「不動産の売却を検討しているけれど、どの媒介契約を活用すべきか悩んでいる」という方もいるのではないでしょうか。 本コラムでは、媒介契約の意義や内容、媒介契約それぞれの特徴についてわかりやすく解説します。自身のニーズに合わせた媒介契約を選択することにより効率的でスムーズな売却を実現することができるため、基本的な知識をしっかりと確認していきましょう。
媒介契約とは?
はじめに媒介契約の基本や目的、具体的な契約内容について詳しく解説します。3種類の媒介契約の違いや自身のニーズに合わせた契約の選び方を理解するうえで重要な前提知識となるため、しっかりと確認していきましょう。
不動産の売却・賃貸にあたり不動産会社と交わす契約のこと
媒介契約とは売主と買主、貸主と借主の間に立ち売買契約や賃貸契約を成立させることをいいます。宅地建物取引業法(以下、宅建業法)34条の2にて、媒介契約を締結した場合には契約書を作成して交付することが義務づけられています。媒介契約により、依頼者(不動産オーナー)と不動産会社との間で業務内容や責任範囲が明確となり、売買契約(賃貸借契約)締結までサポートを受けることが可能になります。
媒介契約は主に不動産の売買や賃貸借の際に必要となりますが、本コラムでは特に売却時の媒介契約について詳しく解説します。
なお『媒介』と『仲介』はほとんど同じ意味をもちますが、宅建業法にて『媒介』が用いられていることから、契約上も『媒介契約』と表記されることが一般的です。
媒介契約の主な内容
媒介契約には、取引を円滑に進めるために必要な事項が定められています。不動産業者は、売買・交換の媒介契約を締結した場合には、遅滞なく媒介契約書(34条書面)を作成する必要があります。賃貸借契約の場合は媒介契約書を交付する義務はありません。媒介契約書の主な項目・内容は下図の通りです。
具体的な内容は不動産会社によって異なりますが、多くの不動産業者では、国土交通省が作成したガイドライン(宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款)に準拠したものが用いられています。
必ずしもこのガイドラインに従って媒介契約書を作成されるとは限りませんが、不動産会社が提示する契約書がガイドラインと大きく異なる場合には、その理由の説明を求めるようにしましょう。
媒介契約の項目 | 媒介契約の内容 |
---|---|
標準約款に基づくか否か | 国土交通省の標準約款に基づいて作成された契約書類か否か記される |
媒介契約の種類 | 媒介契約には3種類(専任媒介契約、専属専任媒介契約、一般媒介)ある。そのうちのどれにあたるかが記される |
物件の所在 | 対象となる物件または購入希望条件が記される |
売買すべき価格または評価額 | 物件の売買すべき価格または評価額が記される |
不動産会社の義務と業務 | レインズへの登録機関や定期報告の頻度など、基本的な業務内容について記される。 [定期報告] ・専属専任媒介契約は1週間に1回以上(休日含む) ・専任媒介契約は2週間に1回以上(休日含む) ・一般媒介契約は義務なし [指定流通機関(レインズ)への登録の有無] ・専属専任媒介契約は5日以内に登録(休日を除く) ・専任媒介契約は7日以内に登録(休日を除く) ・一般媒介契約は規定なし |
有効期間および解除 | 専任媒介契約・専属専任媒介契約の場合、有効期間は3ヵ月が上限となる。一般媒介契約の場合、法律上は期間の上限は定められていないが、多くは3ヵ月を上限としている |
仲介手数料(報酬) | 不動産会社に支払う仲介手数料や支払時期について記される |
依頼者の義務 | 他社への依頼・自己発見取引の可否が記される |
違約金 | 義務を怠った場合のペナルティについて記される |
反社会的勢力の排除 | 不動産取引から「反社会的勢力の排除」を目的に、平成23年6月以降、反社会的勢力排除のための標準モデル条項が導入されている |
建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項(平成30年4月1日以降) ※既存物件(中古)の場合のみ記載 | 既存住宅(中古物件)の取引時に建物状況調査(構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分の状況調査)を希望する者に対して、調査業者をあっせん(紹介)するかについて記される |
このほか、一般媒介契約の場合には明示型か非明示型かなど、媒介契約の種類に応じて項目が追加されます。
媒介契約の手数料(仲介手数料)
宅建業法では仲介手数料の上限額が定められており、どの形態の媒介契約であってもこの上限額を超える額を請求することはできません。上限額は不動産の売却価格に応じて以下のように定められています。
