霞ヶ関キャピタル Research Memo(5):ポストコロナを見据え、物流施設開発事業を大幅に拡大(1)
1. 物流施設開発事業
霞ヶ関キャピタル<3498>は、コロナ禍収束後(ポストコロナ)の環境下では物流施設需要が大きく伸びると見込んでいる。個人向けインターネット販売市場(EC市場)の拡大を受け、宅配取扱個数は過去最高の更新が続いているが、日本のEC化率は諸外国に比べて低いことから、今後もこの増加トレンドは継続すると予想される。そのため、物流システム全体の強化、スケールアップ、効率化は社会的課題と言える。
EC向けの物流倉庫はピッキング作業が中心となり、通常の倉庫よりも多くの通路や梱包スペースを要するため、専用のレイアウトが必要になる。従来の店舗-企業間物流のセンターでは対応が難しいことから、新規の施設需要が増え、物流施設市場が拡大すると同社では想定している。一方で、首都圏の物流施設の空室率は、2020年に過去最低水準を記録するなど需給逼迫状態が進行している。消費行動の変化や労働人口の減少といった社会全体の大きな変化を背景としたEC企業による先進大型物流施設に対する需要拡大や、物流施設の省人化設備や自動化設備導入のための需要拡大は、長期的に続くトレンドであると同社は見ている。
さらに、オゾン層や地球温暖化への影響の懸念から、国際協定に基づき2030年にはHCFCフロンの生産が全廃されることから、今後は冷凍冷蔵倉庫ではアンモニア使用型への転換が主流になると考えられる。大都市圏における冷凍冷蔵倉庫の約42%は築30年以上経過(同社調べ)しており、それらがスクラップ&ビルドの対象と考えられるが、アンモニア使用型への転換には数億円以上の設備投資が必要なため、体力の乏しい準大手企業を中心に、大冷蔵倉庫の多くが一斉に廃棄される可能性が大きい。一方、冷凍食品の国内消費量は、(1) 加工技術の向上、(2) 保存期間の長期化、(3) 共働き世代の増加、(4) 冷凍食品に対する抵抗感の減少などの要素により増加傾向にあり、今後も冷凍冷蔵倉庫の需要は拡大すると想定される。
こうした環境変化を見据えて同社では、需要の高い地域に適切な物流施設を開発する予定である。その一環として、物流ブランド「LOGI FLAG®」を設立し、商標を登録した。ドライ型倉庫である「LOGI FLAG®」(常温倉庫)と、2030年フロン問題にも適応したコールド型倉庫「LOGI FLAG® COLD」(冷凍冷蔵倉庫)の2タイプを提供していたが、これらに加え2022年8月期よりオートメーション型倉庫「LOGI FLAG® TECH」の開発に着手している。オートメーション型倉庫は、空間の有効活用、作業の効率化、省人化など、施設利用者にとってメリットの多い自動倉庫設備を設置した倉庫であり、ECからの需要が高い施設である。常温倉庫は大手不動産会社の参入により取得競争が厳しい状況にあるものの、冷凍冷蔵倉庫は新しい分野であり、高付加価値で利益も大きく、環境配慮型の物流施設となることから展開を進めている。なお、物流施設の空室率については、首都圏だけでなく関西圏でも5%を下回っており、今後は地方圏へこの状況が広まっていくことが見込まれている。物流施設開発事業は、世の中のニーズや市場環境の変化を捉えていち早く新規ビジネスとして立上げ主力事業に育てるという、同社の柔軟なビジネスモデルの好例と言えよう。
また同社では、業界最高水準の物流施設開発体制が整っている。すなわち、物流施設開発のプロセス((1) テーマ構築、(2) ソーシング、(3) リーシング、(4) プロジェクトマネジメント)を内製化している。具体的には、市街化区域では付加価値の高い冷凍冷蔵倉庫を選択し、ドライ型倉庫は調整区域での開発を行うことで競争優位性を実現している。特に、「(1) テーマ構築」が同社の競争力の源泉となっていることに注目したい。長年の実績と豊富なノウハウを持つメンバーが多数所属している強みを生かした「テーマ構築」により、資金が流入し、同社の業績にも好影響を与えると考えられる。
