ケアネット Research Memo(7):既存事業は安定成長、新サービス開発等で事業ポートフォリオの一層の充実を図る
3. 2024年12月期の業績見通し
ケアネット<2150>の2024年12月期の連結業績は、売上高で前期比13.3%増の11,600百万円、営業利益で同9.4%減の2,200百万円、経常利益で同10.8%減の2,200百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同0.7%減の1,500百万円を見込んでいる。主要顧客である製薬企業のMR人員の大幅な削減、為替相場の円安ドル高の影響等により業績の見通しが立ちにくいため、前期末時点で確度の高い数値を開示している。足元の受注状況は好調なことから、計画が実現する可能性は高いと弊社では見ている。
主力事業である医薬DX事業については、既存の製薬企業向け適正普及支援サービスの販売体制強化などにより売上高増加を図る一方で、今後の成長のためには、コンプライアンス規制の厳格化等、厳しい営業環境が続く製薬企業のニーズに対応する、より品質の高いスペシャリティ医薬品に適したサービスを開発し続けることが必須であると捉えている。既存サービスの販売拡充のほか、各製薬企業に合わせたより付加価値の高いサービス提供、製薬企業向けオウンドサイト支援の新規参画に注力することで増収を見込む。同セグメントの売上高は、前述のとおり製薬企業の予算消化の動きに合わせ、第4四半期にピークを迎えるという季節性が見られることから、2024年12月期においても第4四半期に大きく売上高が伸びるものと弊社では見ている。
メディカルプラットフォーム事業では、「キャリア」及び「CareNeTV」ともに医療コンテンツの質の向上、生涯学習コンテンツの拡充により、新規会員を獲得し増収につなげる。「キャリア」では、キャリア支援サービスに加えて、医業承継支援サービスのニーズも増えつつある。ここ数年クリニックを中心に医療機関で後継者不在の問題が顕在化しはじめており、こうした医療機関と新規開業を希望する医師をマッチングさせるサービスで、今後の成長が期待される。「CareNeTV」では、専門医試験対策シリーズの拡張や人気講師によるライブセミナー等、魅力的なコンテンツを揃えることで有料会員数のさらなる積み上げを図る。
売上原価項目を含む費用面においては、前期に引き続きスペシャリティ医薬品に適したサービス・新規事業の開発投資及び人員強化を積極的に行う。一方、既存事業の営業利益率、プロジェクト単価・クロスマージンに関しては引き続き一定水準を確保できている。新規事業開発に向けたコストがアロケーションされることで全体の営業利益率は前期比では下がるものの、新規事業開発に関連する売上が実現することで改善されるものと弊社では考える。
足元では、2024年2月にクラックスを、九州エリア最大手の医薬品卸として地域医療機関の情報収集力や施設へのアクセス力を有するフォレストホールディングスと合弁で設立しており、同社の医療情報コンテンツ企画制作力やインターネットを通じた医師へのアクセス力を組み合わせることで、従来にない質の高いエンゲージメントを実現するサービスを開発する。グループ企業のケアネットパートナーズがCSO事業を日本全国に展開するなか、クラックスは派遣MRの域を超え、医師とのエンゲージメント創出に焦点を当てた厳密なサービスの提供を目指している。まずは、九州エリアを中心とした事業展開について決定しており、既存事業改善のヒントにつながる多くの情報が得られるものと弊社では見ている。
2024年4月からは、医師の働き方改革に伴う時間外労働の上限規制などの適用が始まる。この改革により製薬企業は医師との接触機会がますます減少する可能性に不安を感じている。医師の働き方改革がもたらす影響は現時点では未知数であり、製薬企業は予算の使い方に慎重になっているため、同社の2024年12月期第2四半期(2024年4月~6月)業績に一定の影響が出ることが予想される。しかし、第3四半期以降は、製薬企業において医師の働き方改革の影響度合いが明らかとなり、eプロモーションの需要はますます増えると弊社では見ている。また、若年層を中心として医師も福利厚生や働きやすさを重視する傾向が見られ、同社のキャリア事業にとっては追い風となる可能性がある。医師の労働時間の短縮に伴い、仕事の効率化や生産性の向上に対する需要が高まり、病院向けコンサルティング事業の需要も増加することが期待される。
4. 弊社所見
2022年から2023年の2年間にわたり、製薬業界ではプロセス改革が本格的に展開され、同社をはじめとする製薬業界の周辺企業では、業界動向に適切に対応することが重視された。eプロモーションの売上高へのインパクトは、ROMIテストなどの統計調査によって徹底的に精査されたが、同社が誇るコンテンツの質と量により、同社サービスは投下コスト以上のリターンを実現している。MRでは対面による営業を第一優先としつつも、医師に会えない場合はeプロモーションによるアプローチを試みるが、すべての医師がeプロモーションのコンテンツを見ているわけではなく、どのアプローチ方法も完璧ではないことが、コロナ禍を経てより明らかになった。
eプロモーションに対しては、医療情報サービス業界を牽引してきたエムスリーの失速により悲観的な声もあるが、MRのアウトソーシングとしての視点では、成長の機会は多く存在する。製薬企業が新薬のシェア獲得にMRのリソースを集約するなか、医師に会えない状況に対応すべく、医師と製薬企業をつなぐマッチングサービスが求められている。同社ではこれらの需要に対する解決策を提供することで、既存のCSOやeプロモーションとは一線を画す、完全なMRの業務委託を目指している。
25年以上の業歴と1万人以上の医師への取材や調査、番組出演、記事の投稿などを通じた様々な接点を有する同社は、MRでは医師に会えないという課題を解決するほか、既存事業においてもサービスの継続的な改善を実現し業績を伸ばしている。また、急激な市場環境の変化に伴い機会と課題が表裏一体となるなかで、KOLや専門医とのエンゲージメントを実現する新しいサービスモデルの開発を掲げており、これまでの企業買収や戦略的提携は新たなサービスモデルの確立と高いレベルで相関している。既存事業が安定収益基盤として成長するなか、新たなサービスモデルの確立により成長の飛躍的な加速が期待できると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 茂木稜司)
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