(2) アプリケーション・サービス事業
アプリケーション・サービス事業では、特定市場や特定業界向けに、システム開発、アプリケーション・パッケージ、テスト・ソリューション、クラウドサービス等の事業を展開している。対象分野としては医療、CRM、ソフトウェア品質保証、ビジネスソリューションの4領域で、売上構成比は各分野ともに20%~30%で拮抗している。
a) 医療分野
医療分野では、NOBORIが展開する医療情報クラウドサービス「NOBORI」のプラットフォーム上で、クラウド型PACSを中心に各種サービスを提供しているほか、医知悟で展開する遠隔読影のためのインフラ提供サービス「医知悟」が含まれる。
医療分野に関しては、1998年にDICOM規格に対応した医用画像システムを開発し、PACS(医用画像管理システム)市場に参入したのが始まりである。その後、医療情報の病院施設外の保存が認められるようになった機会を捉え、クラウド型PACSのサービスを2012年10月より開始し成長の原動力とした。同社のクラウドサービスは初期導入コストが不要なほか、データはクラウド上で安全に管理されるため、病院側でのデータバックアップ等のメンテナンス業務も不要になるといったメリットがある。また、患者本人の同意と医療施設間の公開設定があれば、他施設の患者の画像、レポートをシームレスに参照することができる。
既存のオンプレミス(サーバを院内に設置する方式)ユーザーの切り替えや、競合他社システムを利用する中規模・大規模病院のリプレイスのほか、従来は初期コストが高く導入に慎重だった小規模医療施設の新規開拓なども進み、2021年3月末時点で契約施設数は1,000施設を超える水準となっている(2020年3月期より競争上の理由から施設数については非開示としている)。また、医療画像等の総検査件数は2.11億件、延べ患者数で3,583万人(複数の病院で画像診断を受ける患者はダブルカウントされている)のデータが「NOBORI」のクラウド上に保管されている。月額利用料は最低5万円からとなっているが、料金は導入後5年間に蓄積される画像データの予想量に基づく従量課金制となるため、大学病院等のヘビーユーザーではその数十倍となるケースもある(サービス契約期間は5年間)。2012年のサービス開始から10年目を迎えるが、顧客事由による解約(閉院等)を除いてサービス内容を理由とした解約は発生しておらず、顧客からも高い評価を受けている。
国内のオンプレミス型のPACS市場では富士フイルムメディカル(株)やキヤノンメディカルシステムズ(株)、GEヘルスケア・ジャパン(株)など大手医療機器メーカーが強いが、クラウドサービス型では同社が約8割と圧倒的なシェアを握っている。医療分野のクラウドサービスでは個人情報保護の観点からセキュリティ対策が重要となるほか、外部保存しているファイルサイズが非常に大きい医用画像をストレスなく院内で参照することが求められるため、ミッションクリティカルなシステムを構築する高い技術力が必要とされる。同社はネットワーク及びセキュリティ分野において豊富な知見と高い技術力を持ち合わせていることが強みになっていると考えられる。
また、「NOBORI」のプラットフォーム上では、オンラインでの検査予約サービスや夜間緊急時に院外にいる担当医師へ画像確認依頼ができるサービスのほか、AI画像診断支援、3D技術を用いた高度な画像解析、音声自動入力など他社の医療関連クラウドサービスなども提供している。2019年4月に資本・業務提携を発表した(株)A-Lineが開発・提供するクラウド型の医療被ばく線量管理システム「MINCADI」もその1つである。「MINCADI」は、医療画像検査装置より得られる情報を自動的に取得し、患者ごとの医療被ばく線量や検査ごとの撮影条件をクラウド上で管理し、最適化するためのソリューションとなる。2020年4月よりX線CT診断装置等における医療被ばく線量の記録・管理が義務化されたことを受け、引き合いが増加している。NOBORIでは各種医療サービスを「NOBORI」のプラットフォーム上で提供していくことにより導入施設数や利用者数を拡大していく戦略で、2021年1月より有料サービスを開始した個人(患者)向けのPHR・医療情報共有アプリ「NOBORI」※も同プラットフォームを通じて提供している。
