石原産業:農薬が利益を牽引して無機化学は構造改革局面、PBR1倍前後かつ配当利回り3.9%前後で推移
同社の競争優位は、有機と無機で性質が大きく異なる。まず農薬事業では、穀物向けではなく果樹・野菜向けを中心とするニッチ領域に特化し、欧州を主戦場としたグローバル展開を行っている点が特徴となる。グローバル大手が穀物向け中心であるのに対し、同社は市場規模が小さく競争の緩やかな領域で独自ポジションを築いている。また、生産は自社工場を持たずインドや韓国での委託製造を活用し、グローバルに原料・中間体の有利調達を進めることでコスト低減を進めてきた点も特徴的である。さらに、農薬の生産技術の研究開発拠点として2025年12月にひょうご小野研究センターが稼働し、製造プロセスの見直しによる原価低減を進めており、2027年以降にかけて製造コストの低下余地が顕在化してくることが期待される。一方、無機化学では、酸化チタンにおいて硫酸法と塩素法の両方を保有する国内唯一の企業である点が差別化要因となる。特に塩素法は、高純度・低環境負荷という特性を持ち、電子材料や高機能用途で優位性を発揮する。もっとも、汎用品である硫酸法は中国勢の供給過剰と価格競争の激化により収益性が低下しており、同社は2027年3月末での硫酸法の生産停止を決定、塩素法を軸とした高付加価値領域へシフトを進めている。
業績面では、第3四半期累計の売上高は1,080.72億円(前年同期比2.5%増)、営業利益は110.89億円(同189.2%増)と大幅増益着地となった。有機化学事業の農薬において、成長戦略剤では、米州で除草剤が伸長したほか、アジアでは殺虫剤が堅調に推移した。既存剤では、殺虫剤が米州及び欧州において販売を伸ばし、欧州では殺菌剤の販売も堅調だったようだ。また、無機化学事業においては、電子材料及び機能性色材は堅調に推移。ファインケミカルでは、建築用途や樹脂用途を中心に汎用品の販売が総じて低調だったが、販売価格を維持して前年同期比で収益が大幅に改善した。
同時に、通期計画の上方修正を発表しており、通期の売上高は1,545億円(前期比6.4%増、従来計画1,520億円)、営業利益は170億円(同62.2%増、同160億円)に引き上げた。有機化学事業は主力の農薬が海外を中心に引き続き好調な販売が推移する見込みで、円安効果も相まって、全体の収益を押し上げることが見込まれる。欧州での天候要因で殺菌剤需要が好調であったことや害虫が発生し殺虫剤需要が拡大したこと、さらに販売側が在庫積み増しに動いたことが背景にあるという。
市場環境を見ると、農薬は天候や作付動向に左右されるものの、地域分散と製品ポートフォリオにより一定の需要は確保される。一方でブラジルなどではジェネリック品との競争が激化しており、価格競争環境は厳しい。無機では、中国勢による硫酸法酸化チタンの供給過剰が続いており、汎用品は構造的に価格競争に晒されている。こうした中で、同社は塩素法による高純度製品や電子材料用途といった高付加価値領域に軸足を移すことで、競争環境からの脱却を図っている。なお、電子材料向けではMLCC用途でAIサーバー需要の恩恵が限定的である一方、EV関連では一定の需要を取り込んでいる。
中期経営計画では、2027年3月期に営業利益190億円以上・営業利益率12%以上・ROE10%以上を掲げているが、収益力向上に向けた取り組みとして「すべての事業を収益の柱へ」も目指している。足元の状況を踏まえると成長ドライバーは農薬事業が中心となる見通しである。農薬では既存製品に加え、インド・北米など新市場への展開が成長の鍵となる。成長マーケットに向けた新規薬剤の開発促進、新製品を投入しつつ、化学農薬は、他社剤の導入の検討や共同開発も推進していく。また、動物用医薬品/パノクエルの国内外での拡販も想定している。近い将来の成長ドライバーとして期待されている動物用医薬品については、2026年秋頃に見込まれていた米国FDAのフル承認が計画よりも遅れる見通しとなっており、当初想定されていた黒字化が次期中期経営計画にずれ込む見通しとなっている。一方、無機化学事業は引き続き構造改革の途上にあり、硫酸法停止や製品ポートフォリオ転換の進捗が収益改善に寄与していく。会社側も今年度までに無機化学事業の構造改革を完遂し、収益性の高い事業体質への変革を図るようで、並行して研究・技術開発力の強化により、新製品開発を加速しつつ機能性材料の拡販を推進していく想定を示している。
株主還元については、DOE3%を下限とした安定配当方針を掲げており、足元の配当利回りは3.9%台で推移している。また、PBRは1倍前後で推移しており、引き続き収益改善と還元強化を通じた資本効率向上が求められる局面にある。
総じて、同社は有機化学事業が好調継続となっている一方で、無機事業は構造改革の初期段階にあり、短期的には収益の振れを伴うか。農薬の成長持続性と無機の収益転換含めて、直近の下落に対する再評価余地は大きそうで、今後の動向に注目しておきたい。
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