城南進研 Research Memo(6):事業環境の変化に対応、M&Aや業務提携等も進めながら各種施策を着実に実行(1
2.中期経営計画の進捗状況
城南進学研究社<4720>は2018年3月期からスタートした3ヶ年の中期経営計画において、「大学入試制度改革への対応とソリューション事業の強化(挑戦)」「少子高齢化の進行を見越した収益構造改革(必須)」「顧客ロイヤルティの向上によるLTVの最大化(深耕)」の3点を基本戦略として取り組んできた。業績数値目標(2020年3月期で売上高8,654百万円、営業利益692百万円、営業利益率8.0%)に関しては、基幹事業であった「城南予備校」の縮小スピードが想定以上に速かったことなどにより、当初計画の達成は難しくなったものの、基本戦略の取り組みについては着実に進み、成長に向けた種蒔きもほぼ終わり、今後はその種をどのように育成していくかという段階に入ったものと弊社では見ている。この3年間での基本戦略の進捗状況については以下の通りとなっている。
(1)大学入試制度改革への対応とソリューション事業の強化(挑戦)
a)4技能を伸ばす英語教育の推進
同社は自社を『英語の城南』でブランディングすることを目指し、英語教育関連事業の強化を図るため、これまで、ジー・イー・エヌ、リンゴ・エル・エル・シー、アイベック、Cheer plusの4社をM&Aで獲得し、英語教育サービスの対象年齢層を乳幼児から社会人まで広げてきた。また、4技能を伸ばすための取組みとしては、音法を重視した4技能習得法である「5 Codes English」をリンゴ・エル・エル・シーと共同開発し、「城南予備校DUO」の学習メニューに取り入れる予定となっている。そのほか、「放課後ホームステイ E-CAMP」ではオンライン英会話コースを開始したほか、2018年5月に留学サービス大手のiaeグローバルジャパン(株)※と業務提携し、同社が運営する予備校、個別指導教室等の卒業生の進路としての海外留学や短期語学留学サービスを提供するなど、語学学習の機会とサービスの幅も広げた。
※世界13カ国700校以上の教育機関と提携し、各種留学支援サービスを提供する企業ではアジアでトップ。
今後はこうした子会社が保有するノウハウを共有していくことで、グループ全体で英語教育の品質向上を進め、「英語の城南」のブランド力を強化していくことになる。課題としては、対象年齢ごとに運営会社やブランドが異なっていることにあり、LTVの最大化と「英語の城南」としてブランドを構築していくためには、シームレスなプラットフォームを再構築していくことが必要と考えられ、次期中期経営計画での進展が期待される。
b)ICTを活用した次世代型指導の開発・販売
EdTechの活用による学びの個別最適化への取組みとしては、2016年にWEB学習システム「デキタス」をリリースして以降、2018年にWEB演習システム「デキタス・コミュ」のリリース、並びにプロ講師とAI教材「atama+」を活用した「城南予備校DUO」の展開を開始している。
「デキタス」は学校の勉強を確実に理解することを目的に開発された、小中学生用のWeb学習システムとなる。教科書内容に沿った授業や、多彩な演習問題が5教科すべてラインナップされており、学校の勉強を自分のペースで自由に行えることが特徴となっている。2017年には箱根町教育委員会が開講する公営塾「箱根土曜塾」※の運営を受託し、町内の中学3年生に「デキタス」による学習サービスを提供してきた。「デキタス」導入以前と比べて塾の出席率も劇的に向上し、また、2019年春の高校入試では23人中、21人が第一志望校に合格し、残り2名も第2志望校に合格するなど学力向上の成果も出ており、教育委員会からも高い評価を受け継続受託している。そのほか、子会社の久ケ原スポーツクラブで導入しているほか、(株)ティップネスで運営する児童用スポーツクラブ「ティップネス・キッズ」や海外子女教育振興財団等にも導入されている。
※箱根町では大手進学塾が無く、町内の中学3年生の約半数は隣接する小田原市内へ通塾しており、通塾したくても通えない受験生を支援することを目的に公営塾として開講された。
