同社グループは、「いつでも、どこでも、『だれでも』使える」をコンセプトに、ユーザーのPCあるいはスマートフォン、タブレット等のモバイル端末から、インターネットを通じて遠くの相手とお互いの顔や資料を共有しながら遠隔会議を行うWeb会議サービスやWebセミナー等の映像コミュニケーションサービスの提供を主力事業としている。こうしたサービスをSaaS(Software as a Service)として提供するだけでなく、Webセミナーなど多数のユーザーが利用するイベントにおいては専門スタッフを配置し、イベントの運営が円滑に進むように顧客ニーズに合わせてソリューションサービスを提供していることが特徴である。これがZoom等のその他Web会議ツールとの大きな違いで、差別化要因となっている。
事業セグメントは従来、ビジュアルコミュニケーション事業、LMS事業、アプライアンス事業の3つのセグメントで開示していたが、コロナ禍による事業環境の急激な変化に伴い、新たにエンタープライズDX事業、イベントDX事業、サードプレイスDX事業の3つに変更している。2020年以降、急速に需要が拡大しているWebセミナーやWeb講演会、バーチャル株主総会等をイベントDX事業として区分し、その他の汎用Web会議サービスや用途特化型サービス、海外子会社で展開するLMS/TMS※などをエンタープライズDX事業とした。また、「テレキューブ」をサードプレイスDX事業として新たに区分している。
※シンガポール子会社であるWizlearn Technologiesが提供しているサービスでLMS(Learning Management System)は学校向け学習管理用プラットフォーム、TMS(Teaching Management System)は企業向け教育研修管理用プラットフォームとなる。
2020年12月期の事業セグメント別売上構成比で見ると、エンタープライズDX事業が56.5%と全体の過半を占め、続いてイベントDX事業が31.7%、サードプレイスDX事業が11.8%を占める。なお、2021年12月期以降はエンタープライズDX事業の比率が5割を切り、イベントDX事業の構成比が最も高くなるほか、サードプレイスDX事業も上昇する見通しとなっている(詳細は後述)。
1. 事業セグメント別内容
(1) エンタープライズDX事業
エンタープライズDX事業は、汎用Web会議サービスとなる「V-CUBEミーティング」のほか、オンライン営業専用のWeb会議ツール「V-CUBEセールス+」、テレビ会議システム「V-CUBE Box」、緊急対策・災害対策用ソリューション「V-CUBEコラボレーション」「V-CUBE Board」、米Qumu
各サービスはSaaSとしてクラウド上で提供され、売上形態は月額で課金するサブスクリプションモデルが大半で、オンプレミス型は自治体向けの緊急対策・災害対策用ソリューションなどの一部にとどまっている。また、シンガポール子会社が提供しているLMS/TMSについても、クラウドサービスとして提供している。同子会社では従来、学校向けが売上の過半を占めていたが、2019年以降政府が内製化方針を打ち出した影響で学校向けが減少し、2020年は企業向けが学校向けを逆転している。
(2) イベントDX事業
イベントDX事業では、様々な分野におけるイベントのリモート化を実現するサービスを提供しているほか、イベントに合わせたツールの提供と運用設計、開催当日のディレクションやログ解析等の運用支援を行っている。イベント開催のためのスタジオや撮影・配信等の機材の提供のほか、スムーズな運営を行うための専門スタッフも現場に派遣(2人程度)し、高い品質のサービスを提供することで、競合他社との差別化を図っている。
主な用途としては、製薬業界向けのWeb講演会のほか、就職・採用オンライン説明会、バーチャル株主総会や決算説明会等での利用が進んでいる。製薬業界向け講演会など「V-CUBEセミナー」による配信サービスについては、年間開催枠を設けて顧客の希望に沿った日時・場所で配信サービスを行う年額サブスクリプションサービスで提供しているケースが多い。
また、2020年11月より従来のオンラインイベントの課題を解決する新たなサービスとして「EventIn(イベントイン)」の提供を開始している。オンラインイベント後に、講演者に個別質問したり、企業ごとに分かれて商談・面談を行うことが可能で、ほぼリアルのセミナーに近いサービスを実現している。また、参加者のイベント中の行動履歴などを取得し、出展者に詳細なデータを提供でき、イベントセミナーの開催効果をより一段と高めることが可能なサービスとなっている。
(3) サードプレイスDX事業
2017年より販売を開始した個室型スマートワークブース「テレキューブ」は、企業内における会議室不足を解消する場として、また、駅構内やオフィスビル、複合施設など公共空間でテレワーク等を行う場として、コロナ禍を機に急速に需要が拡大している。
営業展開は、一般企業向けと公共空間向けの2つの市場に分けて進めている。一般企業向けについては、同社、オカムラ(製造委託先)及び販売代理店を通じて販売しており、2019年12月期第4四半期からは顧客ニーズに応えて初期投資負担が軽い月額サブスクリプションモデルでのサービスも開始している。同社及び販売代理店での販売については、売り切りモデル及びサブスクリプションモデルでの提供での収入が売上高として計上される。一方、オカムラで販売されたものについては、同社がオカムラからロイヤリティを受け取り、売上高として計上している。このため、オカムラ経由での販売が増加すれば見かけ上、売上高が伸びにくくなるが利益率は上昇することになる。
一方、公共空間向けについては、同社でカスタマイズしたのちに、持分法適用関連会社のテレキューブサービスやOEM(他社ブランド名でのサービス提供)先のJR東日本に販売している。テレキューブサービスでは、都心のオフィスビルエントランス部や各私鉄の駅構内、商業施設や複合施設などに順次設置を進めており、個人・法人会員向けからの利用料金を売上に計上する。なお、個人会員の場合、利用料金は250円/15分からとなっている。一方JR東日本では、2019年8月より開始したシェアオフィスサービス「STATION WORK」で設置されるブース型シェアオフィス「STATION BOOTH」の筐体として「テレキューブ」を採用しており、都内の駅から順次設置を進めている。同社の業績としては、テレキューブサービスやJR東日本への「テレキューブ」の販売(売り切りモデル)が売上高として計上されるほか、テレキューブサービスの利益が持分法投資損益として営業外収支に計上されることになる。ただ、テレキューブサービスについては設置台数を拡大する先行投資段階となるため、当面は損失計上が続く見通しとなっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<YM>