通信会社ソフトバンクは、いま何に変わろうとしているのか――「AIを社会に実装する会社」への進化
ここ数年、この構図が少しずつ変わり始めている。
重要なのは、ソフトバンク自身が「通信会社のままではいられない」と明確に舵を切った点だ。
■ソフトバンクは「通信会社」では終われない
ソフトバンクは、国内有数の通信事業者として、固定通信と移動体通信で巨大な顧客基盤を築いてきた。ただ、通信業界はすでに成熟期にあり、料金引き下げ圧力や競争激化によって、通信単体での高成長は望みにくい。
これはソフトバンクのみの問題ではなく、国内大手通信事業者共通の課題だ。だからこそソフトバンクは、「通信でつながる会社」から「通信を基盤に、より広い価値を提供する会社」へ進化を進めている。同社が掲げる「Beyond Carrier」という言葉は、その覚悟を端的に表している。
上場からの7年間では、2019年6月にヤフー(当時)を子会社化し、11月には傘下の中間持ち株会社がZOZOを子会社化、2021年3月にはLINE(当時)を傘下に収め、2022年10月にはPayPayを子会社化するなど、非通信領域で大型の経営アクションを次々と実行してきた。今後は、さらなる事業成長に向けて次世代社会インフラを提供する存在へと歩みを進めていく。
■通信を土台に、AI(人工知能)を載せる戦略
ソフトバンクの戦略転換を理解するうえで重要なのは、通信を土台として使い倒すという発想だ。全国規模の通信ネットワーク、数千万規模の顧客基盤、膨大なデータは、AI時代において極めて価値の高い資産である。
具体的に、コンシューマ向けでは、ワイモバイルがバリューキャリア部門で携帯電話サービス顧客満足度No.1(※1)、エンタープライズ向けでは法人向けネットワークサービス顧客満足度No.1(※2)。SNSでは国内利用率No.1を誇る「LINE」(※3)、決済領域では国内コード決済取扱高・回数No.1となる「PayPay」(※4)など日本トップクラスのICTサービスを提供している。
ソフトバンクは、この土台の上に、AIデータセンターといった次世代インフラを重ねようとしている。
■直近のAI戦略の中核
1. AIデータセンター構想
その象徴が、国内で進めるAIデータセンター構想となる。ソフトバンクは、堺(大阪)や苫小牧(北海道)を含む国内拠点で、大規模なAI向けデータセンター整備を進めているが、これらは単なるサーバー施設ではない。
生成AIに不可欠なGPUを大量に設置し、企業がAIを安心して使える計算基盤を国内に確保することが目的となる。海外クラウドに依存せず、日本の法制度やセキュリティ要件に沿った形でAIを提供する。この考え方は、近年注目される「ソブリンAI(主権を持つAI)」と重なる。
北海道苫小牧AIデータセンターは2026年度に開業、大阪堺AIデータセンターは2026年中に稼働開始予定となっている。
2. AI計算基盤(GPU)の構築
ソフトバンクはAIの開発などに使う計算基盤を増強している。米エヌビディアのGPU総数は1万1000基超となっており、日本語特化型の大規模言語モデル(LLM)「Sarashina」の開発に生かされている。生成AIの多くは英語を前提に作られているが、日本の行政・企業業務では、日本語特有の表現や文脈理解が不可欠となる。「Sarashina」は、日本語での実務利用を前提に設計されており、単なる研究用途ではなく、「使われるAI」を強く意識している点が特徴となる。
2025年11月19日には、ソフトバンクのAI計算基盤がスーパーコンピューターの性能ランキングにおいてAIの計算性能を評価する指標で国内1位を獲得したことも明らかになっている。(※5)
3. GPU as a Service
ソフトバンクは、GPUをクラウド経由で提供するGPU as a Serviceにも力を入れている。生成AIを導入したくても、自社でGPUを確保・運用するのはハードルが高い。そこに対し、計算資源そのものをサービスとして提供するという発想だ。
通信会社がネットワークを貸すように、AI時代には「計算資源を貸す会社」になる――ここに、ソフトバンクの次の姿が透けて見える。
■ソフトバンクグループとの違い
ここで、今一度ソフトバンクグループとの違いを整理しておきたい。ソフトバンクグループは、大規模なテクノロジー投資を行う戦略的投資持ち株会社で、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じてAI・半導体・ロボティクスなど、将来の産業構造を変える可能性のある技術に先行投資を行ってきた。近年では、OpenAIへの投資が象徴的だろう。
対話型AIのChatGPTをはじめとする生成AIは、社会やビジネスの在り方を大きく変えつつあり、孫氏はこれを「人類史的な転換点」と表現している。ソフトバンクグループは、こうした最先端AIや次世代技術を見極め、資本で支える存在となっている。
■通信会社から、AI社会インフラ企業へ
一方、ソフトバンクは、そのAIを日本社会で動かすためのインフラを担う事業会社となり、「通信料金で稼ぐ会社」から、「AIを社会に実装する会社」へと変わろうとしている。通信はあくまで入口であり、AI・データ・クラウド・決済を組み合わせることで、企業活動や生活そのものを支える存在へと変わろうとしている。
孫正義氏が描く「AI時代」は、投資の世界だけで完結しない。その世界観を日本の現実社会に実装する受け皿として、ソフトバンクという事業会社の役割は、これまで以上に重要になっていく。
ソフトバンクとソフトバンクグループ。名前は似ているが、目指す役割は異なる。そしていま、両社はそれぞれの立場から、同じ「AIの未来」を別の角度で形にし始めている。
※1:J.D. パワー2024年携帯電話サービス顧客満足度調査。バリューキャリア部門4,600人の回答による。
※2:J.D. パワー2024年法人向けネットワークサービス顧客満足度調査。従業員数1,000名以上企業867件の回答による。
※3:総務省情報通信政策研究所 令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する報告書<概要>(2024年6月)
※4:一般社団法人キャッシュレス推進協議会の開示資料(2024年の国内QRコード決済利用動向調査結果)から「PayPay」の比率を集計、PayPay調べ。
※5:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20251119_02/
<FA>
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