APAMAN Research Memo(7):賃貸管理の収益向上と管理戸数、借上社宅の拡大により持続的な成長を目指す
2. 成長戦略
APAMAN<8889>は「不動産×Technology価値あるサービスを社会へ」をビジョンに掲げ、Platform事業、Technology事業を主軸にテクノロジーを核としたサービスの提供を推進し、持続的な成長を目指す戦略を打ち出した。主な成長戦略として、賃貸管理の収益向上、賃貸管理物件の獲得、借上社宅の拡大の3点に注力することを挙げており、チャレンジするテーマとして、営業キャッシュ・フロー経営に重点を置き、保有資産の圧縮を進めることで実質無借金経営を目指す方針を掲げた。持続的な成長を実現するためには、人的資本の強化も経営の重要課題と位置付けており、直近2年間で社員1人当たり給与を8%アップした(契約社員、アルバイト含む)。今後は職場環境整備やワークライフバランスの充実にも取り組みながら、現在2割強程度の離職率※を引き下げていく考えだ。
※斡旋事業(店舗)については業界全体で離職率が高く、業界平均と比べると同社は若干低い水準にあると見られる。
(1) Platform事業
Platform事業では、DXの推進による業務効率の向上や顧客サービスの品質向上に取り組み賃貸管理や斡旋事業の収益力を強化するとともに、不動産オーナーとのコミュニケーションの促進、管理受託の強化等により管理戸数を積み上げることで賃貸管理事業の収益拡大を進めていく。また、成長余地の大きい借上社宅事業も注力分野としてリソースを投下し、さらなる売上拡大を目指す。
a) 賃貸管理・斡旋事業の収益力強化
賃貸管理及び斡旋事業の収益力強化施策として、斡旋事業においては「アパマンショップ」店舗におけるオンラインサービスの拡充を図ることで集客力及び成約率を高め、斡旋件数を拡大すると同時にIT活用による生産性向上によって収益性を高める戦略だ。接客に関しては物件の探索から予約、内見、重要事項説明、契約、鍵の受け渡しに至るまですべて来店不要で完結する仕組みが構築されたことで、オンラインサービスの利用率も上昇傾向にある。オンライン化することで、店舗スタッフの接客時間も短縮し生産性向上につながっている。今後も業界に先駆けてオンラインサービスの取り組みを推進することで差別化を図り、収益力を強化する考えだ。また、前述のとおり賃貸管理部門と組織統合したことで、店舗スタッフも閑散期には不動産オーナーとコミュニケーションを積極的に取り、要望などをヒアリングし解決につながるサービスを提供するなど顧客満足度の向上につなげていく。
b) 賃貸管理戸数の積み上げ
賃貸管理戸数については、2021年9月期第2四半期に、主にM&A効果によって9万戸台に達したものの、その後の増加ペースは緩やかなものに留まっている。これはM&Aで取得した賃貸管理物件において不採算物件が一定数あり、その契約の見直しを行うなかで解約が発生したことが一因で、それ以外にも解約件数が多かったことが要因となっていた。こうした状況を打破するため、同社は2022年9月期に重点方針として解約率の低減を掲げ、不動産オーナーとのコミュニケーションを密に行い、良好な関係構築に取り組んできた。この結果、解約件数を大幅に減らすことに成功し、その状況は2023年9月期に入っても変わりない。
同社では賃貸管理戸数の獲得については、当面M&Aによる新規獲得に頼らず、既存オーナーの追加物件や口コミ紹介による新規オーナーの獲得によって積み上げる方針を明らかにしている。M&Aと比べて1回で増える管理戸数は少なくなるが、買収コストが掛からないため費用対効果という点では高くなる。人員体制についても現状を維持する方針だ。弊社では、管理戸数1千戸当たりの営業利益は年間で20~30百万円程度になると試算している。年間1千戸ペースで積み上げることができれば、年間20~30百万円の営業利益の増加要因となる。今後は付加価値の高いサブリース契約の比率を高めるほか、「アパマンショップ」の店舗でも閑散期に管理物件の受託に関する営業を推進していく。管理物件を持つことで店舗の収益力強化につなげる戦略だ。なお、中長期的な目標については、2023年9月期の実績を見定めてから設定する意向のようで、その内容が注目される。
c) 借上社宅事業の育成
2021年9月期より本格的に開始した借上社宅事業については、提携社数の規模拡大を図りながら転貸サービス契約件数を伸ばし、2023年9月期の売上高で前期比2倍増の8億円、利益面では収支均衡水準を見込んでおり、2024年9月期の収益化を目標としている。
借上社宅の業界最大手はリログループ<8876>の子会社(株)リロケーション・インターナショナルであり、2023年3月末のグループ管理戸数は約23.8万戸(前期比6.9%増)と増加基調が続いている。借上社宅管理事業の業績について見ても、2023年3月期は売上収益で25,907百万円、営業利益で5,629百万円と増収増益が続いており、安定収益基盤となっている。同社は後発ながらも既に社宅斡旋で顧客基盤を有しており、利益率は低いものの規模を拡大し、付帯商品・サービスを提供することによって安定収益基盤に育てる方針だ。
(2) Technology事業
Technology事業ではAPAMAN DXのさらなる推進拡大に取り組んでいく。DXが遅れている不動産業界のなかで、同社はITを活用した先進的なサービスを提供することで事業を拡大させてきた。具体的な事例を挙げると、物件掲載から接客まで1台の端末でこなすことができる賃貸斡旋システム「AOS」を16年前に開発し仲介・斡旋業務の効率化を推進してきたほか、業界最大級のお部屋探しサイト「apamanshop.com」を立ち上げWebによる集客に取り組んできた。
2020年以降はAI技術を活用して適正な賃料を算出する「査定クラウド」や、IoT技術を活用してキーレスを実現した「Selkeyクラウド」など顧客の利便性向上につながるサービスを相次いで開発した。また、賃貸斡旋会社や賃貸管理会社の生産性向上につながる各種サービスを統合したプラットフォーム「SKIPS」の提供を2021年より開始した。FC加盟店は「SKIPS」を活用することで業務効率の向上を実現しており(FC加盟店は通常のシステム利用料のみで利用可能)、今後はアライアンス戦略により販路を拡大しながら外販の契約件数を伸ばし、2024年9月期からの収益化を目指している。不動産業界はほかの業界と比べてDXが遅れており、BtoB領域のDX市場規模は2020年度の1,257億円から2025年度は約2倍の2,445億円に拡大するとの予測もある。同社においては今後も革新的なサービスを開発することで市場をリードし、Technology事業の成長を目指す。
なお、2023年9月期のTechnology事業の業績については、「次世代AOS」の減価償却負担増により増収減益が見込まれる。「次世代AOS」については段階的に稼働を開始する計画となっているため、減価償却費は2023年9月期に1.3億円程度、2024年9月期に3億円程度が見込まれている。「次世代AOS」は従来システムと比べて業務処理スピードが格段に速くなるほか、入力ミスやコンプライアンス違反などの発生を防ぐ機能も実装しており、同システムの稼働によってFC店舗の収益力は一段と強化されるものと期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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