和田興産 Research Memo(9):中期経営計画は「地域に根差した総合不動産業」への道筋を創るがテーマ(1)
1. 中期経営計画の概要
和田興産<8931>では、従来から3年を区切りとした中期経営計画を策定し、事業運営の基本方針や事業目標、収益計画などを定めてきたが、外部環境に大きく依存する業種であるため、方針の柔軟な見直しを迫られる場合もあることから、公表を差し控えていた。しかしながら、中長期的に企業価値を高めていくためには、積極的な情報開示を通じて株主・投資家との建設的な対話を図ることが重要であると考えて、2023年4月7日に中期経営計画(2024年2月期~2026年2月期)を公表した。
同社は、国内経済の動向をはじめ、不動産業を取り巻く環境がより一層変化のスピードを速めるなか、重要課題が山積していると認識しており、2024年2月期からの3期間を、安定的な業績確保を前提としつつ、今後の事業を展望するうえで非常に重要な時期と位置づけている。より一層企業の成長を促し、持続可能な企業を目指すためには、新たな組織風土の構築が必要不可欠であるため、これらの基本となる考え方について、行動指針(Wada-Way)という形で新たに明確化を図った。すなわち、「自主自律」:主体的に物事を捉え、自らが責任感を持って行動する、「唯一無二」:一人ひとりの個性を生かし、価値ある独創で地域を彩る、「迅速果断」:スピード感を持った事業への取り組み、「相互信頼」:チームワークとコミュニケーション(建設的な議論)である。
次に、全社基本方針を定めた。「テーマ(VISION)」として、将来を展望し、「地域に根差した総合不動産業」への道筋を創ることを掲げ、前3期間の実績合計の利益水準を上回るとともに、収益構造の転換による事業セグメントの最適化を「目標」としている。また、新たな地域、事業、分野等へ積極的に挑戦しつつ事業の柱づくりを進め、内向き志向から外向き志向への転換を図るために人材戦略やアライアンスを有効活用し、ESG、SDGsの目線から社会的課題の解決に向けたソリューション機能の充実と育成を目指すという「重点戦略」を掲げた。
以上に基づいた中期経営計画(2024年2月期~2026年2月期)では、数値計画として3期間合計で売上高1,224億円(前3期間比1%減)、営業利益118億円(同7%増)、経常利益94億円(同8%増)、当期純利益64億円(同6%増)を計画し、売上よりも利益拡大を優先する。また、KPI(重要業績指標)として、ROE8%以上、D/Eレシオ2倍以内を目標としている。3年間で着実な利益成長を目指すが、計画初年度の2024年2月期実績の中期経営計画に対する進捗率は、売上高31.7%、営業利益38.1%、経常利益40.4%、当期純利益40.6%と、順調なスタートであった。また、2024年2月期実績と2025年2月期予想の合計では、進捗率は売上高63.6%、営業利益78.2%、経常利益81.1%、当期純利益83.4%に達する見通しである。
同社の事業エリアである神戸・阪神間・北摂では世帯数は増加傾向にあるものの、神戸市では人口は減少傾向にある。当面は主力の分譲マンション事業は底堅いと見られるが、将来を見据えて新たな事業の育成を目指すことが、推進中の中期経営計画の大きな目的の1つである。中期経営計画の今後の進展状況に注目したい。
2. セグメント別の事業展開
(1) 分譲マンション販売
同社の強みを生かしつつ、足元の環境を踏まえて成長機会を創造する。強みは、地元地域に精通しており、圧倒的な存在感・ブランド力や、常設マンションギャラリーを活用した販売力を有することだ。外部環境は、需給の安定化、世帯数の増加(世帯当たりの人員の減少)、建築コストの増加などが想定される。成長機会・事業戦略としては、地域拡充、共同事業(JV)への取り組み、再開発などを挙げている。引渡戸数目標として2,000戸目処(3期間合計)を掲げ、保有ランドバンクは約2,600戸(2023年2月末時点)である。
2024年2月期には、新たに大阪府堺市での供給開始、また同社として初となる兵庫県加古川市での用地仕入などの実績をあげている。
(2) 戸建て住宅販売
ワコーレブランドを活用し、分譲マンション販売事業を補完する。事業戦略として、重点エリアの設定(神戸市以西の設定)、建築コスト上昇への対応、自由設計住宅の取り組みを挙げる。引渡戸数目標として、前3期間の実績に対して1.5倍増、第1段階として年間50戸体制の確立を目指す。
2024年2月期には、2009年から開始した「ワコーレノイエ」が累計供給戸数700戸を突破し、購入者の安心につながるアフターサポートの充実を目指したリフォーム事業を開始している。
(3) 不動産賃貸収入
創業時から続く事業であり、レジデンス系を中心とした収益安定性の確保、中小型物件を中心としたリスク分散、恒常的に95%超の高稼働率を強みとしている。成長機会・事業戦略として、既存築古物件の建替え・他事業への転用、借地物件の取り組み、プロパティタイプの拡充などを掲げ、計画最終年度の保有戸数目標を約2,200戸としている。
(4) その他不動産販売等
ここ数年間における成長分野であり、インカム、キャピタルゲインで収益を安定確保している。これまで培った用地仕入・賃貸付けのネットワークを最大限活用し、マンションに不向きな土地でも開発できることを強みに、事業戦略として建築コストの上昇に鑑み最適用地を厳選し、保有年数の最適化(売却時期の検討)を推進している。引渡戸数目標は、販売戸数は600戸超(3期間合計)、保有戸数800戸前後、年間賃貸収入6億円としている。
(5) その他の事業方針
2023年4月の組織改正により、CS事業部を設置した。既存顧客からのニーズを汲み上げ、ビジネス機会の創造に着手している。また、従来のアライアンス先との関係を強化し、協業体制による新たなビジネスモデルの構築を図っている。
2024年2月期には、新たな事業として、金融機関店舗の跡地での共同事業、蓄電池事業への投資、老人ホームの開発など、新規事業への取り組みが進展した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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