不動産の売買価格 | 仲介手数料の上限額 |
---|---|
〜200万円 | 売買価格 × 5%+消費税 |
200万円超〜400万円以下 | 売買価格 × 4%+2万円+消費税 |
400万円超〜 | 売買価格 × 3%+6万円+消費税 |
3種類の媒介契約の特徴と違い
媒介契約には、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介の3種類があります。違い・特徴を簡単にまとめると、次の通りです。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
---|---|---|---|
複数の不動産会社との契約の可否 | 〇 | × | × |
自己発見取引の可否 | 〇 | 〇 | × |
契約期間 | 法律上の制限はない (多くは3ヵ月以内) | 3ヵ月以内 | 3ヵ月以内 |
レインズの登録義務 | 不動産会社の任意 | 7営業日以内 (休日を除く) | 5営業日以内 (休日を除く) |
依頼者への報告義務 | なし | 2週間に1回以上 (休日を含む) | 週1回以上 (休日を含む) |
レインズとは
レインズ(不動産流通機構)とは不動産会社が物件情報を共有するための指定流通機構のことを指し、全国の不動産会社が利用する情報ネットワークです。レインズに情報を登録することで契約した不動産会社以外の会社でも物件情報にアクセスできるようになり、売却のチャンスが広がります。
一般媒介契約
一般媒介契約は3種類の媒介契約のなかでも最も自由度が高い契約形態であり、複数の不動産業者と同時に契約することも、自身で買い手を探すこともできる点がメリットです。一般媒介契約の契約方式には、他に依頼する不動産会社をあらかじめ記しておく明示型と、明記しない非明示型があります。
他の不動産業者・買い手と成約する可能性があることから不動産会社が積極的に営業活動を行わなかったり売却活動へのモチベーションにばらつきがあったり、不動産会社から依頼者に報告義務がないため情報共有が得られず、進捗状況を把握しづらかったりといったデメリットがあります。
また、不動産業者にレインズへの登録義務が課せられていないことから、物件情報が広がりにくく他の不動産業者を通じた申し込みを得られない可能性が高くなります。
一般媒介契約の詳しい説明や、メリット・デメリット、どのような人に向いているかについては、こちらの記事でより詳しく紹介しています。あわせて参考にしてください。
【関連記事】一般媒介契約のメリットや注意点とは?専任媒介・専属専任媒介との違い
専任媒介契約
専任媒介契約では、依頼者は自力で買い手を探すことも可能ですが、仲介を依頼する不動産会社は一つに限定されます。契約期間は3ヵ月以内と定められており、自動更新は認められておらず、期間の延長には再契約が必要です。
この契約では、契約締結日から7営業日以内(休日を除く)にレインズへ登録することが義務づけられています。さらに、売却活動の状況を2週間に1回以上(休日含む)報告する義務があり、売主にとって進捗状況を把握しやすい点がメリットです。
専任媒介契約は、一般媒介契約に比べると自由度がやや制限されるものの、比較的積極的な不動産会社による営業活動を期待できる点で、一般媒介契約と専属専任契約の中間的な契約形態といえるでしょう。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約は、専属媒介契約よりもさらに制限のある契約です。売主は自力で買い手を探すことができず、他の不動産会社と媒介契約を結ぶこともできません。
その代わり、不動産会社は確実に仲介手数料を得られることからモチベーションが高くなるため、積極的な売却活動を期待できます。また、レインズへの登録義務も契約締結から5営業日以内と短いため、売却できる可能性も高くなります。
専属専任媒介契約における報告義務は週1回以上となっており、取引状況を詳しく把握できる点もメリットとして挙げられます。契約期間の上限は3ヵ月以内と定められており、自動更新は認められていません。
【パターン別】どの契約形態にすべき?選び方のポイント
物件を売却する際、適切な媒介契約を選べるかどうかは成約を大きく左右します。そのため、契約形態ごとの特徴を理解し、自身のニーズに合った契約を選ぶことが重要です。
ここでは、売却状況や物件の特性に応じた契約形態の選び方を解説します。
需要の高い物件を売りたい場合
需要の高い物件を売却したい場合には、一般媒介契約が向いています。
一般媒介契約であれば、自身で売り手を探すことも、複数の不動産会社と契約することも可能なため、より多くの購入希望者にアプローチできる可能性があります。
