エルテス Research Memo(5):デジタルリスク事業の回復やAIセキュリティ事業の拡大により過去最高売上高達成
2. 2022年2月期上期決算の概要
エルテス<3967>の2022年2月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比39.6%増の1,259百万円、営業損失が62百万円(前年同期は148百万円の損失)、経常損失が46百万円(同157百万円の損失)、親会社株主に帰属する四半期純損失が27百万円(同189百万円の損失)と、大幅な増収により先行投資を継続しながらも第2四半期(四半期ベース)で営業黒字に転換した。また、期初の通期予想に対してもおおむね計画どおりに推移しているようだ。
売上高は、2020年12月に買収したAnd Securityの連結効果(約3億円の増収要因)により「AIセキュリティ事業」が大きく伸長したことに加え、主力の「デジタルリスク事業」についてもコロナ禍前(2020年2月期上期)の水準まで回復し、過去最高水準(上期ベース)を達成した。一方、「DX推進事業」は金融機関向け実証実験案件(スポット売上)の剥落により減収となったものの、自治体とのDXプロジェクトが順調に進捗している。
損益面では、成長加速に向けた先行投資(人材採用やマーケティング投資等)の継続により営業損失の状態が続いているが、増収による収益の押し上げのほか、「デジタルリスク事業」の収益性向上、間接コストの見直し(オフィス縮小等)などにより、損失幅は大きく改善した。特に、収益性の高いプロダクト販売への注力による粗利益率の向上や費用削減により、第2四半期(四半期ベース)が営業黒字化したことは、今後に向けて好材料と言える。また、有価証券売却益(721百万円)を特別利益に計上している。
財務面では、親会社株主に帰属する四半期純損失の計上により自己資本が前期末比2.3%減の1,199百万円に縮小した一方、「受取手形及び売掛金」及び「投資有価証券」の減少等により資産合計も同5.2%減の2,307百万円に縮小したことから、自己資本比率は52.0%(前期末は50.4%)に改善した。潤沢な「現金及び預金」(約11億円)の確保を含め、流動比率は397.3%と高い水準にあるため、財務の安全性に懸念はない。
事業別の業績は以下のとおりである。
(1) デジタルリスク事業
売上高は前年同期比5.5%増の903百万円、セグメント利益は同79.0%増の278百万円と増収増益により、ほぼコロナ禍前(2020年2月期上期)の業績水準に回復することができた。特に、アフターコロナを踏まえたリスク意識の高まりに対して、「内部脅威検知サービス」を中心とする高収益プロダクトの販売強化が業績の伸びと収益性向上に寄与した。風評被害対策サービスにおいて「満足保証キャンペーン」※を実施したことも新規顧客開拓につながったようだ。また、継続している内製化の取り組みも奏功し、セグメント利益率は30.8%(前年同期は18.1%)に大きく改善している。さらにはデジタルリスク関連の新規プロダクト(風評対策SaaSや風評対策保険など)を続々とリリースするとともに、アライアンス戦略の加速に向けた取り組みでも一定の成果を残すことができた。
※契約時に設定した成果へ達成しない場合、一定金額を返金するもの。
(2) AIセキュリティ事業
売上高は354百万円(前年同期は26百万円)、セグメント損失は16百万円(同14百万円の損失)と、And Securityの連結効果により大幅な売上高の伸びを実現した。他方、従来からのAIK(旧 エルテスセキュリティインテリジェンス)の警備業務についても、夏の大型イベント需要を取り込むことで損益改善(損失減)を図るとともに、KPIに掲げる新規案件獲得や警備ポスト数も順調に伸びているようだ。ただ、セグメント損失が僅かに拡大したのは、デジタルプロダクト開発や人材採用等の先行投資の継続に加え、コロナ禍による列車見張り業務の減少(一過性要因)などによりAnd Securityの利益が落ち込んだことが理由である。
(3) DX推進事業
売上高は3百万円(前年同期は20百万円)、セグメント損失は37百万円(同23百万円の損失)と減収により損失幅が拡大した。先行投資段階にある事業と言えるが、前期に計上した金融機関向け実証実験案件(スポット売上)の剥落が減収減益の要因となった。もっとも、包括連携協定を締結した岩手県紫波町との取り組みを含め、各方面で大型プロジェクトが予定されており、第3四半期以降での早期収益化を目指している。
3. 2022年2月期上期の総括
以上から、2022年2月期上期を総括すると、警備業務等の一部でコロナ禍の影響を受けているものの、デジタルリスクへの意識の高まりや営業活動の再開とともに、「デジタルリスク事業」がコロナ禍前の水準に回復した点は、今後の趨勢を見るうえで好材料と評価できる。特に、高収益プロダクトの伸びやコスト削減により筋肉質な収益体質への転換が進んできたことは、成長加速に向けた先行投資を継続しながらも、利益捻出が可能となる事業基盤が整ってきたという点で大きな前進と言えるだろう。また、活動面においても、新規プロダクトのリリースや自治体とのDXプロジェクトなどにおいて一定の成果を残すことができた。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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