富士紡ホールディングス:CMPソフトパッドで世界シェア約80%、AI半導体需要が業績を牽引
富士紡ホールディングス<3104>は、1896年に紡績業を祖業として創業した老舗素材メーカーであり、現在は研磨材事業、化学工業品事業、生活衣料事業の3つを柱に事業を展開している。2026年3月期売上構成比は研磨材事業49.1%、化学工業品30.7%、生活衣料13.8%となり、研磨材事業が収益の柱となる。主力の研磨材事業では、半導体ウェハの平坦化工程に用いられるCMP(化学機械研磨)研磨パッドを国内で製造販売し、生成AI普及を背景としたHBM(高帯域幅メモリ)や最先端ロジック半導体の需要拡大を捕捉している。
研磨材事業の中核であるCMP研磨パッドは、半導体製造プロセスの微細化に伴い精度要求がより一層厳しくなる工程で用いられる消耗材であり、世界市場ではハードパッドとソフトパッドに大別される。同社が主戦場としているソフトパッド分野では、世界シェア約80%を握ると見られており、グローバルニッチトップとして競争優位を有している。半導体の微細化が進展すると、研磨プロセスの難易度や頻度が高まり、精緻な研磨を実現するソフトパッドは顧客(半導体メーカー&ファウンドリー)から高く評価されている。今後の半導体の微細化・積層化の進展は同社のソフトパッドにとってはますます追い風になる。
化学工業品事業では、機能性材料や医薬中間体などの分野で受託製造事業を展開しており、半導体や電子材料、医薬といった成長市場と接点を持つ。ファインケミカル受託製造会社であり、化学業界では黒子の役割であるが、全国から口コミで同社へ受託生産の依頼があり、国内2工場(柳井工場、武生工場)ともに高い稼働状態が続いている。同社の事業ポートフォリオでは研磨材事業が高収益事業として目立っているが、化学工業品事業は隠れた高収益事業である。
生活衣料事業ではB.V.D.を中心に高品質なアンダーウエアの製造・販売を行っている。B.V.D.とアングルの2ブランドで生活衣料事業売上高の75%を占める。採算性の高い製品への絞り込みにより、今では営業利益率6.9%を達成している。特に、Eコマース販売(ネット販売)の強化により、新規顧客開拓と顧客ニーズにきめ細かく対応している。
同社の競争優位は、CMP研磨パッドのソフトパッド分野で世界シェア約80%を維持してきた製品開発力と長年積み上げてきた半導体顧客との信頼関係である。微細化が進むほど研磨工程の難易度は跳ね上がり、新規参入者にとって製品認定の取得は容易ではないため、参入障壁は構造的に高い。5工場体制で生産能力強化と生産リスクへ的確な対応が可能であり、研磨技術に関わる特許を保有していることも強みとしている。また、紡績を祖業としながら化学・素材分野へと事業構造を転換してきた経営姿勢であり、研磨材という収益柱を時間をかけて育て上げてきた実績がある。化学工業品事業でも、大手化学メーカーが自社生産しない小ロット品の中間体製品の受託生産で「ニッチナンバーワン」ポジションを築いている。
業績面では、2026年3月期通期の連結業績は、売上高459.29億円(前期比7.0%増)、営業利益81.43億円(同25.7%増)と大幅増収増益で着地し、営業利益・当期純利益ともに過去最高を更新した。研磨材事業がAI関連半導体需要を取り込んで力強く伸びたことに加え、化学工業品事業も電子材料や高機能樹脂など高い成長性を持つ分野が牽引し、受注が好調に推移した。2027年3月期の会社計画は、売上高527億円(前期比14.7%増)、営業利益92億円(同13.0%増)を見込んでいる。研磨材事業はAI関連投資拡大の傾向が継続、化学工業品事業でも半導体を含む電子材料市場の拡大が継続し、機能性材料を中心に堅調な需要が見込まれる。生活衣料事業は、国内・海外製品の提案幅を拡大に注力、EC販売の強化で利益を確保していく。
市場環境を見ると、生成AIの普及はHBMや先端ロジック半導体への投資需要を継続的に押し上げており、世界の半導体製造装置・材料メーカーにとって追い風が続く局面である。CMP研磨パッドは消耗材であるため、微細化・積層化に伴う先端半導体の需要拡大により、CMPパッドは半導体市場拡大に合わせ成長する見込みとなる。中東情勢の影響については、同社は各事業ともに現時点で顧客需要に変化はなしとしており、原料・燃料の調達に一部懸念はあるものの、当面の確保は可能とみている。そのほか、調達先の多様化や、価格上昇分の販売価格への転嫁を進める。
中期経営計画については、新たに「進化 26-30」(2026年度~2030年度の5カ年計画)を策定しており、最終年度となる2031年3月期に売上高650億円・営業利益130億円の到達を目指している。研磨材事業を主力ドライバーとして営業利益率の更なる向上を企図しており、研磨材事業の能力増強投資と化学工業品事業を中心とした新領域開拓、M&A(投資枠の上限は50億円規模)、人的資本投資の強化を主な柱と位置付けている。半導体・電子材料業界のイノベーションを牽引するグローバル・リーディング・カンパニーとして、大手ファウンドリの要請に合わせ、世界の主要CMP装置企業やCMPスラリーメーカーの様々な製品にも適合するよう高い開発力と合わせ込みの技術で、シェアと業容を拡大させていく。研磨材事業の売上高成長率はCAGR9.4%を想定している。さらに、2035年度売上高1,000億円・営業利益200億円を目指すようで、半導体市場変動の影響を受けやすい研磨材事業を安定した化学工業品・生活衣料事業で支える構造を強化していく。
株主還元では、配当性向目標を35%から40%に引き上げ、DOE(株主資本配当率)3.5%を下限とする方針を新たに明示した。研磨材事業と化学工業品事業の成長投資を拡大するとともに、株主還元の強化にも取り組むようで、2028年度終了時に更なる強化を検討していく。
総じて、富士紡ホールディングスは、紡績の老舗から半導体製造のキーマテリアル供給企業へと事業ポートフォリオの転換を着実に進めてきたグローバルニッチトップ企業であり、生成AI関連半導体需要の継続的な拡大が今後数年の収益を支える追い風となろう。新中計「進化 26-30」のもと、能力増強投資・M&A・株主還元の同時進行が予定されており、さらなる資本効率を意識した経営姿勢に対する評価が今後高まりそうだ。AI半導体テーマと資本効率改善ストーリーの双方を兼ね備えた銘柄として、引き続き注目しておきたい。
<YS>
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