天昇電 Research Memo(2):老舗のプラスチック成形品メーカー
1. 会社概要
天昇電気工業<6776>は、1936年(昭和11年)に創業した歴史のある合成樹脂(プラスチック)成形品メーカーである。ラジオのキャビネットを木製からプラスチック化したのは同社であり、その後も長い歴史のなかで、様々な合成樹脂の成形加工を手掛けてきた。その間に培われた技術力をベースに、その前段階の金型事業、さらに後工程の塗装などの加工工程へも事業領域を拡げ、生産においても、国内のみならず海外生産へも進出している。現在では、自動車部品、家電・OA機器や機構部品、さらに大型コンテナや感染性医療廃棄物容器など多分野へ展開している。
2. 沿革
同社の創業は1936年に遡るが、それ以降一貫してプラスチックの成形加工を事業として行ってきた。言い換えれば、プラスチック加工の老舗であり名門でもある。
株式については、1961年に東証2部に上場しており、現在までに幾多の主要株主の変遷があったが、現在ではプラスチックコンテナやパレットの大手メーカーである三甲(株)の関連会社が筆頭株主(2020年3月期末現在33.6%保有)、三井物産<8031>が第2位(同13.8%)となっている。さらに2019年9月、保有する自己株式417,800株(発行済み株式数の2.46%)をタキロンシーアイ<4215>に売却した。なお現在の代表取締役社長である石川忠彦(いしかわただひこ)氏は三井物産の出身である。
3. 事業内容
(1) 主要製品と主な向け先
主力事業は、各種プラスチック製品や部品の製造・販売である。プラスチックの加工にはいくつかの方法があるが、同社は射出成形によって製品を製造している。また単に最終製品の製造だけでなく、開発当初から顧客と共同で製品設計、金型設計・製造、成形、塗装、印刷、検査、納品と一貫して行う場合もある。
決算短信に公表されているセグメントとしては、「日本成形関連事業」「中国成形関連事業」「アメリカ成形関連事業」「不動産関連事業」に分けられており、売上高比率(2020年3月期第2四半期)は、それぞれ86.2%、2.7%、8.9%、2.2%となっている。日本、中国、アメリカは販売地域で分けられているだけで、製品内容で分けられているわけではない。「不動産関連事業」は、相模原市、伊那市の建物及び二本松市の土地を賃貸する事業で、毎期安定した収益を挙げている。また2019年3月期からは、米国子会社の株式を追加取得したことから「アメリカ成形関連事業」が新たなセグメントとして追加されている。
また正式な数値ではないが、会社からのコメントによれば、2020年3月期の「不動産関連事業」を除いた成形関連事業の主な向け先(概算値)は、自動車関連が約60%、オリジナル(自社)製品が約25%、家電・OA機器が約15%となっている。製品は国内5工場(福島、矢吹、群馬、埼玉、三重)、海外3工場(中国、ポーランド、メキシコ)で製造されている。
a) 自動車関連
各種内外装品、エンジンルーム用部品、ダッシュボードなど様々な製品を製造・販売している。主要な大手自動車メーカーとはすべて取引があるが、特定のグループには属していない。また部品メーカーでもティア1、ティア2の多くの部品メーカーと取引がある。
b) オリジナル(自社)製品
同社が独自に開発した商品で、各種製品類の搬送用に使われるテンバコ(多目的通い箱)、テンタル(樽型容器)、ミッペール(医療廃棄物専用容器)、雨水貯留浸透槽、テンサートラック(導電性プリント基板収納ラック)などがある。オリジナル製品の利益率は高い。
c) 家電・OA
主に液晶テレビ、照明器具などの筐体や各種OA機器・精密機器・医療機器等の機構部品や機能部品を製造している。
(2) 特色と強み
a) 長い間に培われた技術力と顧客からの信頼
同社は創業当初からプラスチック製品の製造を手掛けており、この間に培われた技術力は高い。さらに単に最終製品を製造するための設備だけでなく、様々な設備を保有しており、これらのコンビネーションにより多くの顧客の様々な要求に応えることができる。これがまた顧客からの信頼につながり、新製品の企画段階から声がかかることも多い。
b) 最先端技術と様々な生産設備
同社は単に製品を製造する射出成形機だけでなく、様々な設備を持っている。例えば、金型製作/設計設備、フィルム加飾設備、試作設備、印刷/ホットスタンプ設備、塗装設備、組立設備、測定/試験設備等であり、これにコンピュータを駆使した最先端の技術と組み合わせることで、常に顧客へ最良の提案ができる体制を築いている。
c) 特殊技術
さらに同社は、以下のような特殊技術も有しており、顧客からの様々な要望に応えている。
1) ウエルドレス/光沢成形技術:特殊金型、成形技術を用いて塗装レスを実現し、漆器のような光沢を出す。
2) 特殊印刷(炭素繊維品塗装):独自の技術を使って炭素繊維(カーボン)への特殊塗装を行う。
3) フィルム加飾:真空・圧空技術によって製品へフィルムを貼り付け転写する。手触り感も表現できる。
(3) 競合
射出成形製品の市場では、多くのメーカーが存在する。しかし、同社が手掛ける製品の多くは、価格が決め手となる汎用品ではなく、同社が企画段階から参画してそれぞれのユーザー向けに設計された製品が多い。したがって、同社と真正面から競合する企業は少ないが、経営陣は射出成形製品だけではなく、幅広い分野への参入を視野に入れている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
<EY>
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