日産東HD Research Memo(5):環境は不安定だが、EVは明るい将来が見え始めた
1. 自動車業界の環境
半導体不足やロックダウンなどによる車両供給不足が引き続き自動車業界全体の課題となっている。情報機器や家電製品、自動車などの機能が高度化するに伴い、1製品当たりの半導体使用量がオーガニックに伸びているという状況の中、米中の対立でファウンドリ(半導体受託メーカー)が中国から台湾などにシフトする動きがあり、半導体はもともとボトルネックを起こしやすい環境にあった。一方、コロナ禍におけるテレワークやオンライン学習の一般化に伴って情報機器や家電製品の需要が拡大、半導体のニーズも急増することとなった。しかし自動車業界は、コロナ禍による当初の需要減退が終わると予想を上回って需要が急回復したが、半導体の調達で情報機器メーカーなどの後手に回り、自動車生産にボトルネックを起こすこととなったのである。半導体生産には比較的長いリードタイムが必要なため、半導体メーカーが自動車業界のジャストインタイムに合わせた短期契約を避ける傾向となったことも要因の1つと考えられる。加えて、世界的なコンテナ不足や、上海やベトナムなど特に自動車部材の産地で散発するコロナ禍による都市レベルのロックダウンもあり、自動車向け半導体の供給が不安定なまま現在に至っている。この結果、販売現場において車両が不足するという事態が発生することになったのだが、現状、2022年いっぱいは続くとの見方が多いようだ。
2022年3月期の新車販売台数にも、そうした外部環境の変化が色濃く表れている。第1四半期は前年同期の工場の稼働停止の反動もあって伸びたように見えるが、全般的に半導体不足の影響が継続したためマイナス傾向となっている。同社グループと都内の違いは、自動車メーカーによりたまたまある期間の供給が多少するという程度の違いで、同社グループや都内と、全国との違いは景況感の好転した大都市圏がたまたま優先された結果だと思われる。ただし、新車販売台数の伸びを、単純計算だがコロナ禍やコロナ禍に端を発した半導体不足という変動の大きい特異な状況以前(2020年3月期)と比較すると、全国83.6%、都内82.4%、同社グループ84.0%となり、同社は引き続き着実にシェアを向上させているということになる。新車販売台数が減少を続けているのは気がかりだが、そうした事情に加え月々受注残高が積み上がっていることもあり、需要サイドが落ち込んでいるわけではない点は安心感がある。とはいえ、ウクライナ情勢による消費マインドの低下や原燃料高、物流の混乱、急激な円安など景気や企業業績に対するリスクも膨らみつつあり、予断を許さない状況である。
一方、チャンスも巡ってきた。EVは欧州や中国を中心に急速に普及しているが、日本では必ずしも普及しているとは言い難い。EVに本格参入しているのが日産自動車くらいで、新車販売台数に占めるEVの比率がまだ非常に小さいからだ。このため、充電設備などEVのインフラ構築に貢献できそうな駐車場を持つ小売やGSが、費用や回収の点で投資に踏み込めていないのである。そして、充電装置設置の少なさが消費者にEV購入の二の足を踏ませているといえる。そのような中で、EVの旗振り役ともいえる同社だけが、各店舗に充電装置を設置して他社メーカー製のEVも含めて利用可能にするなど、積極的にインフラ投資を続けている。しかし、これまでハイブリッド車とFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)に注力していると思われていた最大手のトヨタが、幅広いラインナップでEVに参入してきた。当然競合とはなるが、それ以上にEVが増加することで市場が活性化する効果は大きく、投資のハードルも下がって国内のEVのインフラ構築が早まる可能性が高まった。EVで先駆している同社としては歓迎できる動きといえよう。
車両供給不足で微減収も、受注は順調に推移
2. 2022年3月期の業績
2022年3月期の業績は、売上高138,378百万円(前期比1.5%減)、営業利益4,407百万円(同27.9%増)、経常利益4,188百万円(同35.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益2,100百万円(同28.2%増)となった。なお、同社は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日)等を第1四半期期首から適用した結果、適用を行う前と比べて、売上高で839百万円増加、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益はそれぞれ81百万円増加している。オミクロン株の感染拡大など引き続きウィズコロナ環境の中、車両供給が不透明な上、燃料費などの経費が上がっており、経営環境は厳しかったといえる。一方、需要は引き続き堅調で、車両供給不足による新車の納期遅れが発生しても受注が積み上がるという状況である。
同社はコロナ禍において、衛生管理を徹底した上で店舗運営を継続し、販売台数の回復に取り組んだ。その結果、顧客の購入マインドの改善もあって受注は順調に回復したが、特に第2四半期以降、車両供給不足による納期遅延が発生したこともあって販売台数が伸び悩んだ。特に補助金のつくリーフなどEVは、供給が潤沢ならば販売台数がかなり伸びた可能性も否定できない。3販社の統合に関しては、統合初期は通常、営業や企画の統一、システム変更などにより統合デメリットが一時的に顕在化するものだが、同社の場合は、すでに10年前から3販社コラボレーションを進めてきたため、売上へのマイナスの影響はほとんど生じかなったようだ。一方、提案営業を強化した結果、EVやe-POWERなど上級タイプの新型車やコーティングやナンバープレートロックといったオプションが好調で、平均単価が上昇した。
利益面では、車種ミックスの改善に加え整備や中古車販売も堅調に推移したことから、売上総利益率は0.7ポイント改善した。一方、徐々に通常の営業に戻してきたが、リモート商談の増加や土日から平日への商談の分散、インターネットや雑誌で増える顧客の事前知識、事前知識による来店買上率の上昇など、コロナ禍で進んだ効率化も継続した。また、7月の3販社統合による効率化は、販促企画や広告の統一、近隣店との共用による試乗車台数の削減など広告費や設備費の面で顕在化、集約化の効果やスケールメリットも徐々に現れている模様である。このため販管費の効率的使用が進み、実額で引き下げることができ、減収ながらも増益を達成することができた。なお、期初計画との比較では、車両不足が要因で売上高が6,622百万円の未達となったが、提案営業による平均単価の上昇や統合効果などにより営業利益で407百万円の過達となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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