アンジェス Research Memo(6):HGF遺伝子治療用製品の臨床試験は日米で登録症例数の積み上げが進む
アンジェス<4563>の主要開発パイプラインには、HGF遺伝子治療用製品、NF-κBデコイオリゴ、DNAワクチン等がある。各パイプラインの概要と進捗状況、今後の開発方針は以下のとおり。
1. HGF遺伝子治療用製品
HGF遺伝子治療用製品は、血管新生作用の効果を活用して閉塞性動脈硬化症の中でも、症状が進行した慢性動脈閉塞症向け治療薬として開発が進められてきた。慢性動脈閉塞症とは、血管が閉塞することによって血流が止まり、組織が潰瘍・壊疽を起こすことによって最終的に下肢切断を余儀なくされることもある重篤な疾患である。治療法としてはカテーテル治療や血管バイパス手術などが行われているが、手術ができない状態になっているケースも多く、新たな治療法の開発が望まれていた。
HGF遺伝子治療用製品は、血管が詰まっている部位周辺に注射投与することによって新たな血管を作り出し、血管新生による血流回復によって潰瘍の改善や安静時疼痛の緩和といった症状の改善を図るというもの。国内では2019年3月に、「標準的な薬物治療の効果が不十分で、血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善」を効能、効果または性能として、条件及び期限付販売承認を取得し※、同年9月より「コラテジェン®筋注用4mg」として提携先の田辺三菱製薬を通じて販売を開始している。用法は、虚血部位に対して筋肉内投与を4週間間隔で2回行い(4mg/回)、症状が残存する場合には4週間後に3回目の投与を行うことも可能となっている。
※本承認の条件は、承認日から5年以内に、1)重症化した慢性動脈閉塞症に関する十分な知識・治療経験を持つ医師のもとで、創傷管理を複数診療科で連携して実施している施設で本品を使用すること、2)条件及び期限付き承認後に改めて行う本品の製造販売承認申請までの期間中は、本品を使用する症例全例を対象として製造販売後承認条件評価を行うこと、の2項となる。
今回は条件及び期限付承認となるため、製造販売後承認条件評価を行うことになっており、5年以内に120症例のデータを収集し、非投与群80症例との比較を行い、同結果を持って本承認の申請を行う予定にしている。本承認されれば薬価も見直される可能性がある。同社では確実に本承認を得るために質の高い患者の登録活動を進めると同時に、実施医療施設も増やしており、進捗状況は2021年2月時点で約90例と順調に進んでいるもようだ。同社の目標としては3年程度で終了し、2024年3月の本承認取得を目指している。
加えて、同社は「コラテジェン®」の対象領域を広げるため、慢性動脈閉塞症での「安静時疼痛の改善」を目的とした第3相臨床試験も2019年10月より開始している。予定症例数は約40例(うち、プラセボ群18例)としている。新型コロナウイルス感染症の影響で医療施設の体制が整わず、当初の予定よりは進捗が若干遅れていたが、2020年秋以降は体制整備が進んだことで、2020年12月時点で約半分まで登録症例数が積み上がっている。こちらも2022年までに臨床試験を終了し、承認申請を目指すことになる。
一方、米国でも2020年2月より後期第2相臨床試験がスタートしている。2019年6月に閉塞性動脈硬化症のうち、包括的高度慢性下肢虚血についてのグローバル治療指針※が公表されており、同治療指針を踏まえて下肢切断リスクの低いステージ1~2の患者を対象に、臨床試験を進めている。主要評価項目は「下肢潰瘍の改善効果」としており、治験プロトコルはHGF遺伝子治療用製品またはプラセボを2週間の間隔を置いて2回投与するというもの。被験者を4mg/回、8mg/回、プラセボの3群に分けて各20症例のデータを収集する(観察期間は12ヶ月間)。
※グローバル治療指針(Global Vascular Guidelines;GVG):包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:Chronic limb-threatening ischemia)の初期段階から適切な治療マネージメントを提供することで患者のQOLの向上を図ることを推奨している。本ガイドラインでは臨床ステージを4段階(clinical stage1~4)に分け、それぞれのステージにおける治療方針が示されており、今回の試験では下肢切断リスクの低いclinical stage1と2を対象としている。このステージの患者には、まず潰瘍の治療を考慮することがガイドラインで推奨されており、該当する患者は全体の約60%と専門家は指摘している。
米国での臨床試験の進捗状況については、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で医療施設の体制が整わなかったこともあり、当初の予定から遅れ気味となっており、現状もニューヨークやロサンゼルスなどの大都市部では困難な状況となっているが、2020年秋以降に体制整備を進めた地方都市部において登録ペースが上がってきているようだ。同社では2023年までに被験者登録を完了し、2024年の試験結果発表を目指している。試験結果が良好であれば、RMAT※指定制度を用いて早期承認を目指すことも選択肢の一つとして考えているようだ。米国における閉塞性動脈硬化症の患者数は日本と比べて格段に多いだけに、今後の開発動向が注目される。
※RMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy):重篤な疾患を開発対象とした再生医療の先端治療法で、臨床試験で一定の効果を示したものに対する指定制度。RMAT指定を受けた品目は優先審査と迅速承認の機会を得ることができる。
そのほか、2019年2月にはイスラエルのKamadaとイスラエルを対象国とした導出(独占的販売権許諾)に関する基本合意書を締結しており、今後、イスラエルでも当局からの薬事承認が得られ次第、Kamadaが販売を開始することになる。現在、Kamadaが同社の臨床試験データを用いて当局と協議を進めている段階にある。また、2020年10月にはスペシャルティ薬(特定疾患専門薬)を扱うトルコのEr-Kimとも、トルコでの導出に関する基本合意書を締結したことを発表している。今後、Er-Kimはトルコ当局での薬事承認を取得後に独占販売権を有し、販売、マーケティング、現地での医療活動に関する役割を担っていくことになる。また、薬事承認に先立って、Named Patient Program※を活用したトルコでの販売を開始する予定にしている。
※Named Patient Programとは、特定の患者に代わって、医師からの要求に応じて、人道的見地から当該国での未承認の医薬品を提供するプログラムのこと。同プログラムに申請して承認されれば、患者は後期段階の臨床試験中の薬や他国で既に承認済みの薬の提供を受けることが可能となる。
なお、HGF遺伝子治療用製品の販売承認を条件付きながらも国内で得られたことで、国内初の遺伝子治療用製品となっただけでなく、プラスミド(DNA分子)製品及びHGF実用化製品、末梢血管を新生する治療用製品、循環器医療領域での治療用製品として世界初となり、遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指す同社にとっては大きな第一歩を踏み出したものと評価される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NB>
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