平和RE Research Memo(6):サステナブルな投資主還元を目指す(1)
1. 新中長期目標「NEXT VISION II」
平和不動産リート投資法人<8966>は2009年9月に平和不動産が単独スポンサーとなり、2011年5月期までの「成長基盤の再構築」、2011年11月期から2013年5月期までの「再成長軌道への回帰」を経て、2013年11月期からは「安定成長軌道」の段階に入った。すなわち、安定した資金調達による本格的な成長フェーズであり、着実な外部成長及び内部成長によって分配金向上を目指してきた。この結果、2009年11月期の物件数46件、資産規模921億円、分配金734円/口から、2023年11月期には物件数126件、資産規模2,284億円、分配金3,300円/口へと大きな成長を遂げている。
同REITでは、2021年11月期より今後5~10年で目指す姿を「投資口の流動性向上を推進するステージ」と位置付け、中長期目標「NEXT VISION」に基づき、(1)分配金3,300円/口(2021年5月期比500円増)、(2)資産規模3,000億円(同1,159億円増)、(3)AA格への格上げ、(4)再生可能エネルギー電力の導入割合100%の達成の数値目標を掲げて推進した。その結果、格付はAA-に向上、再生可能エネルギー電力への移行を完了し、分配金も2023年11月期に達成するなど、資産規模を除いて目標を達成した。
そこで、2024年5月期からは「サステナブルな投資主価値の向上を追求するステージ」と位置付けて、新たな中長期目標として「NEXT VISION II」を掲げ、(1)分配金3,800円、(2)資産規模3,000億円、(3)内部成長として賃料収入年率+1%とROI10%、(4)格付AA、(5)GHG90%削減と再生可能エネルギー電力100%の数値目標を目指す。
「NEXT VISION II」では、数値目標の達成を目指す過程で、潤沢な内部留保残高と含み益の活用などの「攻め」の資金活用によって、バリューアップ工事や物件入替によるポートフォリオのブラッシュアップ戦略を推進するという内部成長により、サステナブルな投資主価値の向上を追求する点に最大の特徴がある。実例として、既にバリューアップの短期回収型では、ROI10%を目指したオフィス・レジデンス専有部での水回り部分のアップグレードやゲストルームの貸室への変更など、特に中小企業のニーズに合ったオフィススペースの提供による賃料引き上げを実現している。また、中長期回収型では、外壁・エントランスの変更などオフィス共用部のバリューアップ工事を行っており、テナント入替時や既存テナントとの交渉によって中長期的に賃料引き上げにつなげる方針だ。その他の数値目標では、AAへの格上げによって、投資家層の拡大とファイナンスコストの抑制を図る。さらに、GHG削減など、環境問題へも十分に配慮している。
なお、「NEXT VISION II」における分配金向上については、外部成長で+112円/口、内部成長で+198円+α/口、財務運営で-55円/口を見込み、特に内部成長の戦略的な「攻め」の資金活用によって+αの上乗せを計画する。さらに、潤沢な内部留保で4,959円/口、含み益で50,021円/口の支払余地があることが同REITの大きな強みである。
2. 外部成長戦略
外部成長戦略では、「着実かつ健全な外部成長」「継続的な入替戦略の実施」「投資機会の拡大・中長期で競争力を有するポートフォリオの構築」を運用方針としている。「着実かつ健全な外部成長」としては、ポートフォリオの質と収益性の向上に資する物件に厳選投資し、スポンサーと協働することで開発など多様な手法による取得機会の拡大を図ることに加え、フリーキャッシュ及び借入余力を活用した機動的な物件取得を行う。「継続的な入替戦略の実施」としては、低収益物件や小規模レジデンスを優良なオフィスやレジデンスに入れ替えるなど、引き続きポートフォリオの収益力改善を図る。「投資機会の拡大・中長期で競争力を有するポートフォリオの構築」としては、オフィスとレジデンスの枠組の中で、都市型商業施設をはじめとした中長期的に安定収益を見込める物件への投資や、テナント需要の変化・社会的ニーズへ対応するため、今後の需要が見込まれる投資対象を検討する方針だ。
スポンサー変更以降、資産の入替戦略を積極的に進めてポートフォリオの再構築を図るとともに、稼働率の上昇や賃料改定などにより収益力強化を図った結果、2023年11月期には含み益がさらに拡大し、NOI利回りも上昇するなど、ポートフォリオの質が大幅に改善している。今後も同戦略を推進することで、ポートフォリオのさらなる改善を図る方針である。
同REITのスポンサーである平和不動産はオフィス及びレジデンス開発を積極的に展開しており、同REITはその中から物件を取得している。2023年11月期は、2023年6月に実施した3年連続となる公募増資やLTV余力の活用により、平和不動産のパイプラインから販売用不動産のうちオフィス2物件を取得した。このように平和不動産の販売用不動産のストックは、将来の同REITの外部成長を支えている。加えて、同REITでは、普通借地権を活用したパイプラインの構築に取り組んでいる。スポンサーである平和不動産との協業により、借地権のデメリットを克服し、メリットを最大限に享受できるスキームを構築できるのが強みである。また、共有物件・区分所有物件の追加取得によって、ポートフォリオ価値の向上にも取り組んでいる。なお、2023年11月期には、スポンサー以外の第三者からのオフィス1物件の取得も行っている。今後も公募増資によって資産規模の増加、DPUやNAV(純資産価値)の成長、LTVの引き下げを推進し、レバレッジを活用した成長余力の確保を目指している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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