のため2037年末まで納付)
いっぽう投資信託などの金融商品で得た利益にも税金がかかるのですが、この税金が非課税になるのがNISAです。
NISA(ニーサ、少額投資非課税制度)は平成26年1月から導入された税制優遇制度で、導入への参考としたイギリスの個人貯蓄口座:ISA(Individual Savings Account)から「日本版のISA」としてNISA(Nippon Individual Savings Account)という呼称になりました。
NISAにも種類がある
NISAにもいくつか種類があります。
<NISAの種類>
- NISA(一般NISA)
- つみたてNISA
- ジュニアNISA
NISA(一般NISA)
いわゆるNISAは、その後に導入されたつみたてNISA、ジュニアNISAと区別するため「一般NISA」とも呼ばれます。(この記事ではNISAで統一)
NISAは金融機関(銀行、証券会社等)で専用のNISA口座を開設することで、その口座内で購入した投資信託や株式から得た利益が非課税になる仕組みで、この基本部分はつみたてNISA、ジュニアNISAも変わりません。
NISAは成年が利用でき投資信託や株式を年間120万円まで購入でき、利益が非課税となるのは最大5年間となっています。
つみたてNISA
つみたてNISAは長期・積立・分散投資を支援する非課税制度で、購入は一定の投資信託に限定されています。
年間40万円まで購入可能で、最大20年間非課税となります。
ジュニアNISA
未成年に限定されているのがジュニアNISAです。
未成年(19歳まで)が対象で購入可能なのは80万円までの投資信託、株式で非課税となるのは最大5年間です。
ただしジュニアNISAは新規開設が2023年までなので、非課税期間は一律5年ではなく、満20歳までとなる場合もあります。
なお2024年以降制度の見直しが予定されています。
参照:金融庁
NISAは金融商品ではありません
ここまで説明したようにNISAは「少額投資非課税制度」であり、個別の金融商品ではありません。
これも意外と勘違いしている方は多いようです。
先日も窓口でお話しした別の奥さんも
「NISAが儲かると聞いて、ずっと興味がありました。でも、こちらの銀行窓口で他のお客さんが金融商品を勧誘されていたのを見ていたで、質問したら自分も勧誘されるんじゃないか? 怖くて聞けなかったんです。」
とのことでした。
この奥さんもNISAは非課税制度のことと説明したところ
「えーっ!NISAって投資信託の名前じゃないですか? 私は〇〇(NISAに似た横文字の投資信託商品名)みたいなものかと思ってました」
という反応でした。
とはいえこれから投資を始めようかと検討している人なら、とりあえず「NISAで始める投資」というイメージで、ここからは考えていきましょう。
NISAを定期預金と比較して考える
ここからはNISA(NISAで始める投資)を定期預金と比較しながら考えていきましょう。
定期預金は(今さらですが、こちらもおさらいで)元本保証の預金商品で、銀行などの金融機関が扱う定期預金、ゆうちょ銀行が扱う定期貯金などがあります。
元本保証に加え利息も保証されていて、預入期間により金利が決まります。
また金融機関が破綻した場合でも、他の預金と合算して元本1,000万円とその利息は保証されます。(いわゆるペイオフ)
安全性
言うまでもなく定期預金は元本保証です。
ただし「定期預金」と名がついてもアメリカドルなどの外貨建ての場合は為替相場によっては日本円にしたときに存する場合もありますし、一部の特殊預金(「仕組預金」などの名称でこちらは運用商品と言ったほうが近い)も元本保証ではありません。
いっぽうNISAで運用するのは投資信託や株式なので、すべて元本保証ではありません。
ですが、一様に「定期は安全、NISAは危険」とは言い切れません。
現在の金利情勢では定期預金の利息はゼロに近いもので、いっぽうのNISAによる運用は利益も期待できるからです。
これは私がお客様に投資商品を説明するときに話しているセリフです。
年齢