※現在、無料版と有料版(月額100円)を提供。無料版はデータ保存期間が1年、有料版は無期限となっている。共有できる医療情報(カルテ情報、検査画像、薬歴情報等)やサービス(予約申込やキャンセル等)の内容については医療施設によって異なる。
「医知悟」は遠隔画像診断(読影)を行う放射線科医等の専門医と、画像診断を必要とする医療施設等とをつなぐ情報インフラを提供するサービスとなる。「iCOMBOX」と呼ばれる専用通信装置を、送り手側・受け手側の双方に設置し、「iCOMSERVER(センターサーバ)」を介して送受信するプラットフォームである。2021年3月末現在で650拠点以上の施設に導入され、利用専門医数は1,400名以上(実質的に稼働している放射線科医の約3分の1が利用)、月間の依頼検査数は約20万件、市場シェアは約34%でトップとなっており、月間の依頼検査数は直近で30万件を超える月も出ている。主な導入施設は、医療施設のほか大手健康診断事業者、衛生検査所、各種病院等である。また、2018年4月に「NOBORI」と連携し、「NOBORI」ユーザーであれば専用通信装置を設置しなくても施設外の画像診断を行うことが可能となっている。
b) CRM分野
CRM分野では自社開発製品である「Fastシリーズ」を中心に、企業の顧客サービス向上を支援するコンタクトセンターCRMシステムをオンプレミス及びクラウドサービスで提供している。電話、メール、SNS等による「顧客との接触履歴」と「顧客の声」を一元管理し、コンタクトセンター運営を効率化するCRMシステム「FastHelp」のほか、FAQナレッジシステム「FastAnswer」等を提供している。CRMシステム市場では、パッケージ製品で国内トップシェア、SaaS型ではセールスフォース・ドットコム
主要パートナーは、(株)ベルシステム24(ベルシステム24ホールディングス<6183>子会社)のほか、NEC<6701>や伊藤忠テクノソリューションズ<4739>など大手システム・インテグレーターとなり、各企業のコンタクト(テレマーケティング)センターや顧客サポートセンターで導入されている。また、医薬品業界で「FastHelp」の導入実績が高いことも特徴となっている。製薬企業では、日本製薬工業協会(製薬協)において提唱されている「くすり相談窓口」を一般的に設置しており、国内の5割以上の製薬企業に同社のCRMシステムが導入されている。
c) ソフトウェア品質保証分野
ソフトウェア品質保証分野では、ソフトウェアの品質向上や開発工程の生産性向上を目標に、開発過程での全ライフサイクルを支援するベスト・オブ・ブリード※の開発支援ツール(テストツールなど)及びコンサルティングサービスを提供している。取扱製品のなかでは、ソフトウェアテストツールであるParasoft社製品が組込み系ソフトウェアの開発分野で高い市場シェアを持っている。
※同一メーカーのシリーズ製品を使うのではなく、メーカーが異なっても最良と思われる製品を選択し、その組み合わせで利用すること。
対象となるのは、デジタル家電や情報通信機器、自動車、医療機器、ロボットなどソフトウェアが組み込まれる機器のほか、金融システムのようなミッションクリティカルなソフトウェア等も含まれる。市場別の売上高については、自動運転技術やEV(電気自動車)関連技術の開発需要が旺盛な自動車業界向けが最も大きくなっている。
d) ビジネスソリューション分野
ビジネスソリューション分野では、Web、オープンソース、最新のビジネスインテリジェンス技術等を活用したビッグデータ解析システムの開発(学術研究文献データ分析システムの開発等)のほか、EC事業者向けの業務支援サービス、金融機関向けの統合リスク管理システム等を提供している。また、連結子会社のカサレアルでインターネットサービスに関連するシステム開発や、技術者向けの教育研修サービスを行っている。また、2019年11月には金融工学と情報技術の重なる領域でのシステム企画・設計に強みを持つ山崎情報設計の株式を51%取得し子会社化している。山崎情報設計では金融取引統合管理システム「Apreccia」シリーズを中心に事業を展開している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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