サスメド Research Memo(4):DTxプロダクト事業では第三の治療法として注目される治療用アプリを開発
2. DTxプロダクト事業
DTxプロダクト事業では治療用アプリ(診断用アプリ含む)を開発している。治療用アプリとは、薬剤や医療機器を用いた治療(薬物療法、化学療法、外科手術など)ではなく、患者のスマートフォンにダウンロードされたアプリケーションによって治療を施す新しいデジタル療法である。
すべての疾患領域に適用できるわけではないが、生活習慣病、精神疾患、慢性疾患などのように、薬物療法における副作用などの弊害が懸念される疾患領域において、治療用アプリを活用することで患者の日々の生活習慣を変え、治療効果を生むことを目的としている。医師による画面を通したリモート・遠隔治療ではなく、アプリそのものが医師に代わって治療(医学的知見に基づいたアルゴリズムによる患者別の最適な治療介入)を行う。そして医療従事者に対しても患者データを提供し、より適切な診療・治療介入につなげる。
誰でも利用できる一般的なヘルスケアアプリ(ダイエットアプリ、歩行数計測アプリなど)と異なり、治験によって確認された有効性・安全性に関する医学的エビデンスに基づいて、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の医療機器として規制当局の薬事承認を得ることが必要になるため、治療用アプリの開発には一定のハードルが存在する。また、医師による診断・処方を受けて、医療機関からアカウント情報を発行された患者だけに利用権限がある点もヘルスケアアプリと異なるポイントである。したがってマーケティングの対象は、一般消費者ではなく、医師または医療機関となる。収益は、診療報酬(保険収載された治療用アプリによる診療報酬は保険70%、患者自己負担30%)を受け取った医療機関から、処方数に応じた代金を受領する仕組みである。
例えば不眠障害領域においては、睡眠薬などを用いた薬物療法が一般的だが、副作用や依存性などの弊害、患者自身の睡眠薬服用への抵抗感などが課題とされている。近年では認知行動療法(個人の認知や行動に働きかけることで病態を改善させる治療法)が注目され、米国国立衛生研究所では不眠障害治療の第一選択として推奨している。ただし日本国内では認知行動療法を実施するための医療リソース不足が課題とされており、薬物療法がいまだ治療の中心となっているのが現状である。こうした課題に対して、治療アプリは薬物療法で懸念される副作用や依存性などの弊害の可能性が低く、医療リソースの多寡によらず認知行動療法を患者に提供できる治療法となり得る。
医師にとっての治療用アプリ活用のメリットは、医師の直接介在が不要となるため対応できる患者数を飛躍的に増加させるだけでなく、蓄積されるデータを活用して患者に適切な治療方針を示せることにある。患者にとっては通院と通院の間の「治療空白」時間も治療用アプリを通じて適切なサポートを受けられるため、慢性疾患治療において特有の「治療中断率が高い」「適切・適時・適量の治療介入が受けられないため結果的に療養が長期にわたる」という課題の解決につながることも期待される。
海外では比較的早い時期から治療用アプリの承認が進んでいる。2010年に初めて米国Welldoc Inc.の糖尿病治療用アプリが米FDA(食品医薬品局)の承認を取得し、最近では2020年6月にイギリスでOVIVA UK LIMITEDの2型糖尿病治療用アプリ、同年10月にドイツでmementor DE GmbHの不眠症治療用アプリ、同年11月に米国でNightWare,Inc.のPTSDによる悪夢に関連する睡眠障害治療用アプリ、同年12月にドイツで偏頭痛用アプリなどが承認されている。また、英国国立医療技術評価機構(NICE)は、不眠症治療において睡眠薬の代わりに治療用アプリによる治療を推奨している。
日本では治療用アプリの開発・承認が海外に比べて遅れているものの、厚生労働省は医療費の抑制、先端医療機器の開発・導入・産業化への取り組み、医療従事者の働き方改革などの視点も含めてガイドラインを策定し、アプリやAIを使用したプログラム医療機器(ソフトウェア単体含む)の普及促進に向けて承認環境の整備を推進する方針を示している。そして2014年に国内初のソフトウェア単体アプリとして(株)アルムの脳卒中治療支援アプリが承認され、最近では2020年12月に(株)CureAppのニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーが国内初の治療用アプリとして保険適用を受けた。また2022年9月にはCureAppの高血圧治療補助アプリが保険適用となった。
なお、治療用アプリの研究・開発→探索的試験→検証的試験→承認申請→承認→保険収載に至る過程は、医薬品の新薬の開発過程(基礎研究→非臨床試験→臨床試験→承認申請→保険収載)とほぼ同じである。ただし、治療用アプリの一般的な開発期間はおおむね5~6年(アプリ開発6ヶ月程度、探索的試験・検証的試験36ヶ月程度、承認申請24ヶ月程度)で、10年以上を要することも珍しくない医薬品の新薬開発に比べて半分程度の期間となり、開発コストも低く抑えられるため、医薬品開発に比べて相対的にリスクが低くなる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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