ポエック Research Memo(9):3つの新規事業を公表
同社グループは、ライツ・オファリングにより調達した資金を、1) ものづくり技術を活用した新規事業として水耕栽培事業のための栽培用装置の製造工場及び実証用温室(ビニールハウス)の建設を目的とした設備投資資金、2) M&A、資本・業務提携及び投融資のための待機資金に充当する予定だ。2023年7月にリリースした新規事業説明資料に沿って3つの新規事業、すなわち1) 水耕栽培事業、2) 亜臨界水プラント、3) トルクオン(ベルトコンベアローラ損傷検知装置)について説明をする。
1. 水耕栽培農業(施設園芸及び完全密閉型植物工場)
同社グループは、水・空気をテーマに「環境サステナビリティ」へ持続的に取り組んでいる。持続可能性という観点から見ると、日本は資源が乏しく、自給率の低さに危うさがある。国土のおよそ3分の2を森林が占め平野部が少ない。また、農業の高齢化と後継者不足が進む。2020年の基幹的農業従事者数のうち、65歳以上の階層は全体の70%(94万9千人)を占める。49歳以下の若年層の割合は11%(14万7千人)でしかない。日本の食料自給率は、低下の一途をたどっている。日本のカロリーベース食料自給率は、38%(2022年度)と米国の110%(2020年暦年、以下同じ)、フランスの117%、ドイツの84%、英国の54%、スイスの49%に比べ劣る。1965年度おける日本のカロリーベース食料自給率は73%であった。
2020年に、農林水産省は2030年度の食料自給率をカロリーベース(供給熱量割合)で45%へ、生産額ベース(消費仕向額割合)で75%に引き上げる目標を掲げた。2022年度の実績は、それぞれ38%、58%であった。品目別自給率では、野菜がカロリーベースで75%、生産額ベースで87%と高く、果実はそれぞれ30%と62%になる。自給率が高いものの、生産努力目標としては、野菜が2018年度の1,131万トンから2030年度に1,302万トン(171万トン増加、15.1%増加)へ、果実が同283万トンから308万トン(25万トン増加、8.8%増加)と掲げられている。
同社グループが取り組む水耕栽培農業は、施設園芸及び完全密閉型植物工場となる。特徴は、ナノバブル技術の利用にある。ナノバブルは、気泡サイズがナノ(百万分の1ミリ)レベルで最も小さい泡と定義される。工業分野は機械の洗浄、水産業界が水質浄化に利用されており、農業分野では作物の生育促進といった効果が報告されている。同社グループのPBSは、富山県下新川郡に工業用地約8,000坪を所有しており、2024年始めまでに事務所棟兼完全密閉型植物工場施設を完成させる予定だ。新工場は、水耕栽培関連設備の製造を行う。子会社の太陽光水耕栽培実験場(温室)では、まず他所で実績が出たメロンの栽培を手がけ、その後農作物の生産品目を広げる。水耕栽培先行企業・農家からの情報提供に基づいた「失敗しない農作物」への参入を心がける。水耕栽培の研究を行う大学等研究機関との協力体制を構築する。ビジネスプロセスとしては、最初に安定収益が見込める農作物の生産・販売に関わる技術やノウハウを蓄積し、農作物販売の収益化を目指す。水耕栽培は初期費用負担が大きいが、先端技術の活用と自動化により、露地栽培より収益が拡大することが期待される。農作物販売の黒字化、安定収益化、高収益化を実現した後で、水耕栽培機材及びシステムの販売、水耕栽培技術の知財提供、コンサルティングへと進む。その後、水耕栽培植物工場の生産拠点拡大、フランチャイズ化を検討する。最終ステージまでの所要期間は、5年をめどとしている。
2. 亜臨界水プラント
三和テスコは、亜臨界水廃棄物処理施設に組み込まれる高温高圧容器の製造の打診を受け、受諾する方向にある。水は、22Mpa(地表気圧の220倍)、374℃を超えると液体でも気体でもない状態「超臨界」となる。3MPa、234℃からの状態を「亜臨界」という。亜臨界水技術を応用することで、廃棄物を有機物に変え再資源として利用でき、有害重金属も無害化、病原菌や細菌、ウイルスも分解し、一般ごみと医療廃棄物を混合して処理可能になる。従来のごみ焼却施設と比べると亜臨界水廃棄物処理施設の土地面積は10分の1で済む。廃棄物の再利用と減量化、CO2排出量削減という利点がある。エンドユーザーは、バイオマス発電を行う地方自治体や民間の廃棄物処理業者などになる。従来は、プラントの心臓部の高温高圧容器の製造を行う事業者の規模が小さく、建設ニーズの拡大に生産が追いつかないという課題があった。三和テスコは、溶接、加工、組立の技術を有することから製造の打診を受けた。
3. トルクオン(TorqueOn)
三和テスコは、ベルトコンベア軸受損傷検知システム「TorqueOn トルクオン」を開発した。2023年5月に、同技術はスマート保安プロモーション委員会よりスマート保安技術として認定され、「スマート保安技術カタログ」に掲載された。経済産業省では、産業保安力強化の方策として保安業務にIoTや人工知能(AI)等を活用する新技術の実証や活用に取り組み、スマート保安を促進している。
ベルトコンベアのローラ及びベアリングは、長期間の稼働により摩耗するため、交換する必要がある。点検が遅れると、過度の摩耗によりベアリングの損傷や摩擦による火災のおそれがある。その場合、業務復旧までの大きなダウンタイムが発生してしまう。従来の点検作業は人の視覚や聴覚に頼っており、熟練技術が必要となる。ベルトコンベアはつなぎ合わせると全長が数キロにも及ぶ。セメント会社が石灰を山から運ぶ場合は、その長さが数十キロにもなる。点検箇所が高所にある場合などは、労働災害の危険が伴う。新技術では、設置したトルクセンサがベルトコンベアローラの回転摩擦の変化を読み取り、異常を早期に検知する。期待される効果は、1) ベルトコンベアの火災事故等を未然に防ぎ、安全な工場環境の維持、2) ベルトコンベア点検の精度向上、3) 危険な場所での点検作業の削減による労務環境の改善、4) メンテナンスの合理化、人件費の削減である。約1年かけて実機による実証実験を行った後、日本国内外での商品化を目指す。日本国内では、ベルトコンベアを有するバイオマス発電所、石炭火力発電所等への導入が予想されており、すでに大手鉄鋼メーカーや電力会社から問い合わせが来ている。今後は、IoTなどによる遠隔での常時監視による異常個所の特定をするシステムの開発を進め、さらなる合理化やプラントのDXを推進する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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