ワコム Research Memo(8):「ブランド製品事業」の構造改革に対する追加プランを公表
3) 販路マネジメント強化(ブランド製品事業)
i) B2Bチャネル強化(ソリューション型価値提供に向けたダイレクト顧客開拓)、ii) e-storeチャネル強化(体験提供型サービス等を通じたユーザータッチポイントの最大化)に取り組んでいる。i) については、ダイレクト顧客開拓に取り組み中であり、B2B比率は目標30%に到達した※。ii) については、体験型提供サービス「Wacom Adventure」の導入を開始し、e-store専用バージョンやサービスによるe-storeへの動線確保を図り、e-store比率は13%超(前期は10%程度)に改善した。ただ売上高は減少しており、粗利改善にはつながっていないため、同社自身による進捗評価は「改善未達」となっている。
※ペンシルバニア州オンライン学校への納入や病院でのワークフローサポート、オンライン銀行サービスのサポートなどで成果を上げることができた。
4) 在庫マネジメント改善(全社)
i) 2022年12月末在庫残高(約300億円)からの3分の1在庫削減、ii) 新規調達の絞り込み、iii) 発注モニタリング強化に取り組んでいる。i) については、2024年3月末時点の在庫は131億円(簿価)に減少しており、100億円以上の現金を創出することができた。ii) 及びiii) については、既存商品の発注はほぼなしの状態となっており、引き続き発注モニタリングの強化にも取り組んでいく。以上から、同社自身による進捗評価は「改善達成」となっている。
5) 顧客と用途拡大(テクノロジーソリューション事業)
i) 業界での事実上標準化の推進や、ii) 用途拡大に向けた独自ハードウェア(本体/ペン/サービス)の開発展開に取り組んでいる。i) については、順調に施策実行中であり、顧客数及びプロジェクト数は増加傾向にある※。ii) についても、独自のハードウェア開発展開の企画検討が進行中である。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
※Galaxyの新製品S pen対応、ユニバーサルペン導入などを含む。
6) 一般教育分野での事業開拓(テクノロジーソリューション事業)
i) 一般教育向けのソリューション展開、ii) ハードウェアだけでないサービス展開に取り組んでいる。i) については、一般教育向けの次世代ソリューションを開発中であり、ii) についても、商用導入した教育向けサービスのアップデート版を正式導入した。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
7) 資本政策/株主還元(全社)
i) 将来技術への投資と資本政策、ii) 自己株式取得に取り組んでいる。i) については、2024年3月期の研究開発費用として77億円を投入し、2025年3月期は80億円を見込んでいる。ii) については、Wacom Chapter 3期間における総額上限200億円の取得方針に沿って、2024年3月末時点で累計125億円の自己株式を取得済みである。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
8) デジタルインクサービスの立ち上げと投資(全社)
i) 新コア価値となる3分野(AI、XR、セキュリティ)での事業立ち上げと、ii) 技術開発投資と回収に取り組んでいる。i) については、AI(教育分野で商用化開始※1)、XR(2025年3月期での商用化を計画)、セキュリティ(「Wacom Yuify」β版※2の市場導入を発表)の3分野に加え、リモート(リモートソリューション商用版の正式導入)でもプロジェクトが進捗している。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
※1 Z-KAIとの共同開発により、デジタルインクを使った教育サービス「学び探索チエノワ」(手書きを起点とした「知識が連鎖する学びの体験」)をリリース。
※2 クリエイターの作品権利を保護するサービス。
3. ブランド製品事業に対する課題認識と追加プランの方向性
市場環境の急激な変化の影響を受け、苦戦が続く「ブランド製品事業」については、既述のとおり、「ポートフォリオの刷新と粗利改善」「販路マネジメントの強化」等の遅れにより、2024年3月期の黒字化目標が未達となり、2025年3月期についてもセグメント損失が継続する見込みとなっている。同社では、Wacom Chapter 4に向かって、固定費/オペレーションコストの抜本的削減を含むさらなる構造改革プランを公表し、1) 商品ポートフォリオ、2) 集中事業領域、3) 販路/地域オペレーション、4) 組織構造の4つのテーマに取り組む考えだ。1) については、新ユースケース「ポータブルCreative」の確立、ソリューション提供型への移行、2) については、プロ及びクリエイティブ専門教育への集中、K12(小・中・高)市場はテクノロジー事業にてカバー、3) については、e-store/B2B/コミュニケーション連携に集中、抜本的な販社機能統合と機能集約化による「オペレーションの軽量化」の実現、4) については、新リーダーシップ※の下での構造改革推進、開発/オペレーションの最適化・集約化などに取り組む方針である。オペレーション費用の最適化(約20億円)を図ることで、2026年3月期(Chapter 4初年度)でのセグメント黒字化を目指すとともに、2027年3月期以降での売上拡大、クリエイティブコミュニティでのブランド地位の維持・向上を図る。
※2024年4月1日付けでブランド製品事業のリーダーシップを一新。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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