CRI・MW Research Memo(4):エンタープライズ事業へのシフトを進め、増収増益を確保
CRI・ミドルウェアは、2024年9月期の業績において、売上高3,167百万円(前年比5.9%増)、営業利益368百万円(同6.8%増)を記録しました。主にエンタープライズ事業へのシフトが大きく成功し、増収増益に貢献しています。この事業シフトにより、同社はクラウドソリューションやモビリティ分野においても成長を見せ、特に車載サウンドソリューションのライセンス採用が急増しています。また、子会社の音響制作も好調で、過去最高の売上を達成する結果となりました。これらの成功により、ゲーム事業の減収を補完し、安定した収益基盤を確保しました。
1. 2024年9月期の業績動向
2024年9月期の業績は、売上高が3,167百万円(前期比5.9%増)、営業利益が368百万円(同6.8%増)、経常利益が383百万円(同1.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益304百万円(同30.9%増)となった。期初予想に対して、売上高・各段階の利益とも若干上回って着地した。重点施策としてエンタープライズ事業へのシフトを進めていたが、これが奏功したことが好業績の要因と思われる。
日本経済は、一部に弱めの動きが見られたものの、海外経済が緩やかな成長を続けるなかで企業収益が改善し、業況感は良好な水準を維持、景気は緩やかに回復してきた。同社を取り巻く事業環境については、コロナ禍を契機に普及したテレワークが新たな働き方として定着し、ボイスチャットやWeb会議ツールなどオンラインコミュニケーションツールの活用が常態化した。また、モビリティ業界で注目を集めるSDV※の開発において、ゲーム業界でミドルウェアの開発を続ける同社の技術と知見が貢献できると期待されている。こうした状況下、オンラインコミュニケーションミドルウェア「CRI TeleXus」の開発を行うとともに、モビリティなど今後成長が見込める事業や市場を見据えた研究開発体制を整備し、事業基盤の拡大とグループシナジーの創出に注力した。
※ SDV(Software Defined Vehicle):ソフトウェアによって自動車の機能や性能を定義し、販売後もソフトウェアの更新によって機能の追加や性能の向上を実現できる自動車。
この結果、エンタープライズ事業全般が大きく増収増益に貢献、子会社ツーファイブも過去最高の売上・利益を達成、2023年7月期末に譲渡したゲーム開発/運営子会社の売上剥落の影響を上回り、増収を確保した。子会社譲渡の影響を除くと前期比19.0%の増収となり、実質的な売上高は非常に好調だったということができる。利益面でも、子会社譲渡の影響もあり、売上総利益と販管費は減少したが、増収効果によって営業増益を確保した。営業利益も、子会社譲渡の影響を除くと同11.0%増と実質2ケタ成長となっている。また、組込み分野、クラウドソリューション分野、ツーファイブの好調を背景に、期初予想に対しても上振れて着地したが、達成率は売上高で104.5%、営業利益で103.8%であった。
ゲーム事業の減益をエンタープライズ事業の好調でカバー
2. セグメントの動向
セグメント別の業績は、ゲーム事業の売上高が1,676百万円(前期比15.0%減)、セグメント利益が116百万円(同36.9%減)、エンタープライズ事業の売上高が1,490百万円(同46.2%増)、セグメント利益が251百万円(同57.4%増)と、ゲーム事業の減益をエンタープライズ事業の大幅増益でカバーした格好となった。
ゲーム事業において、「CRIWARE」などの国内ライセンス売上は、今期も一括ライセンス売上の計上はあったものの、前期ほどの規模感でなかったため減少した。海外向けは、中国でのライセンスビジネスは復調しつつあったが、コンテンツ受託ビジネスと欧米でのライセンスビジネスが低迷したため減収となった。子会社のツーファイブが行う音響制作は、効果音や楽曲などの制作業務が好調だったことに加え、下期に大型の音声収録業務を受注したことにより、過去最高の売上高と利益を計上することができた。2021年に本社のある渋谷へ移転した際、最新のサウンドスタジオを新設したことで定評のあるクオリティがさらに高まり、リピート顧客を離さなかったばかりでなく、潜在顧客の掘り起こしにも成功したようだ。なお、子会社アールフォース・エンターテインメント(前期は328百万円の売上高)の全株式を前期末に譲渡したことでゲーム開発/運営の売上高がなくなったため、ゲーム事業の売上高は前期比大幅減となったが、アールフォース・エンターテインメントの影響を除外した実質ベースの売上高は2.0%増と着実に増加した。KPIについては、ゲーム事業の「CRIWARE」採用数は8,753ライセンス(前期比14.2%増)と順調な伸びとなっている。スマホゲームでの採用率は同5.0ポイント上昇して35.0%とシェアを向上させたが、スマホゲーム市場がレッドオーシャン化するなかで、人気のあるゲームに使われていること、中国発のタイトルが増えていることが要因のようだ。家庭用ゲームでの採用率は24.0%と前期比横ばいだったが、広く普及しているため上下の変動が小さくなっている。
エンタープライズ事業は全般的に非常に好調で、組込み分野の売上高は、カラオケの案件を継続して受注したこと、(株)セガフェイブ「ePICO」のシステム開発を受注したことなどにより増加した。一方、新世代のフルデジタルオーディオソリューション「CRI SOLIDAS」の拡販などに経営資源を集中するため、遊技機の玉貸出機事業からは、撤退を決めた。モビリティ分野の売上高は、車載サウンドソリューション「CRI ADX-AT」及び車載メーターグラフィックソリューション「CRI Glassco」のライセンス採用数が962万(前期比2.5倍)と急増しているため大幅な増加となった。また、「CRI ADX-AT」はコロナ禍で落ち込んでいた国内自動車生産が復活したタイミングで採用が急増しているようだ。ただし、モビリティ分野を今後大きく伸ばすには海外メーカーによる採用と単価の高い「CRI Glassco」を伸ばすことが必要と考えている。さらに、「CRI ADX-AT」は現状自動車の中でもメーターに採用されているだけだが、車内で音の鳴る場所は多いので、今後車両1台当たり2〜3ライセンスへと拡げていくことも検討している。なお、モビリティのライセンス収入の大半は、メーカーの都合上第2四半期と第4四半期に計上されることが多くなっている。クラウドソリューション分野の売上高は、ゲームデバッグやゲームリリース工程の受託を主とするポールトゥウィン(株)など複数の顧客から大型の受注があり、システム開発案件が好調に推移したため増加した。ただし今後は、継続的な売上となる許諾ビジネスへシフトしていく方針で、そのための研究開発を推進しているところである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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