企業型DC制度において、「マッチング拠出」と言う制度があるのはご存じでしょうか。
端的には企業も従業員も双方で掛金を拠出できる制度ですが、前提としていくつかの制約があります。
企業型DC制度は中小企業でも導入する企業が増えており、今回は「企業型DC制度のマッチング拠出」にフォーカスをあて解説していきます。
企業型年金の加入対象者
企業型DCは厚生年金の適用事業所の事業主が実施できる制度であり、対象はその会社の60歳未満の従業員・役員とされ、規約に定めがある場合、65歳到達まで可能(2022年5月からは厚生年金の被保険者であれば70歳まで)とされています。
そして、加入者は前提として「第1号等厚生年金被保険者」とされていますが、これは民間企業と私学共済を指します。
また、加入者の他には運用指図者も対象となります。
運用指図者とは何らかの事情で、掛金の拠出をせず、運用のみを行う方です。
マッチング拠出とは
企業型DC制度は規約に基づき拠出限度額の範囲内で、会社が掛金を拠出します。
加入者全員に対して、定額または定率あるいはその組み合わせにより算定した額を事業主掛金として拠出し、資産管理機関へ払い込みを行います。
マッチング拠出は加入者本人が事業主掛金へ上乗せして、掛金を拠出することです。
加入者が拠出する掛金は全額が所得控除の対象となることから、老後の資産形成の準備を進めながら税制優遇も受けられるというメリットがあります。
マッチング拠出の留意点
マッチング拠出を行うにあたっては複数の留意点があり、
・ 加入者掛金は事業主掛金を超えられないこと
・ 加入者掛金は事業主を通じて拠出する必要があるため、給与天引きとなります。
次に企業側の留意点でもありますが、拠出限度額の管理と年末調整は事業主が行わなければなりません。
なお拠出限度額は、事業主掛金との合算額で計算することから、結果的にマッチング拠出により、掛金額の上限が増えるというわけではありません。
具体例として、仮に拠出限度額が55,000円の場合で事業主掛金が2万円であった場合、加入者掛金が2万円以下であれば問題ありません。
企業側の掛金を超えられない理由として、あくまで企業型DCの掛金納付者の主体は企業側であることからとされています。
なお掛金拠出の上限額は、以下のように定められています。
既存の企業年金がある場合:月額2万7,500円(年額33万円)
既存の企業年金がない場合:月額5万5,000円(年額66万円)
となります。
従業員側のメリットとして、マッチング拠出した従業員拠出分は全額が小規模企業共済等掛金控除となります。
また今後改正予定ですが、マッチング拠出をする場合、iDeCoへの同時加入はできません。
その他の留意点
例え加入者が拠出した分であっても、60歳より前に引き出しをすることはできません。
また、企業型年金では規約において、事業主が掛金返還を求められる対象が「勤続3年未満の者」に限られています。
すなわち、勤続3年以上が確定した加入者は、潜在的な受給権が付与されたことを意味します。
極端な例ですが、懲戒処分を科されたような場合でも返還させることができません。
他には、企業型DCの老齢給付金について、既に裁定請求をした方については、再び企業型DCに加入することはできません。
(裁定請求を行っていたことが後日判明した場合、加入日に遡り、加入者資格を取り消すこととなります)。
マッチング拠出は企業と加入者双方で進める制度
マッチング拠出は、企業と加入者双方で資産形成を進めていくこととなります。
企業が「一方的に」掛金を拠出する手法とは異なり、加入者自身も自分事として老後の資産形成を進めることとなります。
また、加入者拠出分に限り一定の節税効果もあることから、コロナ禍により事業主の掛金負担が重い場合、マッチング拠出を活用することで持続的な企業型DCの運用も可能となります(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)
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