また、2019年9月には経済産業省の「未来の教室」(学びの場)創出事業における実証事業にも採択され、2019年10月より神奈川県横浜市立鴨居中学校で学力支援を必要とする生徒(不登校または一般クラスにて授業を受けられない生徒、著しく学習に遅れが生じている生徒)を対象に、「デキタス」による個別最適化学習等が2020年2月まで行われる。一方、「デキタス・コミュ」は中学生を対象としたWEB演習システムで、契約先の教育機関・企業向けに提供するサービスとなる。
同社では教育ソリューションサービスとして、「デキタス」「デキタス・コミュ」の導入数拡大に取り組んでいくほか、「城南予備校」に代わる新業態としての「城南予備校DUO」の展開も加速していく方針となっている。2021年3月期は「城南予備校」が終了することによる売上減のインパクトのほうが大きくなる可能性があるが、2022年3月期以降は「城南予備校DUO」の校舎数拡大がそのまま増収に直結することになる。
c)時代のニーズに対応した「真の学ぶ力」の研究と開発
同社では時代のニーズに対応して、「真の学ぶ力」の研究と開発も進めている。医学部志望の学生を対象とした「城南医志塾」ではマインドセットプログラム(内発的な動機付け)を、各事業では生徒の主体的な学びの推進を、「城南AO推薦塾」では未知の課題に対して解決策を探し出す人材育成などの研究と開発を行っており、そのほかにも新学習指導要領に対応して、教科横断的な学習や課題発見・解決能力を育成する科目や問題解決型学習(Project-Based Learning)の研究開発に取り組んでいる。
(2)少子高齢化の進行を見越した収益構造改革(必須)
a)事業ポートフォリオの改善と経営基盤の強化
同社では10年ほど前から少子化と大学入試におけるAO入試の普及等により予備校市場が縮小するであろうことを予見し、その対策を進めてきた。具体的には、事業ポートフォリオを拡大すべく乳幼児・保育事業や英語教育関連事業をM&Aにより強化してきたほか、教育ニーズの多様化に対応するため、映像授業の「河合塾マナビス」の積極展開を図り、同時に個別指導塾の「城南コベッツ」を直営・FCで展開してきた。また、教育分野でAIの利用が可能となったことを受け、AI教材を活用した「城南予備校DUO」を迅速に立上げ、投資を加速しつつある。
「城南予備校」の縮小スピードが想定よりも早かったこともあり、収益の回復がやや遅れた感は否めないが、事業ポートフォリオの改善に関しては、当中期経営計画期間内にほぼ一定の目途をつけたものと評価される。
b)基幹事業間のシナジー効果追求
シナジー効果の取組みに関しては、「城南予備校」のプロの講師を「城南予備校DUO」に配属することにより、AI教材を使った競合企業との差別化が図れると見ており、今後の「城南予備校DUO」の成長が期待される。ただ、今後校舎数が増えてくれば、現在のプロの講師だけでは対応できなくなる可能性もあり、今後も「DUO」の優位性を確保していくためには、講師の採用・育成が課題となる。
また、乳幼児・児童教育関連事業では、「クボタメソッド」をグループ会社の保育園に導入していくことで、グループ保育園の付加価値を向上していくほか、フェアリィーの保育士育成ノウハウをグループ間で共有していくことで、生産性向上を進めていく。そのほか、事業を横断したアルバイトの採用や運営部門の統合による業務効率向上なども今後のシナジーとして期待される。
c)ダイバーシティの推進と人財育成
ダイバーシティへの取組みとしては、ジー・イー・エヌを2019年11月に吸収合併したこともあり、本社従業員の1割が外国人雇用となったほか、保育士の数はM&A効果もあって3年前の10倍に増加した。また、グループ間での人財交流も積極的に行っている。
人財育成の取組みとしては、部署横断型任意参加のチャレンジミーティングを行っているほか、次世代人財育成アルバイト組織「IMPACT」を立上げ、学生アルバイトから即戦力となる人財の採用・育成に注力している。「城南コベッツ」や「河合塾マナビス」等のアルバイト講師から、毎年5~10名が正社員となっており、教室長として配属されるなどしている。また、OJTの一環として他部署の上司との1 on 1ミーティングも定期的に実施し、様々な角度から人財育成を図っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<SF>
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