物流施設開発事業は2021年8月期に立上げを実施した事業であるにもかかわらず、急成長し主力事業となった。中小規模の冷凍冷蔵倉庫をメインターゲットに物流施設開発を進めていたが、大型化が進んでいることも成長の一因である。2022年8月期第2四半期は4件(開発用地売却3件及び地位譲渡1件)の案件が開発フェーズに移行したことに加え、開発用地取得にも継続的に取り組み、順調にパイプラインを積み上げている。プロジェクトパイプラインについては、2021年8月期末時点での計画中/開発中7件372億円、着工済/竣工済4件207億円から、2022年8月期第2四半期末には計画中/開発中7件605億円、着工済/竣工済8件384億円へと急拡大している。なお、同事業はコストがかかるが、開発利益を取り込むことで十分な利益を得ることができる。
2022年8月期第2四半期のトピックとしては、2022年1月に、三菱HCキャピタルと共にLFDによる物流施設開発合弁事業を開始した。三菱HCキャピタルグループは、「社会資本/ライフ」を注力領域の一つに掲げ、不動産リース、不動産証券化ファイナンスをはじめとした不動産ファイナンス事業のほか、不動産再生投資事業、物流施設などの管理・運営事業などを展開している。両社はLFDを通じて、環境配慮型の冷凍冷蔵倉庫、省人化・省力化および運営の効率化を実現する自動倉庫など、環境保全の推進ならびに人手不足などの物流業界が抱える課題の解決に資する物流施設を開発していく。さらに、同社が有する物流施設開発に関するノウハウ、冷凍冷蔵倉庫開発における知識、リーシング力および物流事業拡大の支えとなる豊富な人材と、三菱HCキャピタルが有する物流施設の開発投資で培った知見、豊富な資金力を組み合わせることで、日本を代表する物流施設開発専業会社をめざして事業を推進していく。両社は、今後3年間で総事業費2,000億円規模の物流施設の開発をめざしている。同社による公募増資により用地確保資金を確保したほか、金融機関からのノンリコースローンと三菱HCキャピタルからの出資で開発資金を調達する計画だ。銀行返済後の開発利益は三菱HCキャピタルとLFDに分配され、LFDに分配された利益は出資比率(同社66%、三菱HCキャピタル34%)に応じて享受する仕組みとなっている。2022年1月および2月に開発用地4物件を同社から開発SPCに売却しており、今後は原則LFD経由で物流施設開発を行う予定である。
2015年9月の国連サミットで採択され掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に基づき、誰一人として取り残されない社会を目指して世界中で取り組みが進んでいる。同社も事業活動を通してSDGsの達成に積極的に貢献し、持続可能な社会の実現のため社会問題解決に取り組むためのESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス))経営を行っている。物流施設開発事業についても、開発する物流施設すべてを環境へ配慮した施設にすることを目指している。将来的にREIT組成を目指している同社にとって、開発段階から環境に配慮することは重要と言えよう。具体的には、環境認証取得、クールルーフィング/反射ルーフィングの導入検討、冷凍冷蔵倉庫での自然冷媒/代替フロンの活用、LED等高効率照明器具の導入検討、太陽光発電施設の導入検討、社会活動への取り組みなどを推進している。
2022年2月には、滋賀銀行<8366>と『しがぎん』サステナブル評価融資を活用したコミットメントライン契約を締結した。『しがぎん』サステナブル評価融資は対象会社のESGへの取り組みや情報開示、SDGs達成への貢献について評価し、企業のサステナビリティ経営の支援と企業価値の向上を後押しする融資である。同社が開発を進めている冷凍冷蔵倉庫や環境配慮などが評価され、不動産分野の第1号として選ばれた。これにより、同社は借入金額1,000百万円を限度に2024年2月まで随時借入が可能となり、今後の事業環境の変化に対応するため、機動的かつ安定的な資金調達手段を確保できる。本件は、サステナビリティ経営の推進と企業価値向上、持続可能な社会の実現を同時に推進するものであり、ESGを重視した施策を推進し、事業を通じて社会課題の解決に取り組むものと言えよう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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