税務調査といえば「マルサ」を思い浮かべる人も多いかと思いますが、税務署が行う税務調査と、マルサ(国税局査察部)が行う査察調査は別物です。
今回は税務調査と査察調査の違いと、マルサの調査実績について解説します。
給与収入しかないのに税務調査を受ける僅かな可能性 余計な税金を支払わないために気を付ける点
税務署の税務調査と査察調査の違い
税務調査と査察調査の決定的な違いは、
です。
税務署の調査担当者が行う税務調査は、「質問検査権」を行使して行う「任意調査」であり、調査対象者の同意なく事務所や自宅などを調べることはありません。
それに対し、マルサの査察調査は「強制調査」なので、調査対象者の同意がなく事務所内を調べることができますし、証拠となる書類等を差押えすることも可能です。
査察に強力な権限が与えられているのは、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持するために、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及する目的があるからです。
令和3年度の査察の調査件数と実績
国税庁が公表している「令和3年度 査察の概要」の資料では、令和3年度に査察が着手した件数は116件と、前年度の111件よりも増加しています。
しかし新型コロナウィルスが流行する以前は150件以上着手していましたので、数年単位でみると着手件数は減少しています。
着手件数が少ないことにより、令和3年度に査察調査によって把握された脱税額の総額も減少していますが、1件当たりの脱税額は9,900万円と直近5年間では最大です。
1件当たりの脱税額が増加した要因としては、より悪質な納税者を優先的に調査したことによる影響が大きいと考えられ、一般の税務調査でも同様の影響が確認されています。
また査察調査で告発を受けた業種は、3年連続で建設業と不動産業が1位と2位を占めています。
参照:国税庁「令和3年度 査察の概要(pdf)」
マルサが重点的に調査している事案とは
令和3年度のマルサは、「消費税事案」・「無申告事案」・「国際事案」などを中心に、時流に即した社会的波及効果の高い事案を積極的に調査したとしています。
消費税事案とは、消費税の仕入税額控除制度などを利用した消費税不正受還付に関する事案です。
不正還付は国のお金をだまし取る悪質性の高い事案であるため、重点項目として積極的に調査が行われています。
無申告事案がマルサの重点事案となっているのは、所得税や法人税等は納税者の自発的な申告・納税を前提とする「申告納税制度」を採用しており、申告をしない行為は申告納税制度の根幹を揺るがすものですので、脱税犯の取り締まりを強化しています。
また近年国税の課題になっているのが、国際的な脱税です。
経済社会のグローバル化の進展に伴い、個人・企業が国境を越えて経済活動をしていますので、国内取引よりも内容が複雑・多様化します。
脱税犯は海外法人を利用し、不正スキーム事案や海外に不正資金を隠すケースがあるため、マルサは国際事案も重点事案として取り組んでいます。
一般の人が査察調査の対象者となる可能性は極めて低い
マルサは悪質かつ脱税額が多い人(事業者)を対象に調査しますので、一般の人が査察調査を受けることはないです。
ただし、仮想通貨取引などで億単位の利益を出したにもかかわらず確定申告をしていなかった場合には、ある日突然自宅にマルサが訪れるかもしれません。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)