定期預金もNISAも年齢に上限はありません。(*NISAは成年が利用、ただし上限なし)
投資は年配の人に向かないとも言い切れないので、いくつから始めても早すぎる、遅すぎるといったことはありません。
その意味では年齢で定期もNISAも差がないと言えます。
ちなみに預金でもNISAに似た非課税制度が、かつてはありました。
こちらは「少額貯蓄非課税制度」と呼ばれ350万円までの預貯金利息が非課税になる「マル優(マルユウ)」と350万円までの国債などの「マル特(マルトク)」などで、平成15年の制度改定で廃止され、現在は障害のある方など特定の人が利用できる制度に変わっています。
流動性
流動性とは「お金が必要な時に使える状態になっているか」という尺度で、決算書などで「流動資産(現金や預金など、現金もしくはすぐに現金化可能)」「固定資産(不動産などすぐには現金化できない)」と表現されるのと同じです。
ちなみに決算の仕分けで預金はすべて流動資産になります。(定期預金も解約すればすぐ現金になるので)
このように定期預金は、必要な時にはすぐ使えます。(利息は少なくなりますが)
いっぽうNISAの場合、運用している株式や投資信託の種類によっては、解約の申し込みをしてから資金化されるまで数日(「クローズド期間」などと呼びます)かかる場合もあります。
また投資元本が割れていて、現金化すると損するので使えないケースもあり、流動性の面ではNISAは定期預金に勝てません。
NISAがおすすめな人~銀行員はこう考えます
ここまで説明したNISAと定期預金の比較などを踏まえ、銀行員としてNISAがおすすめな人について説明します。
銀行員が考えるNISAがおすすめな人とは「お金に色を付けて分けられる人」「お金に働いてもらうのを待てる人」です。
お金に色を付けて分けられる人
お金に色を付けて分けられる人とは、自分のお金を区別できる人といった意味です。
NISAは元本保証ではありませんし、すぐに現金化できない場合もあります。
ですから、自分の手元にあるお金をすべてNISAにつぎ込んでしまうと、いざ必要なときに困ってしまうことになります。
またライフスタイルで自分にとってお金のつかいみちの重要度も人それぞれです。
「世の中に使わないお金などは存在しない」というのは私の銀行員としての持論(例・高齢で使いきれないお金でも、子孫に残すという使いみちがある)です。
それでも
「すぐに使うお金」
「しばらくは使わないお金」
「当分の間使わないお金」
とタイムスケジュールで分け、すぐには使わないお金だけをNISAで運用すべきだからです。
お金に働いてもらうのを待てる人
上記した「すぐ使わない」というのは時間軸の話ですが、それとは別にお金のつかいみちが決まっているか?という観点でも分けるべきです。
たとえば今は使わないお金が100万円あっても、それは住宅ローンの繰り上げ返済用に取っておきたいと考えているならNISAで運用はせず、増えなくても元本保証の定期預金にするべきでしょう。
いっぽう大事なお金には違いないが、特に使い道も、使う時期も決まっていないお金のことを銀行では「余資(よし)」と呼んでいます。
これは「余った資金」ではなく「余裕資金」という意味です。
このように、目的においても時間においても余裕のある資金なら、NISAで運用し増えてくれるのを楽しみに待つこともできるでしょう。
私は投資で資金が増えることを「お金に働いてもらう」と表現しています。
運用は仕事と同じで調子がいい時ばかりではないですし、いろいろ考えたり工夫が必要だったりするところも、そして基本的にはじっくり落ち着いて取り組む姿勢が必要なのも「働く」と表現できるからです。
NISAで始める「楽しみに待てる投資」
NISAは年間120万円まで、投資で得た利益が非課税になる制度です。
「お金を色分け」し、虎の子ではない「余資」に「働いてもらう」のを楽しみに待てる。
そんな投資を、NISAではじめてみてください。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)
参照:日本証券業組合
【岸田首相がNISA恒久化を表明】全投資家注目ニュースに大きな進展あり