窪田製薬HD Research Memo(5):「PBOS」は販売パートナー契約締結に向け、性能確認・企業間協議を進行中
2. 遠隔眼科医療モニタリングデバイス「PBOS」
「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜疾患の患者が網膜の厚みを患者自身で測定し、撮影した画像をインターネット経由で担当医師に送り、治療(投薬)の必要性の有無を診断する遠隔眼科医療モニタリングデバイスシステムとなる。機器の仕様については、操作ボタンの大型化や操作方法を音声ガイダンスでサポートする機能を実装するなど、高齢の患者に配慮した設計となっているほか、正確な測定を行えるようにするため、支持台を設けた固定式となっているのが特徴だ。
米国で開発を進めている量産型試作機については2020年7月に初期型が完成し、また、AI技術を活用することによって網膜断面画像を3D化することに成功している。3D化することにより、浮腫が生じている場所や網膜厚の変化を判別する精度が高まることになる。2020年8月から取り組んできたスイス最大規模の眼科大学病院との共同研究が完了し、テーマとしていた網膜断面の3D画像の解像度の検証や測定精度向上に向けたデータの収集、ソフトウェアの改良などを終えており、現在は目標とする性能が得られているかの確認作業と並行して、複数のパートナー候補先企業との協議を進めている段階にある。また、販売パートナー契約が締結されれば、米国にて治験を実施していくものと予想される。
なお、パートナー候補企業としては、加齢黄斑変性等の治療薬を開発する複数の製薬企業が関心を見せているようだ。「PBOS」を患者が利用することによって治療薬の投与タイミングがわかりやすくなり、適切な治療が行われることで治療薬の販売量も増大する効果があると見ているためだ。特に、コロナ禍において感染防止のために受診をできるだけ控えたいとする患者が増えており、遠隔で網膜の状態をモニタリングできるデバイスの需要は患者側から見ても一層増しているものと思われる。病院側も、経営効率の観点から検査のみの患者よりも治療を必要とする患者をできるだけ増やしたいと考えており、「PBOS」のようなデバイスは待望されている。すべての関係者にとって利益を享受できるソリューションとなっている点が「PBOS」の大きな特徴と言える。
米国でのビジネスモデルは、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収する方式となる可能性が高い。保険適用されれば患者負担も大幅に軽減できるため普及も加速していくものと考えられる。米国医師会では、2020年7月1日付で、在宅OCT※の活用を推進するため、保険適用に必要となる手続きのガイドラインを発表しており、販売承認されれば普及する条件は既に整っていると言える。加齢黄斑変性などの網膜疾患は根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使うと失明しない限りは継続して使用される可能性が高く、ストック型ビジネスとして将来的に安定した収益源に育つ可能性がある。米国で普及が進めば、全世界へと展開していくものと予想される。
※OCT(Optical Coherence Tomography):赤外線を利用して網膜の断面を精密に撮影する検査機器のこと。緑内障や加齢黄斑変性等の網膜疾患患者の診断用として使用される。
潜在的な市場規模は、当面は米国におけるウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の患者が対象となる。同社資料※1によれば、加齢黄斑変性の患者数は全世界で1.38億人と推定され、うち米国は1,230万人程度、このうちウェット型は約10%の123万人程度となる。また、糖尿病は世界で約4.15億人の患者数に上り、その約3割が糖尿病網膜症を引き起こすと言われている。日本では糖尿病網膜症患者の約2割が糖尿病黄斑浮腫を併発すると推定されており※2、世界で試算すると1.24億人×20%で約2,480万人となる。米国での患者比率が加齢黄斑変性と同じく1割弱程度と仮定すれば、米国での糖尿病黄斑浮腫の患者数は220万人程度と推計される。これらの試算に基づいた米国での潜在的な利用者数は340万人強となる。仮に月額利用料を千円、普及率30%とすれば年間で120億円の市場が創出されることになる。潜在的な利用者数は加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫だけでなく、その予備軍なども含めれば全世界で1億人を超えると見られ、また、高齢者人口は今後も増加の一途を辿ることを考えれば、「PBOS」の潜在的な成長ポテンシャルは極めて大きいと言える。
※1 出典:Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 中野 早紀子,第114回(公財)日本眼科学会総会2010:135(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症患者の20%に発生するという報告に基づく)。
なお、在宅OCTに関心を持つ眼科医や患者の割合はいずれも50%以上との調査結果(2018年)※があり、また眼科医で患者が在宅OCTを受け入れると推定した割合も米国で38%、日本で30%となっている。コロナ禍の現状ではさらに関心が高まっているものと思われ、「PBOS」の潜在需要は大きいと弊社では見ている。なお、日本では在宅OCTの保険適用が認められる状況となった段階で参入するものと予想される。
※加齢黄斑変性治療薬を手掛けている大手製薬企業であるノバルティスが2018年に作成した在宅OCT市場に関する調査。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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