翻訳センター Research Memo(4):主力の翻訳事業は4分野に専門特化。大規模プロジェクトなどにも対応可能
2. 翻訳事業
主力の翻訳事業は、翻訳センター<2483>本体、連結子会社のHC Language Solutions、(株)パナシア及びメディア総合研究所が行っている。分野特化戦略を推進しており、「特許」「医薬」「工業・ローカライゼーション」「金融・法務」の4分野に組織が分かれ、専門化している。
a) 顧客業界とサービス内容
「特許分野」の顧客は特許事務所や企業の知的財産関連部署であり、主に特許出願用の明細書など特許関連文書の翻訳サービスを提供する。電機、機械、化学、製薬やバイオといった業種の大手メーカーが中心である。
「医薬分野」の顧客は国内外の製薬会社・医療機器会社であり、医薬品・医療機器の研究開発から承認申請、マーケティングまで、あらゆるステージで発生する文書の翻訳サービスを提供する。グローバルのトップ製薬会社は外注する翻訳会社を絞る傾向にあり、プリファードベンダー(優先調達先)になれないと取引できない場合も増えている。同社では実績と知名度を背景に世界のトップ製薬会社の多く(世界大手の約3分の2)と取引実績があり、大手製薬会社をターゲットにプロジェクト型案件及び顧客常駐型サービスの拡大を推進している。
「工業・ローカライゼーション分野」は、自動車、電機、精密機械といった主要製造業からエネルギー、情報・通信、IT、ゲームといった非製造業まで幅広い産業領域を対象とする。取扱文書は、仕様書、作業手順書、取扱説明書、教育資料、Webサイトなど様々であり、1つのドキュメントから複数の言語に翻訳することも多い。
「金融・法務分野」の顧客は国内外の銀行・証券・保険会社、法律事務所及び企業の管理系部署である。金融関連では目論見書や運用報告書、法務関連では各種契約書、企業管理部署関連では決算短信や有価証券報告書、株主総会招集通知、アニュアルレポートなどのIR関連の開示資料などが代表的な文書である。近年、企業の管理系部署との取引を拡大している。
b) 強み
同社の特長は「組織化・システム化された営業・制作機能」である。これにより要求の厳しい産業翻訳の顧客に対してバランスの良い価値(品質、スピード、コスト)を提供できるうえ、大規模プロジェクトや多言語案件にも機動的に対応できる。
営業機能に関しては、
1) 専門特化によるノウハウ蓄積
2) 信頼されるコミュニケーションと顧客社内他部門への展開
3) グループネットワークを生かしたサービスの提案
などが強みとなっている。
制作機能に関しては、
1) 2,681名の翻訳・通訳登録者(2022年3月末時点)
2) ICTによる登録者マッチングシステム
3) NMT、PE、翻訳支援ツール(CAT)、独自開発ツール・マクロの活用
4) 80言語以上に対応
5) 専門特化した子会社(メディカルライティング、海外への特許出願支援など)
などが強みとなっている。営業及び制作の両機能は相互に影響し合い好循環を生んでいる。
同社は、基本戦略として「NMTに本格的に取り組む事業モデルへの転換」を実行してきた。NMT化を図る戦略のターニングポイントとなったのは、2017年10月に行われた機械翻訳エンジン開発会社であるみらい翻訳への資本参加(持分比率11.3%)である。2016年11月にGoogleが翻訳ツールにNMTを採用したことで翻訳精度が格段に向上したことを背景に、企業が保有する翻訳データを効果的に学習できるNMTが必要不可欠であると判断したことが資本参加の目的だった。現在同社は機械翻訳エンジン「Mirai Translator ®」の代理店として外販活動も行っている。
NMT及びPEを翻訳工程に取り入れ、主要4分野で作業時間の短縮を図る取り組みを開始してから5年間が経過した。成果は売上総利益率の向上という形で明らかとなっている。先行導入した特許分野を筆頭にいずれの分野でも利益率が向上した。価格競争において一部の改善効果は顧客への値引きに還元される。同社ではまだ全ての案件でNMTを活用できているわけではないため、今後も継続して売上総利益率の向上が期待できる。
c) セグメント別業績推移
翻訳事業全体としては、2015年3月期から業績が右肩上がりで推移してきたが2020年3月期に踊り場となり、2021年3月期の業績はコロナ禍の影響により落ち込んだ。2022年3月期は全体として需要の回復基調が鮮明であり、コロナ禍前の2019年3月期水準まで回復したと言える。翻訳事業全体では2022年3月期の売上高は7,828百万円(前期比4.1%増)、営業利益は784百万円(同58.0%増)と増収増益となった。特許分野では、主要顧客である特許事務所からの受注が好調に推移した。医薬分野では、国内外の製薬会社からの安定した受注により増収となった。工業・ローカライゼーション分野では、自動車、機械など製造業の顧客を中心に需要が回復した。金融・法務分野では、企業の管理系部署との取引等が好調に推移した。
3. 派遣事業
派遣事業は連結子会社アイ・エス・エスが行う事業であり、語学スキルの高い人材を顧客企業へ派遣する。昨今は金融関連企業やITサービス関連企業、医薬品関連企業からの求人が堅調に推移している。2022年3月期も期間限定業務の終了などの影響を受けたものの安定した業績を残した。売上高は1,212百万円(前期比1.3%減)、営業利益は86百万円(同17.9%減)と減益となった。
4. 通訳事業
通訳事業は連結子会社アイ・エス・エスが行う事業であり、IRカンファレンスや商品発表会、各種イベントなどでの通訳業務を請け負う。顧客企業における対面での会議・商談の自粛が長期化しているものの、オンライン会議の定着に伴う通訳需要を積極的に取り込み、業績は回復傾向である。ただし、オンラインでの通訳業務は対面に比べると短時間で完了する場合が多く、案件規模が以前より小さくなっている。2022年3月期の売上高は655百万円(前期比37.0%増)、営業損失は16百万円(前期は69百万円の損失)と業績は上向いた。
5. コンベンション事業
コンベンション事業は連結子会社アイ・エス・エスが行う事業である。コンベンション開催のタイミングには、通訳や翻訳のニーズも同時に発生するため、グループシナジーが期待できる。また事業特性として、案件規模が大きくコンペティションで受注が決まるため、業績の変動が大きい。2017年3月期などでは大規模な国際会議を受注し大きく業績を伸ばした。2020年3月期第4四半期からはコロナ禍の影響でイベントの中止や延期を余儀なくされている。続く2021年3月期及び2022年3月期も同様に大型国際会議の開催中止・延期の影響が大きく、完全な回復には至っていない。2022年3月期の売上高は220百万円(前期比26.1%減)、営業損失は16百万円(前期は57百万円の損失)となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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