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本当のミニマリストはパソコンじゃなくて“コマ”をもつ【Book】


一人暮らしを決めて実家を離れるとなったとき、部屋の大掃除をはじめた。「痕跡を残すな」なんて毒親の挑発もあり、あるものは“持ってく”か“捨てる”かの二択。着るか迷ってズルズルと引きずってきた衣服とも、全く興味がないのに乱獲してきたゲーセンのぬいぐるみとも、踏ん切りをつけなくてはならない。血の涙を流しながら選別を繰り返していった。

「今日からおれは、ミニマリストになるんや……っ!」

なんてことを考えながら、開けたのは一つのでかい収納ボックス。砂嵐ばりに埃を巻き上げて開いたその中には、それはもう「懐かしさ」のパラダイスだった。対戦カードが数千枚。何度もプレイしていたゲームのカセットが数百個。友達に負けて泣いていた日々がなんとなく蘇って、たまにほっこりした。きっと今よりお金をバンバン使って生活していたんだろうなあ。昔の自分になにかと嫉妬しながら咳をする。

そのなかに一つ、独楽(コマ)を発見した。小学生時代によく遊んでいたものだ。男なのに女投げが得意だったためにいじめられた過去がある持ち主のこのコマ、試しに回してみたら面白い。大掃除そっちのけで一日中触り、果ては一人暮らし先にまで持っていった。

面白さを広めたい欲に駆られて向かった先は、色々と面倒をみている中学生男子のところ。「超絶楽しいから、ほら」とかいって押し売りしたら、まさかのドハマり。持ち帰って中学校でちょっとしたブームを巻き起こしたらしい。コマ狂の子はコマ狂? でも少しでも役に立ってくれたのなら良かった。ちなみに返却はされていない。

昔使っていたものには大小関わらず愛着があって、それが世代を超えて価値を生み出してくれるならとても面白いと思う。使わなくなったとしても、捨てるだけが選択肢ではない。どんな形でも、活用できる道があるなあ…なんてしみじみ。

こんなノスタルジーな気持ちをうまく書籍で表現していると感じたのが『喫茶店の椅子とテーブル ~村田商會がつないだこと~』だ。この本は、閉店してしまった喫茶店の椅子やテーブルなどを仕入れ、必要としている人や喫茶店のもとへ届けるビジネスを行う「村田商會」の話。古いものと新しいものの架け橋となり、引き継いでいくその様は喫茶店愛に溢れている。写真をふんだんに使ってポップに、時にはレトロに各地のお店を紹介しているので、開いたことのない本にも、どこか懐かしさを感じてしまう。

たとえ使わなくなったとしても、価値がないと吐き捨てられようとも、好きな気持ちがあればいくらでも輝きを取り戻せる。知らない場所で、役に立てる。そんな何気ない存在価値を、もっと見つけていこうと思える良書だ。

どんなものでも、大切にしていきたいという考えが強くなった。私も今夜、中学生にコマの行方をLINEで聞いてみようかな。失くされてたらどうしよう…。

(実業之日本社 編集本部 鏡悠斗)

『喫茶店の椅子とテーブル ~村田商會がつないだこと~』村田龍一 著

本体価格1800円+税 実業之日本社




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