シンバイオ製薬 Research Memo(4):2030年までに2~3本のパイプラインで承認取得を目指す(1)
2. 開発パイプライン
BCVは現在、造血幹胞移植後のウイルス感染症や脳腫瘍、血液腫瘍、脳神経変性疾患など複数の領域でアカデミアとの共同研究も行いながら開発が進んでいる。このうち、造血幹細胞移植後のAdV感染症を対象とした第2相臨床試験においてヒトでのPOCを確立したことを2023年5月に発表している。POCの確立により、他の疾患領域における開発リスクの低減と開発期間の短縮化が見込めることになり、BCVのプラットフォーム展開による事業価値最大化に向け、パートナー契約交渉もスムーズに進むことが期待される。
(1) 造血幹細胞移植後のAdV感染症
BCV(注射剤)の最初の開発ターゲットとなる小児(成人含む)を対象とした造血幹細胞移植後のAdV感染症については、2024年前半に国際共同第2相臨床試験が終了し、2025年6月に国際共同第3相臨床試験を開始すべく、欧州医薬品庁に対して治験申請を行った段階にある。同臨床試験では4地域(欧米、日本、英国)で80施設、180症例の患者登録を予定しており、同年第3四半期に臨床試験を開始し、2028年第4四半期に欧州で承認申請することを目標としている。審査期間は1年程度で早ければ2029年第4四半期に承認取得、2030年にも上市する可能性がある。
AdVは自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などへの感染によって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健常人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ有効な治療薬もないことから治療薬や予防薬の開発が強く望まれている。世界における造血幹細胞移植の件数は年間3.5万件で、このうちAdV感染症の患者数は欧州で1,300人、米国で1,000人、日本で400人と同社では試算している※。年々患者数は増加しており2030年には日米欧市場で3,500人を超える見通しだ。
※ 出所:決算説明会資料。
第2相臨床試験では安全性、忍容性及び有効性(血中AdV量の変化)を評価し、投与量(0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg※1)を分けてそれぞれ週2回投与する群と、0.4mg/kgを週1回投与する群の4グループに分けて試験を実施した結果、週2回0.4mg/kg投与群(10例)において、すべての患者で血中AdVが消失し、そのうち90%の患者は治療後4週間以内にウイルス消失が確認された。また、全27例の患者のうち、経口BCV製剤で確認された胃腸毒性及び肝毒性を含む治療に関連する重篤な有害事象はなかったことが報告※2されており、ヒトでのPOCが確立されたとしている。同内容は2024年4月の欧州骨髄移植学会で発表され大きな反響を呼んだ。
※1 体重50kg以上の場合は投与量10mg、15mg、20mg。
※2 治療に関連した有害事象発生による投与中止は、0.4mg/kg(週2回)で1例、全27例中6例で観察されたが、治療終了後には消失している。
第3相臨床試験では、180例中、120例にBCV、60例に現在治療用として使用されているCDVを投与し(4~12週間※)、主要評価項目である血中におけるアデノウイルスの不検出割合を比較する。また、治療後24週間にわたり安全性を見るフォローアップ期間とし、安全性のエンドポイント(全死因死亡率、非再発による死亡率)を確認することになる。第2相臨床試験の結果から、BCVは高い抗ウイルス効果が確認されていること、安全性の面においてもCDVが持つ腎機能障害や骨髄抑制の副作用はないことから、有意差を得られる可能性は極めて高いと弊社では見ている。
※ 血中のアデノウイルス量が連続2回不検出となった場合は、最短で4週間となる。
なお、今回の治験プロトコルは欧州のみの臨床試験に適用されるもので、その他の地域については現在、関係当局と協議を進めている段階にある。主要評価項目を血中のアデノウイルス量だけで評価するのか、それ以外のデータも評価項目に含めるのかがポイントとなっているようだ。このため、欧州で先行して臨床試験を開始することになり、承認申請も欧州で先行して行うことになりそうだ。なお、米国ではFDAからファストトラック指定を受けており、優先審査と迅速承認を受けられる。
(2) NK/T細胞リンパ腫及びPTCL(悪性リンパ腫)
BCVの2つ目の開発パイプラインとして、2025年6月に国際共同第1b/2相臨床試験の1例名の登録を完了したNK/T細胞リンパ腫及びPTCL※1が挙げられる。同疾患は2021年9月に共同研究契約を締結したシンガポール国立がんセンターで動物実験を進めてきたもので、2022年12月にBCVが持つ抗腫瘍効果について、2023年6月には抗腫瘍効果を予測するバイオマーカー(TLE1※2)についての研究成果を担当医師が学会で発表している。
※1 NK/T細胞リンパ腫は、悪性リンパ腫の1つで、NK細胞あるいはT細胞由来のリンパ腫。進行の速さによって「低悪性度(進行が年単位)」、「中悪性度(進行が月単位)」、「高悪性度(進行が週単位)」に分類される。NK/T細胞リンパ腫は、主に節外性NK/T細胞リンパ腫として、鼻腔周囲や皮膚に発生する。中国を含めた東南アジアで比較的多く見られるのが特徴で、標準的な治療法は確立されていない。PTCL(末梢性T細胞リンパ腫)は、胸線での分化・成熟を経て抹消組織に移動したT細胞由来のリンパ腫。速やかに進行するアグレッシブリンパ腫に分類される希少がんの一つ。一次治療には多剤化学療法や放射線療法が用いられるが、治療効果は低く新たな治療薬の開発が望まれている。推定患者数は日米欧で約1.1万人。
※2 TLE1は遺伝子の発現を調節することで造血器腫瘍を含めたがんを抑制する機能が知られている転写抑制因子。TLE1の低発現はいくつかのがん種で予後不良と関連しており、MYC(がん遺伝子の一種)の発現や他のがん促進シグナル経路を抑制すると報告されている。
現在有効な治療法が確立していない悪性度の高いNK/T細胞リンパ腫やPTCLにおいて、BCVが腫瘍悪性化を促進するMYCの発現を抑制し、さらにはがん免疫を活性化することで知られる免疫原性細胞死を誘導することが新たに確認され、同腫瘍を移植したマウスモデルにおいて明確な腫瘍増殖抑制効果を示す結果が得られている。悪性リンパ腫は「トレアキシン(R)」の対象疾患でもあるため、開発に成功すれば併用療法として使用される可能性もあり、シナジーが期待できることになる。
今後の予定は2025年内に1b相臨床試験の予定症例数15例の登録を完了し、2026年第2四半期に第2相臨床試験に移行、2028年第2四半期に承認申請、2029年第2四半期に承認取得を目指す。現在、日本のほかシンガポール、香港で臨床試験が進められている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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