翻訳センター Research Memo(1):2023年3月期は主力の翻訳事業の業績貢献により、過去最高益を達成
翻訳センター<2483>は、翻訳業界の国内最大手。医薬分野の専門翻訳会社として創業し、特許、工業・ローカライゼーション、金融・法務など専門性の高い産業翻訳分野で領域を拡大してきた。現在は翻訳だけでなく通訳、人材派遣、国際会議運営(コンベンション)、通訳者・翻訳者教育などに多角化し、顧客企業のグローバル展開における幅広い外国語ニーズに対応している。多数の中小プレーヤーがひしめく分散型事業において、組織化・システム化された営業・制作機能を整備し、品質・スピード・コストのバランス、大規模案件対応などで他社の一歩先を行く。機械翻訳技術の取り込みにも積極的であり、同技術を持つ(株)みらい翻訳と資本業務提携するとともに、社内の翻訳業務にも機械翻訳を活用し、生産性を向上させている。国内翻訳業界を牽引する存在であり世界の語学サービス企業でも上位のポジションである。
1. 事業内容
主力の翻訳事業では、分野特化戦略を推進しており、「特許」「医薬」「工業・ローカライゼーション」「金融・法務」の4分野に分けて専門化し、ノウハウを蓄積している。グループネットワークを生かしたサービスの提案、ICTによる翻訳・通訳登録者マッチングシステムも強みである。現場で制作を担当するのは2,815名(2023年3月末時点)の登録者である。6年前から本格的に機械翻訳や翻訳支援ツールを導入し、品質の向上や作業時間の短縮、さらには売上総利益率の向上を達成している。大規模プロジェクトや多言語対応などに機動的に対応できることも同社の強みである。連結子会社(株)アイ・エス・エスが行う、派遣事業、通訳事業、コンベンション事業はそれぞれの分野でポジションを築いているが、相互に関連していて翻訳事業を含めたクロスセリングが行われ、グループのシナジーが発揮されている。
2. 2023年3月期の業績概要
2023年3月期の連結業績は、売上高が前期比5.9%増の10,947百万円、営業利益が同14.4%増の928百万円、経常利益が同14.1%増の960百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同19.8%増の686百万円と堅調に増収増益を達成した。各利益に関しては、新型コロナ感染症拡大(以下、コロナ渦)前のピークを上回り、過去最高益となった。売上高に関しては、コアビジネスである翻訳事業及び通訳事業が増収をけん引した。翻訳事業は前期比628百万円増(前期比8.0%増)となった。セグメント別では、特許分野と工業・ローカライゼーション分野が増収に貢献した。通訳事業は、コロナ禍から回復し、主要顧客・業界からの受注を大幅に伸ばした。売上総利益は前期比3.6%増、売上総利益率は46.4%と同1.0ポイント低下したものの、高い水準を維持している。これは機械翻訳や翻訳支援ツールを積極的に活用し、翻訳制作の生産性向上に取り組んだ成果である。結果として、営業利益は、増収及び売上総利益増のインパクトが大きく同14.4%増の928百万円となった。セグメント利益では、翻訳事業が同173百万円増、通訳事業が同44百万円増となり増益に貢献した。
3. 2024年3月期の業績予想
2024年3月期の連結業績は、売上高が前期比5.5%増の11,550百万円、営業利益が同7.6%増の1,000百万円、経常利益が同6.1%増の1,020百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同1.9%増の700百万円と各利益で過去最高益を更新する予想である。翻訳事業の売上高は前期比で357百万円増(前期比4.2%増)と前期より伸び率は低いものの増収を見込む。前期に通信関連企業から大型受注のあった特許分野は伸びが鈍るものの同91百万円増(同3.4%増)、製薬カスタムモデルの取り組みが進捗している医薬分野は同223百万円増(同8.0%増)となるなど、いずれの分野も増収を予想する。派遣事業は、前期を底に緩やかに回復するとみており前期比で30百万円増(前期比2.7%増)と堅調に推移する見込みである。通訳事業は、コロナ禍からの反動増は一旦落ち着くものの、引き続き業績が回復基調であり、同45百万円増(同5.4%増)を見込む。コンベンション事業は、準備期間の長い事業であり、受注を積み上げた結果、同147百万円増(同97.2%増)とほぼ倍増となる予想。機械翻訳の活用拡大の効果が顕われる一方、前期の大型案件受注の影響がなくなること等により売上総利益率は2023年3月期とほぼ同水準の47.3%(同0.9ポイント増)を見込む。各セグメントでの上振れ・下振れはあるものの、2024年3月期も売上高・各利益ともに予想値を達成するものと見ている。
4. 成長戦略
進行中の第5次中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)では、基本方針として「ビジネス環境の変化やデジタル化の進展に対応しつつ、業界・ドキュメント別に最適化された言語資産の活用モデルを確立し、対象市場でのプレゼンスを高め、持続的な成長を実現する。」を打ち出している。これまでの業界別に特化して専門性を高める戦略をベースに、新たに「ドキュメント別」という戦略視点が加わった。1つ目の重点施策は「ドキュメント集約メカニズムの構築」である。この事例としては、分野特化型機械翻訳「製薬カスタムモデル」の開発・販売により、人手翻訳が同社に集約し顧客内シェア拡大に成功した事例があり、2023年3月期も製薬会社との取り組みが順調に進んでいる。これと並行して、より細かいレベル(ドキュメント軸)で専門特化領域を育成しており、足元ではIR関連文書が有望である。2つ目の重点施策は「ドキュメント別言語資産活用モデルの確立」である。同社の翻訳業務においてドキュメント別モデル作成により機械翻訳(MT)精度を向上させ、翻訳事業の売上利益率をさらに向上させる。2023年3月期の特許分野における通信関連企業からでの新規受注は、同社のMT活用力が評価されたことも一因であり、今後もMT活用の高度化と活用範囲の拡大を目指す。また、(株)オルツ(東京都港区、以下「オルツ社」)と共同で生成系AIを活用したプロダクト開発に向け実証実験を開始した。3つ目の重点施策は「働き方改革や事業変革を支える経営基盤の整備」である。働き方改革においては、コロナ禍以後に在宅勤務制度を導入し、定着が進んでいる。中期経営計画の重点施策は全体として順調に進捗していると言えるだろう。
5. 株主還元策
同社は、企業の利益成長に応じた継続的な還元を行うことを方針としている。コロナ禍の影響で2021年3月期は減益となったが、その後の業績は大きく回復したため、2023年3月期は配当金45円(前期比5円増)、配当性向21.8%となった。2024年3月期は配当金50円(2023年3月期比5円増)、配当性向23.8%を予想する。過去最高益を更新する予想を背景に、配当金も過去最高の更新を見込む。
■Key Points
・2023年3月期は主力の翻訳事業の業績貢献により、過去最高益を達成
・自己資本比率75%超。無借金経営を継続。短期及び中長期の安全性が極めて高い
・2024年3月期は、2年連続での過去最高益を予想
主力の翻訳事業に加え、派遣・通訳・コンベンションも伸長見込む
・中期経営計画の方針のもと、機械翻訳を活用した業界・ドキュメント別事業モデルが進捗。生成系AIを活用したプロダクト開発に向け実証実験を開始
・2023年3月期は配当金45円(前期比5円増)。最高益更新を背景に2024年3月期は配当金50円(2023年3月期比5円増)を予想
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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