例えば立地が良く、価格帯も妥当な物件であれば、比較的早期に買い手が見つかる可能性が高く、契約における自由度を確保しておくのがおすすめです。
売りにくい物件を売りたい場合
立地や築年数などの条件で売却が難しいと予想される物件の場合は、専任媒介契約か専属媒介契約がおすすめです。これらの契約形態では、一般媒介契約と比べて不動産会社のモチベーションが高くなるため、より積極的な売却活動を期待できます。
不動産会社にはそれぞれ得意な物件の分野があり、売却活動のノウハウや見込み顧客リストを抱えているため、売却したい物件タイプの扱いを得意としている不動会社を選べば、よりスムーズな取引を期待できるでしょう。
自分でも買い手を探したい場合
自身でも積極的に買い手を探したい場合には、一般媒介契約や専属専任媒介契約が適しています。需要の高い物件であれば一般媒介契約、そうでない場合には専任媒介契約を選ぶといいでしょう。
一方で、自分で買主を探す予定がまったくない場合には、不動産会社による積極的な営業活動を期待できる専属専任媒介契約がおすすめです。
信頼できる不動産会社を知っている
信頼できる不動産会社を知っているのであれば、専任媒介契約・専属専任媒介契約を選びましょう。不動産会社との信頼関係があれば、より積極的な営業活動を期待できます。
一方で、特定の不動産会社との取引経験がない場合や複数の不動産会社を比較検討したい場合、同時に依頼したい場合には、一般媒介契約から始めることをおすすめします。
不動産会社を選ぶ際のポイントについては、後ほど詳しく紹介します。
売却にかかる手間を少なくしたい
売却活動を不動産会社に一任したい場合には、専任媒介契約か専属専任媒介契約が向いています。これらの契約形態であれば、契約できる不動産会社が1社に限定されるため、売却活動に関する窓口を一本化できるためです。
専任媒介契約では報告義務が2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上となっているため、販売状況を小まめに把握したいという場合には、専属専任媒介契約を選ぶとよいでしょう。
不動産会社を選ぶ際のポイント・注意点
不動産会社を決める際には、単に有名な会社や高額な査定額を提示する会社を選べばいいというわけではなく、自身のニーズや物件のタイプに応じて最適な会社を選ぶ必要があります。
ここでは、売却活動を依頼する不動産会社を選ぶ際のポイントや注意点について解説します。
不動産会社の実績と評判を確認する
不動産会社を選ぶ際には、まずその会社の実績と評判を詳しく調査することが重要です。
特に、自身の物件と同じような種類や価格帯の取引実績があるかどうかが、重要なチェックポイントとなります。インターネット上の情報だけでなく、可能であれば実際に取引を行った方からの評判も参考にするといいでしょう。
料金体系と契約条件を確認する
媒介契約における手数料は、宅建業法により上限が定められています。契約前に必ず料金体系を確認し、法定の上限額を超えていないかをチェックしましょう。
また、手数料以外にも広告費用や諸経費など、追加で発生する可能性のある費用についても事前に確認することが重要です。不明な点があれば、その場で質問して明確にしておくことをおすすめめします。
対応の迅速さと丁寧さを確認する
不動産会社の対応の速さや、丁寧さも選ぶ際の重要なポイントです。初めての問い合わせ時に対応が遅かったり、説明が不十分であったりする場合、その後の取引もスムーズに進まない可能性があります。
逆に、迅速かつ親切な対応をしてくれる会社であれば、信頼関係を築きやすく、スムーズな取引が期待できます。メールや電話での対応も含め、会社の信頼性を判断するようにしましょう。
売却査定の客観性を確認する
売却査定は、媒介契約を結ぶ前の重要なステップです。査定額の高さだけでなく、その金額の根拠となる市場分析や周辺相場との比較など、客観的な説明ができる不動産会社を選びましょう。
根拠のある適正な査定額を提示し、丁寧な説明ができる会社とは信頼関係を築きやすく、その後の売却活動もスムーズに進むことが期待できます。
具体的な売却活動の進め方を確認する
不動産会社によって、活用する不動産情報サイトや得意とする物件タイプは異なります。そのため、過去の実績だけでなく経験を活かしてどれくらいの時間軸でどのような方法で売却活動を進めていくのか、具体的な計画を確認することが重要です。
物件の広告掲載方法や購入者へのアプローチ方法、売却までのスケジュールなど、具体的な売却戦略について説明を求めましょう。詳細な計画を提示できる不動産会社は、専門性と経験の深さに基づいた根拠ある戦略を持ち合わせている可能性が高いといえます。
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