ウイルプラスH Research Memo(4):成長戦略はマルチブランド戦略、ドミナント戦略、M&A戦略(2)
2. ウイルプラスホールディングス<3538>の成長戦略
同社グループの成長戦略は、(1)マルチブランド戦略、(2)ドミナント戦略、(3)M&A戦略である。
(1) マルチブランド戦略
同社グループは、10ブランドを扱うマルチブランド戦略を採っている。自動車のモデルチェンジのパターンは、国産車のフルモデルチェンジがおおむね5~7年間隔であるのに対し、欧米車はおおむね7~8年間隔と長い。販売量の波は小さくなっているものの、モデル末期の販売低下や競合車種の新モデル投入には影響を受ける。同社はマルチブランド戦略を採ることで、モデルチェンジによる販売サイクルの波をブランド間の新型モデル投入時期の差異により打ち消し、平準化を図っている。
2019年(暦年)の外国メーカー車新規登録台数のランキングにおいて、同社が取扱う10のブランドはいずれもトップ20に入っている。同社のブランドの選択基準は、1)ブランド内において主要なディーラーとなる可能性と2)ブランド力が強くコンスタントな販売が見込まれることである。同社は、未取扱いブランドの9以上をターゲットブランドとしている。一般的には、海外メーカーの日本子会社であるインポーターが、ディーラー契約に基づくエリアごとの販売権をディーラーに付与し販売させるが、エリアは既に埋まっていることが多いため、既存のディーラーを買収もしくは事業譲受するM&A戦略が重要になる。
(2) ドミナント戦略
ドミナント戦略は特定の地域に店舗を集中的に出店する戦略を言う。同社は、マルチブランド戦略を活用してドミナント戦略を行っている。ドミナント戦略の狙いは、顧客に複数の選択肢を提供することによる囲い込みと、グループ内での人材の流動化・最適配置による効率性にある。顧客のモデルサイクルの谷間における他ブランドへの乗り換え、もしくは他ブランドの別車種(例えばSUV)を試したいなどのニーズに対応する。もちろんディーラー権を維持するためにも、ブランドごとに一定水準以上の販売台数を上げる必要がある。
同社グループのドミナント戦略の具体例として、神奈川エリアと北九州エリアのディーラーネットワークが挙げられる。神奈川エリアでは6店舗を展開しており、その内訳はジャガー・ランドローバー湘南(アプルーブド平塚・中古車販売)、ジャガー・ランドローバー湘南(湘南ショールーム・新車販売)、ジャガー・ランドローバー湘南(サービスセンター)、JEEP藤沢湘南、アルファロメオ藤沢湘南、フィアット・アバルト藤沢湘南となる。北九州エリアでは、ボルボ・カー北九州、JEEP北九州、BMW小倉、BMW八幡、MINI小倉、ジャガー・ランドローバー北九州の6店舗を展開している。
ブランド別では、2020年6月期はMINIに積極投資をしている。2019年11月に「MINI博多/MINI NEXT博多」をリニューアルオープンして、最新のCI(コーポレート・アイデンティティ)に準拠した。2020年1月には、「MINI山口/MINI NEXT山口」をより好立地なロケーションに移転し、最新CIに準拠した新築店舗をオープンした。また、2019年3月に中国エリアへ初進出を果たしたが、既存の九州エリアの福岡県と比較的近いロケーションの山口県が選ばれた。現在、MINI店舗は、山口県に2ヶ所、福岡県に3ヶ所あり、同エリアでは同ブランドのメジャーな正規ディーラーとなっている。なお、2019年11月に正規輸入中古車専門店となるチェッカーモータース アプルーブド宗像(福岡県宗像市)をオープンした。中古車販売店であることから、マルチブランドの輸入車を扱う。
(3) M&A戦略
M&A戦略は、1)新たなエリアへの進出、2)新たなブランドの獲得(マルチブランド戦略)、3)既存ブランドのシェア拡大になる。なお、進出候補エリアは、人口100万人超の政令指定都市※と40万人超の中核都市となる。
※人口100万人超の政令指定都市は、札幌市、仙台市、さいたま市、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市。
ウイルプラスアインスが2018年12月に「ポルシェセンター仙台」を事業譲受し、東北エリアに進出した。同ケースでは、新たなエリアへの進出と新たなブランドの獲得を同時に行った。東北エリアの全商圏をカバーするため、2019年1月に福島県に2店舗目の「ポルシェセンター郡山」を出店している。通常、新たなエリア進出では、飛び地での成功率が低いため、既存の拠点に近接している地域を選ぶ。高級スポーツカーの代名詞となるPORSCHEは、安定的な販売実績を上げており、2019年の外国メーカー車新規登録台数では第9位とトップ10入りしていることから、戦略的に新ブランドの獲得を図ったと言える。
輸入車の全国正規ディーラー網は国産車ほど多くはないものの、同社拡大余地は大きい。具体的には、日本国内の新車・中古車、サービスを含む拠点数は、BMWが280ヶ所、MINIが207ヶ所、VOLVOの新車ディーラーが122ヶ所ある。
M&A案件の紹介は、インポーター、金融機関、仲介会社と同社もしくは先方からの直接アプローチになる。今後の成長性や事業シナジーなどを検討し、各種デューデリジェンスを経て、事業計画を策定し、投資回収期間などの確認をする。優先的に案件を紹介してもらえるよう、インポーターとは良好な関係構築を心掛けている。一方、金融機関や仲介会社の場合は、競争入札になることが多い。同社グループは、社内の投資回収基準などに沿って入札する。
また、同社グループが扱うブランドの車種や価格帯はバラエティーに富んでいる。販売価格は、FIATが184万円から339万円、MINIは238万円から579万円、PORSCHEは680万円から3,656万円となる。以前は、「輸入車のオーナーは富裕層」「輸入車は壊れやすい」などのイメージがあったが、輸入車と国産車の価格差は縮小し、品質も改善した。価格面で手の届く範囲になり、ユーザー層も広がっている。
(4) 店舗投資など
店舗への投資は、来場客数や顧客満足度(CS)向上によるリピーターの増加につながるため、同社グループでは、既存店舗への投資により最新CIに準拠してサービス品質の向上を図るとともに、より好立地で経営効率の向上が見込まれるロケーションに移転することを進めている。インポーターは、拡販のための新CIへの投資、納期短縮化のための手厚いディーラー在庫などを求めている。小規模で既存のエリア販売権に安住したディーラーの中には、店舗への投資負担、デモカーの増加、新CIへの対応、事業承継問題などで、事業を譲渡するケースが見られる。
新規出店は、商圏の拡大や既存エリアの補完、既存ブランドの業容拡大を狙う。これは、持続的な成長のためには、新規出店と事業譲受により継続的に店舗数を増やす必要があるためだ。企業買収や事業譲受は、前もって時期を決めることができず、投資タイミングを逃すのも得策でない。そのため、M&Aを含めた投資には、波が生じる。同社では、2017年6月期から2020年6月期に積極的な店舗投資を行った。その結果、この期間のCAGRは営業利益が1.4%減に対しEBITDAが10.0%増であった。店舗改装はおおむね一巡していることから、今後は収穫期に入ることが見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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