巴川製紙所<3878>が2021年5月14日に公表した新中期経営計画の2026年3月期の経営数値目標の進捗率について、2022年3月期時点で売上高は91.1%、営業利益は99.1%となり目標値達成目前となった。営業利益率は4期前倒しで目標を達成した。2023年3月期予想は2022年7月に増額修正を行ったが、依然として前期比で営業減益予想である。ただし、為替前提や今後の市場動向次第では再増額が見込まれ、2023年3月期についても中期経営計画を達成する可能性もある。早くも目標値達成が間近となったのは、2021年の計画策定時にコロナ禍による影響など同社を取り巻く環境が厳しく、中期経営計画において保守的な予想を出した経緯がある。その後、コロナ禍の影響から回復し、半導体関連では当時と比較して大幅な市場拡大となった。このため前提条件が大きく乖離し、為替前提も大きく変化した。早晩、中期経営計画の増額修正の発表がなされるだろう。
新たな成長と企業体質変革の同時実現を目指す。静電チャック、高性能金属繊維シートを中心に拡大を推進
新製品売上の拡大、5GやDXを支える事業の展開、SDGs関連製品の展開、構造改革・体質改善による経営効率アップによる企業価値向上を図る方向性に変わりはない。そして、トナー事業、電子材料事業(リードフレーム固定テープ)は安定収益源として収益を確保し、新たな成長と企業体質変革の同時実現を目指す。
(1) 半導体市場成長を睨み新製品攻勢で売上拡大目指す
昨今の半導体市場の活況は、同社の電子材料事業においても追い風となっており、同社は高シェアを有する半導体用リードフレーム固定テープやシリコンウエハ固定用「静電チャック」など、既存製品が売上拡大している。同社は既存の半導体生産工程での利用に加えて、半導体製造装置における新型製品、特殊材料としてユニットに組み上げた機能部品の採用が見込める状況から、さらなる収益拡大を見込む。
1) 「静電チャック」
同社は半導体市場拡大に伴い、競争力ある部材の提供を強化する方針である。具体的には、新中期経営計画における2026年3月期売上高36,000百万円のなかで電子材料事業の売上比を現在の18.7%から24.3%、金額にして5,621百万円を約56%増の8,750百万円まで拡大するとしている。その起爆剤として期待が高いのが新型の「静電チャック」である。
同社は大幅に性能向上した新型静電チャックを開発中で、現在300mmウエハ対応で標準採用となっているセラミック静電チャックに対し、高容量半導体メモリ向け等に利用される新型静電チャックは、2023年3月期下期にユーザーの新モデルに内蔵されることを見込んでいる。
半導体業界の動きとして、2023年3月期はキオクシア(株)の3D-NAND(フラッシュメモリの一種)が162層の積層数となり、iPhoneの2022年モデルにも採用の方向で進んでいるもようだ。また、米国マイクロン・テクノロジー
現在、静電チャック市場は半導体生産の拡大とともに2020年は370億円(前年比40%増)、2021年も30%程度の伸びを示し、全体として500億円弱の市場があると見られる。今後、プラズマエッチング装置が次世代型投入本格化となれば、同分野で10%シェアを獲得するだけで50億円規模の事業となるだけに、同社の新型「静電チャック」の今後の動向には注目したい。
2) 「フレキシブルヒータ」と「高性能ヒートシンク」
金属繊維シートを利用した「フレキシブルヒータ」と金属繊維シートを活用した「高性能ヒートシンク」も注目したい製品である。同社は1980年代より、ステンレスやセラミックスといった金属、無機材料を繊維化、シート化する技術開発を行ってきた。開発例を挙げると、ステンレス100%の多孔質シートがある。金属繊維同士が交互で融着しているため繊維剥離も少なく、厚さは25~500μmまで対応可能で、ステンレスの持つ耐熱性、耐薬品性、導電性などを備えていることから、1998年にノートPC用電磁波シールド材として上市した。また、2016年に同社によると世界で初めて銅繊維のシート化に成功した。銅繊維シートは大電流、小型化が求められるデバイスなどへの用途展開が期待できる。
そして、これらの金属繊維シートを単体として販売するだけでなく、半導体製造装置にユニット製品として組み込んだ製品にすることで半導体製造装置用関連機器として利用する計画が進んでいる。具体的には、金属繊維シートを用いたフレキシブルヒータとして利用するもので、金属繊維シートが熱を通すと瞬時に500℃まで加熱が可能となる。しかも製造装置部材の表面に密着することで熱を効率的に利用できることから、省エネ効果が高い点でも利用価値がある。また前述の銅繊維シートの表面積の大きさを利用して、高性能ヒートシンク材として利用する方向もある。放熱効率が従来品の2~3倍も得られることから製造装置のコンパクト化に役立つだけでなく、水冷から空冷化も可能なことから装置の設計自由度が上がり、省エネ効果があることも大きなポイントである。どちらの製品も本格採用となれば大きな製品に育つと見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
<EY>