1. クラウドサービス市場の動向
企業の情報システムの歴史を紐解くと、1960年代前半のメインフレームの普及から始まり、1980年代にはオフコン/ミニコン時代となり、1990年代後半からはパソコンの普及に伴って分散処理型のクライアント/サーバーシステムへと形態が変遷し、2000年代後半からは通信ネットワークの高速化やインターネット技術の進展を背景に、クラウド・コンピューティング市場が立ち上がり、現在は企業がコンピュータを「所有」する時代から「利用」する時代へと移行する過渡期となっている。
クラウド・コンピューティングとは、SalesforceやAWSなどのクラウドサービスプラットフォームからインターネット経由でコンピューティング、データベース、ストレージ、アプリケーションをはじめとした、様々なITリソースをオンデマンドで利用することができるサービスを指す。従来、企業は自らで情報システムを構築、運用・管理しなければならなかったが、クラウドを利用することでこうした手間や時間が省け、業務の効率化や投資コストを抑えることが可能となる。また、情報システムの構築にかかる期間も短縮できるため、企業側の導入メリットは大きい。特に、ここ数年は通信ネットワークの高速化やクラウドサービス事業者のセキュリティ対策が強化されてきたこと、サービスの拡充が進んでいることもあって、規模を問わず既存システムからクラウドへ移行する企業が増加傾向にあったが、コロナ禍を契機として経営のDXを進める動きが活発化するなかで、ERPシステムも含めてクラウドに移行する動きが加速している状況にある。
国内パブリック・クラウドサービスの市場規模は、今後も拡大が続くと予測されている。自社でコンピュータシステムを保有している企業あるいは官公庁は多く、今後もこうしたユーザーがパブリック・クラウドサービスに移行することが高成長の背景にある。特に、大企業が多く利用しているSAPのERPシステム「SAP ERP 6.0」について、標準サポートが2027年に終了することになっており、それまでに次期ERP製品となる「SAP S/4HANA」等へ移行する必要があり、その際にクラウド利用形態でのリプレースを行うケースが多く、SAP ERPのクラウド移行案件についてはインテグレーター側の人的リソースが限られていることもあって、少なくとも2027年まで繁忙状況が続くとの見方が有力となっている。
なお、パブリック・クラウドサービスはサービス形態により、SaaS※1、PaaS※2、IaaS※3の3つに分類される。このうち、PaaSやIaaSではAWSがトップシェアとなっており、Microsoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)が続いており、世界的にはほぼ3社で寡占する状況となってきている。一方、SaaSについてはアプリケーションごとに参入ベンダーが異なっており、営業支援、顧客管理分野においてはSalesforceが世界トップとなっている。年平均成長率で見るとSalesforceで29%、AWSで41%となっており、Microsoft(マイクロソフト
※1 SaaS(Software as a Service)パッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供する形態。代表的なサービスとしては、SalesforceのSales CloudやMicrosoftのOffice 365、GoogleのG Suiteなどが挙げられる。
※2 PaaS(Platform as a Service)アプリケーションソフトを稼働させるためのサーバーやOSなどのプラットフォーム一式を、インターネット上のサービスとして提供する形態。代表的なサービスとしては、AWS、Microsoft Azure、Google App Engine等がある。
※3 IaaS(Infrastructure as a Service)情報システムの稼働に必要な仮想サーバーをはじめとした機材やネットワークなどのインフラを、インターネット上のサービスとして提供する形態。代表的なサービスとしては、Amazon Elastic Compute Cloud (EC2)、Google Compute Engine等がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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