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窪田製薬HD Research Memo(7):VAP-1阻害剤候補化合物のスクリーニング評価はポジティブな評価を受ける


■主要開発パイプラインの概要と進捗状況

4. VAP-1阻害剤
2020年4月に子会社のクボタビジョンと皮膚科領域におけるグローバル製薬企業であるLEO Pharmaが、VAP-1阻害剤の治療薬候補の探索に向けた共同研究契約を締結したことを発表した。窪田製薬ホールディングス<4596>はエミクススタト塩酸塩の基礎研究を進める過程において多くの低分子化合物のライブラリを作成してきたが、その中でアトピー性皮膚炎や変形性関節症などの炎症性疾患に関わっているとされるVAP-1※の働きを阻害する化合物を数十種類発見しており、これら化合物の中から有望な化合物をさらに絞り込むため、LEO Pharmaで1年をかけてスクリーニング評価を実施してきた。

※VAP-1(Vascular adhesion protein-1):血管内皮表面に存在する白血球接着分子のこと。アトピー性皮膚炎や乾癬、変形性関節症、糖尿病性腎疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの炎症性疾患では、VAP-1の異常な活性化が認められている。このため、VAP-1の働きを阻害することで、これら炎症性疾患の症状を和らげる効果があると考えられている。


この結果、VAP-1阻害剤として有望である可能性があるとしてさらなるスクリーニングを進めているようで、今後、LEO Pharmaと皮膚科領域での共同開発契約に発展する可能性が出てきたと言える。同社の候補化合物は、他社の候補化合物と比較して、VAP-1の阻害効果が高く、かつ選択制が高い(副作用リスクが低い)ことがin vitro試験で確認されており、今回のLEO Pharmaでのスクリーニング評価でも、同様の結果が得られたようだ。

VAP-1阻害剤については、適応範囲が広く潜在的な市場価値が大きいため大手製薬企業でも活発に開発を進めているが、上市実績はまだない。どの候補化合物も選択制が低く、VAP-1以外の物質も阻害してしまうことで、副作用リスクを抑えることが出来なかったためとされている。これに対して、同社の候補化合物は選択制が高い(安全性が高い)ことから、候補化合物として有望と評価されてもおかしくはない。共同開発契約が決まれば、LEO Pharmaでは乾癬などを対象に開発を進めていくものと予想される。

一方、同社では皮膚科領域以外について、ほかのパートナー企業との共同開発の可能性について検討を進めていくことにしている。2020年12月には米国国立がん研究所のDTP(Developmental Therapeutics Program)にもVAP-1阻害剤の候補化合物を提出し、抗がん活性のスクリーニング評価を進めている。同スクリーニングの結果、候補化合物の抗腫瘍活性で有効なデータが得られた場合には、がん領域での治療薬候補としてもメガファーマとの共同開発契約に進む可能性がある。


開発資金の有効活用を進めるなか、遺伝子治療薬の開発については一旦規模を縮小
5. 遺伝子治療(網膜色素変性)
網膜色素変性を適応症としたヒトロドプシン※1を用いた遺伝子治療については、2018年1月にSIRION Biotech(ドイツ)とアデノ随伴ウイルスベクター※2確立のための共同開発契約を締結し、同年11月よりプロモーター※3、カプシド※4、導入遺伝子(ヒトロドプシン)の最適化プロセス確立に向けた取り組みを進めている。しかし、現在は研究開発資金の有効活用を進めるなかで開発規模を一旦縮小している。今後、政府機関から補助金を獲得するか、開発資金を拠出する共同開発パートナーが現れれば、再び開発を推進していくことにしている。

※1 ヒトの網膜の杆体細胞を構成するタンパク質の一種。光受容体(光信号を電気信号に変えて脳に伝達する)の機能を果たす。
※2 治療する細胞に治療遺伝子を導入するために利用されるウイルス。
※3 ゲノムから遺伝子の転写が行われるときの、転写開始部分として機能している領域を指す。
※4 ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻のこと。ウイルスゲノムを核酸分解酵素などから保護し、細胞のレセプター(受容体)への吸着に関与している。カプシドはウイルスが細胞に侵入後、細胞またはウイルス自身の酵素によって取り除かれる。


網膜色素変性は遺伝性の網膜疾患で、同社資料によると、米国及び欧州では約4,000人に1人が罹患する稀少疾患であり、患者数は世界で約150万人※と推計され、日本では厚生労働省により難病指定されている。光の明暗を認識する杆体細胞が遺伝子変異により損傷されることで、初期症状として夜盲症や視野狭窄、視力低下などを呈し、時間経過とともに色を認識する錐体(すいたい)細胞の損傷による色覚異常や中心視力の低下が進行し、最終的には失明を来す恐れがある疾患である。幼少期より視力低下が進行するケースでは、40歳までに失明する可能性がある。また、網膜色素変性の発症原因となる遺伝子変異の種類は3千種類以上あると言われており、現段階で有効な治療法が確立されていないアンメット・メディカル・ニーズの強い疾患となる。

※Vaidya P, Vaidya A(2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:030


同社が開発を進めている遺伝子治療法はオプトジェネティクス(光遺伝学治療)と呼ばれるもので、2016年4月に英国マンチェスター大学と、網膜変性疾患の治療を対象とする開発権並びに全世界での販売権に関する独占契約を締結し、開発をスタートした。オプトジェネティクスとは、生存する網膜細胞のうちオン型双極細胞(視細胞から情報を受け取る細胞)をターゲットにヒトロドプシンを遺伝子導入(注射投与)することで、光感受性を持つタンパク質(ロドプシン)を発現させ、視機能を再生させる遺伝子療法となる。

マンチェスター大学におけるマウスを使った実験によれば、オプトジェネティクスで治療したマウスが、スクリーンに投影された襲いかかろうとするフクロウの映像に対して、正常なマウスとほぼ同じ距離の回避行動的反応を示すなど、網膜が持つ視機能のうち光受容の機能が回復したであろうことが確認されている。


現在、オプトジェネティクスの開発は同社以外にも複数のベンチャー企業で進められている。同社の開発する技術は、3千種類以上はあると言われている遺伝子変異の種類に依存しないことや、ヒト由来のロドプシンを使っているため炎症反応など副作用が最小限に抑えられること、他のタンパク質よりも高い光感度が得られる可能性が高いことなど、薬理効果や技術的な競合優位性が高いと考えられる。現在は開発の優先順位が下がっているものの、同技術の開発に成功すれば失われた視機能が回復する画期的な技術として世界的に注目を浴びることは間違いなく、今後の開発の進展に期待したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)


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