
不動産売却時における消費税の負担義務は、「誰が」「どのような目的で」売却を行うかによって大きく変わるため、しっかりと基本的な知識を理解しておかなければなりません。
本コラムでは、不動産売却時における消費税の考え方や、課税事業者かどうかを見極める方法、消費税等の税負担を抑える具体的な方法を解説します。
不動産売却と消費税の基本

不動産を売却する際に消費税がかかるかどうかは、一律に決まっているわけではなく、売却する不動産の種類や売主の立場によって異なります。
土地の売却については消費税の課税対象外、つまり非課税とされていますが、建物については課税されるケースがあります。
建物付きの不動産を売却する際、個人が自宅として使用していた住宅を売却するケースでは、基本的に消費税はかかりません。しかし、売主が法人などの課税事業者である場合や、個人であっても事業として継続的に売買を行っているとみなされる場合には、建物部分の売却金額に対して消費税が発生します。

このように、消費税の課税有無は「誰が」「どのような目的で」売却を行うかによって変わるため、事前に自身の立場や取引内容を正しく把握しておくことが重要です。
【前提】消費税は誰が・いつ支払う?

消費税とは、商品やサービスの購入時に消費者がその代金と一緒に支払う税金のことです。
消費税が課される取引については、消費税法により次の4つの条件をすべて満たす取引が対象となります。
- 国内において行うもの(国内取引)であること。
- 事業者が事業として行うものであること。
- 対価を得て行うものであること。
- 資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供であること。
不動産の売却は資産の譲渡に該当し、これを事業者が行う場合には消費税が課されます。事業者とは、「課税事業者」を指します。
消費税の納税義務者
不動産売却における消費税の納税義務者は、売主が「課税事業者」であるかどうかによって決まります。
まず、個人事業主や法人を問わず、適格請求書発行事業者(インボイス登録者)となった場合は、消費税の納税義務者となります。適格請求書発行事業者でない場合は、個人事業主と法人で課税事業者になるかどうかの条件が異なりますが、基本的に前々年および前年の課税売上高や給与支払額などの金額などによって決まります。
適格請求書発行事業者でない個人事業主については、開業当初は免税事業者となります。前々年の課税売上高が1,000万円超、または前年の特定期間(1~6月)の課税売上高が1,000万円超の場合、課税事業者となります。
適格請求書発行事業者でない法人については、資本金が1,000万円以上の場合は、設立当初から課税事業者となります。一方で、資本金が1,000万円未満の場合は、1期目は原則として免税事業者となります。2期目は、特定期間(前期の前半6ヵ月間)の課税売上高および給与等支払額の両方が1,000万円超となると課税事業者となります。
そのため、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円以下であれば免税事業者となります。3期目以降は、前々期の課税売上高が1,000万円超となると課税事業者となります。
個人事業主や法人が行う売買が対象となり、個人の居住を目的とした居住用財産における売買は以下の条件に当てはまりません。
事業形態 | インボイス未登録者 | インボイス登録者 (適格請求書発行事業者) |
---|---|---|
個人事業主 | ・開業時は免税事業者。 ・前々年の課税売上高が1,000万円超、または前年の特定期間(1~6月)の課税売上高が1,000万円超の場合、課税事業者となる。 | 登録日から課税事業者。 |
法人 (資本金1,000万円未満) | ・1期目は免税事業者。 ・2期目は特定期間(前期の前半6ヵ月間)の課税売上高および給与等支払額の両方が1,000万円超であれば課税事業者となる。 ・3期目以降は、前々期の課税売上高が1,000万円以内であれば課税事業者となる。 | |
法人 (資本金1,000万円以上) | 設立時から課税。 |
消費税の納税時期
不動産売却で発生した消費税を納めるタイミングは、売主が個人か法人かによって異なります。
個人事業主の場合、消費税は原則として毎年の確定申告にあわせて申告・納税します。具体的には、1月1日から12月31日までの課税期間に対する申告と納税を、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に行う必要があります。
一方、法人の場合は原則として事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内に税務署へ消費税の申告と納税を行います。例えば決算期が3月末の法人であれば、5月末までに納税を完了させなければなりません。法人の場合、直前の課税期間の消費税の額が48万円超の場合や事業の規模や取引の頻度によっては、年1回ではなく「中間申告」と「中間納付」が義務付けられています。
直前の課税期間の消費税額 | 中間申告の回数 | 納付金額 |
---|---|---|
48万円超~400万円以下 | 年1回 | 直前の課税期間の消費税額の1/2 |
400万円超~4,800万円以下 | 年3回 | 直前の課税期間の消費税額の1/4 |
4,800万円超 | 年11回 | 直前の課税期間の消費税額の1/12ずつ |
消費税の納付は窓口での現金支払いや口座引き落とし、インターネットバンキングによる納付、クレジットカード決済、コンビニでの納付など、さまざまな方法で納付することができます。
不動産売却で消費税が課税されるケース
不動産の売却で消費税が課税されるのは、売主が課税事業者であり、事業用として使用していた建物を売却する場合です。例えば、賃貸用マンションや店舗などを事業として所有・運用していた場合、その建物部分を売却する際には消費税がかかります。
一方で、課税事業者であっても自宅を売却する場合には消費税はかかりません。消費税は「事業者が事業として行うもの」に対して課されるため、事業とは無関係な私的な取引とみなされるためです。ただし、事業と私用が混在する物件では、事業に使っていた割合に応じて課税されることもありますので、事前に税理士に確認しましょう。
不動産売却で消費税が課税されないケース
以下に紹介するケースでは、不動産の売却により消費税が課税されることはないものの、間接的に消費税制度やインボイス制度の影響を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
土地の売却や貸付をするとき
土地の売却や貸付については、消費税法上「非課税取引」と定められており、消費税は発生しません。これは、土地自体が利用価値を持つだけで消費される性質のものではないという考え方に基づくためです。
例えば個人が所有していた土地を売却する場合はもちろん、法人が事業用地として保有していた土地を手放す場合であっても、消費税の課税対象とはなりません。また、土地と建物を同時に売却する場合は、「建物部分」の売却代金にのみ消費税が課税されます。
個人や免税事業者が建物を売却するとき
建物の売却であっても、売主が不動産業を営んでいるとみなされない個人や免税事業者である場合には、消費税は課税されません。課税事業者でない以上、そもそも消費税を申告・納税する義務がないためです。
しかし、不動産業を営んでいるとみなされない個人であっても建物の売却によって課税売上高が1,000万円を超えた場合には、翌々年から課税事業者となる可能性があるため注意が必要です。ただし、課税事業者となっても、副業などを行わず給与所得のみで課税売上高が発生しない会社員などの場合は特に問題とならないでしょう。
不動産売却とインボイス制度の関係

