ドラフト Research Memo(7):年平均成長率10~20%の継続的な拡大を重視
1. 中期経営計画の概要
世界的なデザインマーケットの拡大及びニーズの高まりのなかで、同社グループは2021年10月に中期経営計画を発表した。デザインの領域拡大とプロジェクト規模の拡大により、2030年12月期を目途に売上高300億円の達成を長期的な成長目標とする。中期的な成長目標としては、売上高の継続的な拡大を重視しており、前連結会計年度を10~20%程度上回る成長を目標としている。また2023年12月期は、2022年12月期に達成できなかった売上高100億円の目標にリトライする。同社グループは、高いデザイン性と企画提案力によって創業から15期継続の増収(変則決算期を除く)と着実な業績拡大を実現している。先進的なデザイン提案を強みとし、主力であるオフィスデザインだけではなく、インテリア、プロダクト、商業施設、都市計画、環境設計などあらゆる多様性に対応しながら事業領域を拡大する。
2. 成長戦略
(1) 収益化と価値創造を循環させるプロジェクトタイプ戦略
コア事業であるインテリア・建築のプロジェクトを、同社グループの業績基盤を形成する受注型案件「レギュラープロジェクト」、ビジネスチャンスを増加させる提案型案件「プロポーザルプロジェクト」、ブランド価値向上と新領域の拡大をねらった挑戦的な案件となる「リーディングプロジェクト」の3タイプに分類し、それぞれのプロジェクトを同時並行的に循環させることで、さらなる事業拡大を目指す。
(2) 山下泰樹建築デザイン研究所の設立
建築デザイン領域の専門性向上と先端技術の研究を目的とし、社内独立組織「山下泰樹建築デザイン研究所」を開設。総合デザイン会社としての価値の収益化と、山下泰樹氏のデザインによる価値の創出が相互に作用し好循環を生む。
(3) 組織体制の強化
組織の基礎体力のさらなる拡充を目指し、組織体制の強化を進める。将来的な海外市場の獲得と3Dデザインチームの拡充を目的として、セルビア共和国に新たな拠点を設けている。セルビアは親日度の高い国であり日本との相性も良く、時差を活用した作業効率化も期待できる。国内では、2022年1月に福岡オフィスを新設し活動を開始した。西日本エリアでは急速な開発が進んでおり、特に規制緩和が進む福岡では中長期的な成長が見込まれるためである。3D技術とAIの融合によるプロセス改善、デジタルツールを活用したデザイン技術の向上を目指し、DXとITの統括組織を新設。プロジェクト効率を高め、収益性の向上を目指す。
(4) クリエーション
まだ世の中にない、実験的な企画を積極的に提案・発信し、コア事業へ還元する価値創造の取り組みを強化する。実験的事業への投資・社会課題へのソリューションの提供が、同社グループのブランドの強化・事業領域の拡大に寄与するもの。具体例としては、愛知県幸田町のスーパーシティ構想が挙げられる。コロナ禍でリモートワークが活発化した2020年、実験的企画として日本の狭い住環境を見直す「食寝働分離」を提案、「Re cord」ブランドとして次世代型住居を設計した。この実験的企画がスーパーシティ構想へとつながり、領域を拡大させるきっかけとなった。また、横浜市臨港地区の活性化事業は、デザイン提案から拡がり、エリアマネジメントを含めたまちづくりの提案へとつながり、現在はプロジェクト進行中である。
3. リスクと対応策
同社グループの事業における主なリスクと対応策は以下のとおりである。事業を取り巻く外的要因・内的要因からリスクを適正に認識し、然るべき対応策を講じているものと弊社では見ている。
(1) 景気動向に関するリスク
同社グループは景気動向による影響をリスクとして捉えている。経済情勢の悪化や不測の事態の発生により、市場の急激な縮小や競争環境の激化が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性がある。同社グループでは、デザインを基軸として事業領域を拡大し、収入の多様化を図ることでリスクに対応する。
(2) デザインの模倣または陳腐化のリスク
同社グループの競争優位性の源泉はデザイン力であるが、空間デザインは権利の保護が難しく、模倣されて安価に提供される可能性がある。また、提供するデザインが時流にそぐわず陳腐化する可能性もあり、これらの事象は業績に影響を及ぼすリスクである。同社グループでは、デザインの先端企業として不断の努力を行い、施工実施力との相乗効果で模倣を許さないビジネスモデルを構築することで、このリスクに対応している。
(3) 特定人物への依存について
代表取締役の山下泰樹氏は現役のデザイナーでもあり、経営方針や事業戦略の立案・実施、事業推進において、極めて重要な役割を果たしている。このため、何らかの理由により同氏による業務遂行が困難となった場合、現状においては業績に影響を及ぼす可能性がある。同社グループでは、リスク打開策として、権限委譲による組織的業務執行体制の構築に取り組むため、新たに上級執行役員(COO、CFO、CMO)の3名、執行役員5名を指名し配置している。同社グループは、2021年に13名、2022年に13名を採用し、人員拡充にも積極的に注力しており、2023年も17名を採用予定である。
(4) 役務提供完了予定時期の変更に関するリスク
同社グループの事業は、発注者の意向により役務提供のスケジュールを計画する受注型業務が中心である。このため、発注者の都合による予定変更などにより、役務提供の完了予定時期(売上高の計上予定時期)が、当初の予定から変更となる場合がある。また、大規模自然災害や、感染症の拡大などによる社会活動の停止などにより、役務提供の完了予定時期が変更となることも想定される。このような変更が期末をまたいで発生した場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
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