筑波精工 Research Memo(4):根幹技術は静電チャック(2)
■筑波精工<6596>の事業概要
3. 半導体業界の動向
(1) 半導体製造プロセス
一般的にメーカーが半導体(ICチップ)を製造するプロセスは、まずシリコンインゴットを薄く切りウエハを作成する。この時点でウエハの厚さは約700μあるが、この表面に真空蒸着、エッチング、アニーリング、スパッタリング、イオン注入などの方法で回路を形成する。パワー半導体に特徴的なプロセスとして、回路側の面に保護用のテープを貼付し、裏面を研磨して100~150μまで薄くした後に、さらに裏面へのイオン注入やアニールなどの工程が必要となる。これらの工程を何度も繰り返してようやく1枚のウエハの回路作成が完了するため、回路作成には通常は6~10日ほど、複雑な回路では1ヶ月近くかかる場合もある。
この間、ウエハは真空状態や高温のプロセスなどを何度も繰り返し移動するが、裏面研磨後のウエハは非常に薄く、回路形成によるストレス蓄積等のため反りや割れといった損壊が発生しやすい。そのため回路生成プロセスにおいては、ウエハの表面(表面の回路が形成された面)に保持材を貼り補強してから裏面の回路形成プロセス間を移動させて、回路裏面の回路形成が終了した後、最終的にこの保持材を分離する。従来は、この裏面保持の方法として保持材を接着剤で貼り付けて補強するのが一般的であったが、今後自動車分野でのパワー半導体(IGBT等)の需要が高まればウエハはさらなる薄型化と大口径化が進むと予想されている。接着剤方式では薄型化(100μ以下)と大口径化(12インチ)への対応が難しいと業界では見られている。
(2) 自動車向け半導体
近年自動車のEV化が急速に進んでいる。自動車のEV化にとって半導体の安定的な供給体制の確保は極めて重要な要素の1つに位置付けられている。特に動力(パワー)部分では、バッテリーから出た電気(DC=直流)をモーターで使用する交流(AC)に高速で変えるインバータが不可欠な基幹部品となる。インバータ用の半導体(IGBT)では、径を大きくすることで1枚のウエハからより多くの半導体を作成できるため生産効率が上がり、1個当たりのコストを下げられる。しかし大容量(高アンペア)かつ高電圧(高ボルト)で表面と裏面の間でスイッチングを高速で繰り返すため、ウエハが厚い状態では発熱量※が増えることから、発熱の原因となるオン抵抗値をできる限り小さくするためウエハを薄型化する必要がある。半導体メーカーは、発熱量の点から半導体をできるだけ薄いウエハで生産し、かつ生産効率の点から大口径のウエハでの生産を目指している。
※ インバータに使われるIGBTやMOSFETが発熱すると、EVのエネルギー効率が低下する。
(3) 半導体の薄型化と静電チャック
IGBTの生産プロセスでは、ウエハの薄型化がさらに進むという見方もある。さらに、多くのメーカーが生産効率の点から12インチ(300mm)ウエハへ移行する可能性が高い。その結果、ウエハはより薄く大きくなるため、反りや割れといった損壊のリスクが一段と高まる。それを避けるために保持材の貼付が必須となるが、従来の接着剤方式ではプロセスのなかで溶剤がガス化して半導体を汚染するリスクがある。また、保持剤を取り外す際にウエハが破損するリスクが高まるなど難点が多いと言われている。
そこで注目されているのが、同社が提供する静電チャック(方式)である。前述のとおり、同社の製品は一度電界をかけると半永久的に吸着保持を維持し、真空・高温などの環境下でも保持力が落ちないため、薄型化・大口径化されたウエハに対して最適な製品と言える。
(4) 半導体の微細化と静電チャック
もう1つの半導体業界の動向としては「微細化」が挙げられる。特にAI半導体などで超微細化が進んでいるが、現状ではプロセス装置や検査装置内のウエハ吸着固定による極微細な接触傷が歩留まりを低下させている。このため、キャリア(Carrier)でウエハをソフト吸着固定し、キャリアを固定することで間接的にウエハを固定する方法が歩留まり向上のために有効である。例えば5nmパターン以下では、「Supporter」(Carrier)を使えばウエハを全面でソフト吸着するため、ウエハ面積当たりに作用する吸着応力が大きく低下する。従来のメカクランプ等による集中応力によって起こされる局所的なウエハ接触傷を減らすことで、結果として歩留まりの向上につながる。その上、「Supporter」吸着面は半導体ウエハに比べて柔らかいPI樹脂で形成されているため、相対的に硬い半導体ウエハ面を傷付けにくい。
またEV向け半導体では、「ウエハの薄型化」が最重要課題であったが、AI半導体向けでは「欠陥検査時における接触傷の減少による歩留まり向上」が重要な課題となっている。現在の方法では、ウエハを高速回転して欠陥検査を行うが、この時に接触傷が生じることが問題となっている。しかし同社の「Supporter」を使うことで接触傷を大きく減らすことが可能になり、大手のファウンドリにおいて実用化に向けた評価・テスト検査が進めてられている。
4. 主な顧客と需要
同社の主力製品である「Supporter」の主要顧客は半導体のデバイスメーカーであり、その需要規模は生産されるウエハの枚数に比例する。「Supporter」は1枚のウエハが一通りの製造プロセスを終了した後に取り外し、洗浄工程を経ることで再利用が可能となる。したがって、仮に一通りの製造プロセスを終了するのに6日を要すると想定した場合、1枚の「Supporter」は月に5回の回転(利用)が可能となる。このため、顧客企業が必要とする保有枚数は、月間ウエハ生産能力の5分の1程度と試算される。具体的には、月産5万枚の生産能力を有するラインにおいては、1万枚の「Supporter」が必要となる計算となる。なお、製品の絶対寿命は約2年間とされており、一定期間ごとのリプレース需要も安定的に発生する見通しである。
同社の主要顧客の詳細は非開示となっているが、技術動向の観点からその構成を推察することが可能である。同社によれば、IGBTの表面パターン(回路生成)に関する特許網は米国および日本企業が強固に保持しており、この領域において中国メーカーは後塵を拝している。こうした背景から、中国メーカーは表面プロセスでの競合を避け、薄型化技術を中核とする裏面プロセス分野へ重点的な投資を行っている。その結果、裏面プロセスにおける生産効率化を支援する同社製品への引き合いも、中国や台湾のメーカーが多いようだ。同社による公開資料「中間発行者情報」に記載された2026年3月期第2四半期の販売先別実績の上位は、KUNSHAN KODIT PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.(中国)、売上高64百万円(売上高比率52.8%)となっている。
5. 同社の生産能力と特許政策及び競合
同社製品の生産については、一部を内製し、その他の部分を数ヶ所に分けて外注する「ファブライト」方式を採用している。各外注先には工程を断片化して発注しているため、外部からは最終製品の全容が把握しにくい構造となっている。また、本製品は大規模な生産設備を必要としない特性を有しており、急激な需要増大に対しても柔軟に対応可能である。同社も「生産が間に合わない事態にはならない」との見解を示している。
知的財産の保護戦略においても、外注の分散と同様に高度な秘匿性が確保されている。同社は広範な特許ポートフォリオを構築している一方で、すべての技術・ノウハウを特許申請しているわけではない。あえて権利化せずブラックボックス化(秘匿化)することで、競合他社によるリバースエンジニアリングや盗用を困難にしており、類似製品の台頭に対する参入障壁を築いている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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