不動産売却において、売主が課税事業者である場合、建物部分の売却価格に対して消費税がかかり、その分を国に納める義務があります。
ただし、2023年10月1日から始まったインボイス制度に伴い、免税事業者から新たにインボイス発行事業者として課税事業者となった場合には、消費税負担を軽減する特例が設けられています。この特例は、2026年9月30日までの間、消費税の納税額を売り上げにかかる消費税額の2割とすることができる、いわゆる2割特例と言われる制度で、消費税の納税負担を抑える有利な制度となっています。
また、事業用の物件を売却する場合には、インボイス(適格請求書)の有無が取引の大きな判断材料となる可能性があります。例えば店舗や事務所などの事業用物件を売却する場合、売主と買主の双方が課税事業者であれば、売主がインボイスを発行することで、買主は仕入税額控除を適用することができ、税負担を抑えられるからです。
ただし、アパートやマンションなどの居住用賃貸物件については、2020年の税制改正にて、居住用賃貸建物の取得や建設に係る消費税が仕入税額控除の対象外とされ、建物取得時の大きな消費税負担に関しては、インボイスの有無による影響がなくなりました。
実際に課税事業者として登録すべきかどうか、インボイス制度をどう活用するか、そして消費税を抑える節税方法については、専門的な判断が求められます。スムーズな売却と不利益の回避のためにも、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
不動産売却における消費税等の節税対策
不動産は一般的に高額な資産であるため、不動産に関連する税負担も高額になりがちです。
そこで以下に紹介する消費税等の節税方法を参考として、不動産売却における売却率を高める工夫をしましょう。
売却時期を工夫する
不動産売却に関する不動産については、「課税事業者かどうか」が大きなポイントとなるため、課税事業者ではない個人が売却する際には売却のタイミングに注意が必要です。
例えば、2023年に不動産を売却して3,000万円の利益を得た場合、2年後の2025年には課税事業者となり、その状態で再び不動産を売却すると、建物部分に対する消費税を納める義務が発生する可能性があります。しかし、まだ課税事業者ではない2024年のうちに売却を済ませることができれば、消費税の納税義務を回避できます。
このように、売却のタイミングを調整することで税負担を抑えることも可能です。もっとも、近年は税制が毎年のように大幅に変化しているため、売却時期を見極める際は税理士など専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。また、消費税のみを考慮して売却時期を検討すると、思うような価格で売却できないことも想定されるため、トータルの収支を考え判断しましょう。
特例や控除を活用する
不動産売却時には消費税だけでなく、譲渡所得に対する所得税や住民税も発生します。譲渡所得は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。これらの負担を軽減するために、各種特例や控除を活用しましょう。
具体的には、自宅を売却する際には「3,000万円の特別控除」が利用でき、譲渡所得から最大3,000万円までを差し引くことが可能です。また、売却益を得た資金で新たに不動産を購入する場合は、「買換え特例」を適用することで課税を将来に繰り延べることができます。
これらの制度は、直接的に消費税を減らすものではありませんが、総合的な税負担を抑えるうえで大きな効果があります。制度の適用には条件や期限があるため、計画的に利用することをおすすめします。
特に売却不動産が長期譲渡所得に該当するか短期譲渡所得に該当するかによって、譲渡所得の税額が大きく変わるため、事前に確認しておくと安心です。長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いや、税額の計算方法については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
【関連記事】長期譲渡所得と短期譲渡所得とは?5年以内の不動産売却は注意が必要
不動産売却時の消費税に関するQ&A

