Yahoo! JAPANニュースなどで年金に関する記事を読んでいると、年金と生活保護を比較したうえで、生活保護という制度や、生活保護の受給者を批判するコメントを、よく見かけます。
例えば年金の保険料をきちんと納付した方より、生活保護の受給者の方が豊かな生活を送るのは、納得できないというものです。
また年金の保険料を未納にして、無年金になってしまった方を、税金で助けるのは納得できないというコメントもあります。
厚生労働省(pdf)が2022年2月に発表した、「生活保護の被保護者調査(令和3年11月分概数)」によると、2021年11月時点で生活保護を受給していたのは、163万6,040世帯でした。
この中で高齢者世帯は90万7,945世帯だったため、全体の55.5%を占めております。
また高齢者世帯の内訳を見てみると、単身世帯は51.2%、2人以上の世帯は4.3%だったため、生活保護を受給する世帯の半分くらいは、高齢者の単身世帯のようです。
年金受給者も高齢者の方が多いため、年金と生活保護は比較されやすいのかもしれません。
ただ所定の要件を満たすと、年金受給者でも生活保護を受給できるため、年金と生活保護を対立的に捉えない方が良いと思います。
また20歳から60歳までの40年間に渡り、一度も未納にしないで国民年金の保険料を納付しても、原則65歳から受給できる老齢基礎年金(2021年度額)は、78万900円(月額だと6万5,075円)にしかなりません。
こういった点から考えると生活保護の受給者は、年金の保険料の未納者ばかりではないと思うのです。
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政府が貧しい人々の面倒を見ることに同意しない日本人が多い
ピュー・リサーチ・センターというアメリカのシンクタンクが、日本を含めた世界47か国を対象にして、2007年にアンケート調査を実施しました。
この調査の中には「政府は貧しい人々の面倒を見るべき」という意見に、同意するか否かという質問があったのです。
同意するという回答がもっとも多かったのは、96%のスペインになりますが、他の国でも80~90%くらいが同意すると回答しておりました。
一方で日本においては、同意すると回答した方が59%しかおらず、世界47か国の中で最下位でした。
かなり昔の調査にもかかわらず、ずっと頭に残っていたのは、調査結果が意外に思えたからですが、冒頭で紹介したような生活保護に対する批判を見ていると、あながち間違いではないのかもしれません。
政府が貧しい人々の面倒を見ることに、同意しない日本人が多いということは、政府は生活保護にかける予算を、他の国より削減しやすいと思うのです。
実際のところ安倍元総理は、生活保護費の1割削減を公約に掲げ、2012年に政権交代を実現しました。
これ以降は生活保護にかける予算の、大幅な削減が続いておりますが、もし安倍元総理が年金額の1割削減を公約に掲げていたら、国民からの大きな反発を招いたため、選挙に勝てなかったかもしれません。
予算の削減がこれからも続くとしたら、将来において経済的に困った時に、生活保護を受給するのが更に難しくなります。
そのため老後資金の準備などの、各人の自助努力を強化して、老後の生活を乗り切っていく必要があるのです。
退職準備額が0円の割合は40%程度で推移している
フィデリティ・インスティテュート退職・投資教育研究所は、20~50代の1万人程度のサラリーマンを対象にして、退職準備や年金制度に関するアンケート調査を、2010年から継続的に実施しております。
この中で個人的に注目しているのは、「あなたは退職後の生活のための資産(退職準備額)をいくら保有していますか」という質問に対して、0円と回答した方の割合になります。
退職準備額と老後資金は同じ意味だと思うので、この質問に対する調査結果を見れば、老後資金ゼロの割合がわかるはずです。
また2010~2020年までの8回のアンケート調査で、退職準備額が0円と回答した方の割合は、次のようになっております。
≪画像元:フィデリティ投信(pdf)≫
これを見ると退職準備額が0円と回答した方の割合は、直近の2020年の調査では改善しておりますが、それでも36.7%になるため、老後資金ゼロの方は現在でも、約4割はいると推測されるのです。
日本人の42.7%は老後の生活費に対する備えをしていない
フィデリティ・インスティテュート退職・投資教育研究所のような、金融系の民間機関が実施したアンケート調査は、金融商品を購入したくなるような調査結果を出すため、信じることができないと主張する方がいるようです。
そこで内閣府という公的機関が、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの、60歳以上の男女1,000人程度を対象にして、2015年に実施したアンケート調査についても紹介しておきます。
このアンケート調査の中には、50代までに行った「老後の生活費に対する備え」という質問がありますが、調査結果は次のようになっております。
≪画像元:内閣府(pdf)≫
日本は「特に何もしていない」と回答した方の割合が、42.7%になっているため、アメリカの20.9%、ドイツの26.1%、スウェーデンの25.4%と比較すると、かなり高くなっているのです。
また42.7%という調査結果は、退職準備額が0円と回答した方と数字が近いため、日本人の約4割は老後資金ゼロというのは、あり得ない話ではないと思うのです。
投資や職業能力を高めるなどの老後対策を実施する
年金だけで生活するのは難しいので、老後資金ゼロという約4割の方は、将来に生活保護を受給する可能性があると思います。
これだけ生活保護を受給する可能性のある方が存在しているのに、多くの国民が生活保護を批判するため、これに関する予算を政府が削減しやすいというのが、日本の問題点だと考えているのです。
また予算の削減が続けば、生活保護を受給するのが更に難しくなるため、自助努力を強化しないといけないのに、老後資金ゼロの割合が依然として高いというのも、日本の問題点だと考えているのです。
これに加えて内閣府のアンケート調査によると、「債券・株式の保有、投資信託」と回答した日本人は7.1%しかおらず、アメリカの33.2%、ドイツの13.5%、スウェーデンの40.5%と比較すると、かなり低い点も問題だと思います。
その理由としては周知のように、日本は金利が低いため、預貯金だけは老後資金が増えないからです。
現在はインターネット証券であれば、月々100円から投資信託の積立ができるため、「債券・株式の保有、投資信託」と回答する日本人は、もっと増えても良いと思います。
また投資信託を積立する時に、つみたてNISAなどの利益に対して課税されない制度を利用すれば、税金として徴収される分を手元に残せるため、老後資金が貯まりやすくなるのです。
それでも投資したくない方、または金銭的な余裕がまったくない方は、内閣府のアンケート調査では6.4%だった「老後のために職業能力を高める」を、強化すれば良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
「65歳になる2日前に退職」するのがポイント 「老齢厚生年金」と「失業給付」の両方がもらえる方法を説明します。