最後に、不動産売却時における消費税に関する、よくある疑問と答えをまとめました。
個人がマイホームを売却した場合、消費税はかかる?
個人が自らの居住用として利用していたマイホームを売却する場合、消費税はかかりません。マイホームの売却は、営利目的の事業行為ではなく、あくまで私的な資産の譲渡とみなされるため、消費税法上は非課税取引とされます。
個人事業主として事業用不動産を売却した場合、消費税はどうなる?
個人事業主が自身の事業に利用していた不動産を売却する場合、その取引は事業の一環とみなされるため、原則として消費税が課税されます。ただし、「免税事業者」である場合、たとえ売却が事業に関連していたとしても、消費税を納める必要はありません。
インボイス登録してから不動産売却した場合は、消費税を全額納税する必要がある?
2023年10月から始まったインボイス制度では、経過措置として「2割特例」が用意されているため、インボイス制度に登録して適格請求書発行事業者となった場合でも、必ずしも全額納税しなければならないとは限りません。
ただし、この特例の適用には条件があるため、実際にどのような影響があるのか、事前に税理士などの専門家と相談しておくことをおすすめします。
不動産売却時に消費税以外にかかる税金はある?
不動産を売却する際には、消費税だけでなく、さまざまな税金が関係してきます。例えば売買契約書には印紙税が課税され、物件の名義を変更する際には登録免許税が必要です。また、売却によって利益が出た場合は、譲渡所得として所得税および住民税が課されます。これらは売却価格や所有期間などによって税率や控除額が異なるため、事前の計算が重要です。
さらに、不動産取引そのものに消費税がかからない場合でも、仲介業者への手数料や司法書士への報酬、ローンの繰上返済手数料などには消費税がかかることが一般的です。これらの費用は、免税事業者であっても免除されるものではないため、トータルの費用としてあらかじめ考慮しておくと安心です。
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