アンジェス Research Memo(5):長期間の薬効が期待される高血圧DNAワクチンは、第1/2相臨床試験が順調に
3. 高血圧DNAワクチン
DNA治療ワクチンの1つとして、高血圧症を対象としたDNAワクチンの開発を進めている。同ワクチンは大阪大学の森下教授の研究チームにより基本技術が開発されたもので、血圧の昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシン2に対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシン2の作用を減弱させることで長期間安定した降圧作用を発揮するワクチンとなる。
高血圧治療薬の市場規模は国内だけで5,000億円以上、世界では数兆円規模となっており、この一部を代替することを目指している。現在、主力の治療薬としてはARB(アンジオテンシン2受容体拮抗薬(経口薬))があるが、毎日服用する必要があるほか薬価も高い。このため、発展途上国では医療経済上の問題から使用が限定的となっている。アンジェス<4563>が開発するDNAワクチンは既存薬よりも高薬価になると想定されるが、1回の治療で長期間の薬効が期待できるためトータルの治療コストは逆に低くなる可能性があり、開発に成功すれば発展途上国も含めて普及拡大が期待される。
同社は2018年4月よりオーストラリアで第1/2相臨床試験を実施中であり、予定症例数は24例で高血圧症患者を対象としたプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を行っている。観察期間は12ヶ月で、現在のところ特段の支障もなく計画どおりに被験者登録が進んでおり、2020年以降の終了を目途としている。安全性や副作用などの確認だけでなく有効性(血圧の低下等)も確認している。同プロジェクトに関しては潜在市場が大きいこともあり、グローバル製薬企業からの注目度も高く、POCを取得できれば比較的早期にライセンス契約が決まる可能性もあるだけに、今後の動向が注目される。
また、高血圧DNAワクチンではイヌの慢性心不全を対象とした動物用医薬品としての開発も、共同開発先であるDSファーマアニマルヘルスで行われているほか、東京大学医学部附属病院の寄付講座において、脳梗塞や心筋梗塞の発症率を低下させる効果のあることが同研究グループの成果として論文発表されている。このため、今後は高血圧症以外の疾患にも開発が広がる可能性もある。
4. その他の開発プロジェクト
(1) エボラ出血熱抗血清製剤
エボラ出血熱に対する抗血清製剤の開発を2015年より進めている。エボラウイルスのタンパク質をコードとするDNAワクチンをウマに接種し、その血清に含まれる抗体を精製して抗血清製剤を製造する。DNAワクチン技術を保有する米Vicalより国内の独占的開発販売権を取得し、現在はワクチンと感染症の研究開発で世界有数の施設を持つカナダのサスカチュワン大学と共同で開発を進めている。
2019年4月には、サスカチュワン大学の研究施設において、当抗血清から精製した抗体で動物による感染実験(動物にエボラウイルスを接種した後に、当抗体を投与)を実施し、ウイルス感染による死亡を阻止したことが確認されている。今後、臨床試験を実現するために必要となるデータ等の蓄積を行うため、専門医等とも協議しながら前臨床試験を継続して進めていく予定で、最終的にはライセンスアウトすることを基本に考えている。同ワクチンについては、主に罹患者の治療用や感染リスクの高い医療従事者の予防用、パンデミック時の備蓄用などの需要を想定している。
(2) 慢性B型肝炎向け遺伝子治療用製品
2017年4月に、米Vicalと慢性B型肝炎を対象とした遺伝子治療用製品の共同開発契約を締結し、日本における開発・販売権に関する優先交渉権を獲得しているが、現時点では特段の動きは見られない。
(3) Vasomuneとの共同開発
2018年7月にカナダのバイオベンチャーであるVasomuneと、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とした医薬品の共同開発契約を締結した。具体的には、Vasomuneが創製した化合物(Tie2受容体アゴニスト化合物)について全世界を対象とした開発を共同で進め、開発費用と将来の収益を折半する。また、同社はVasomuneに対して、契約一時金及び開発の進捗に応じたマイルストーンを支払うことになる。
最初の適応疾患として重症の呼吸不全である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を想定した非臨床開発を実施、2020年頃を目途に臨床試験の開始を目指している。POCを取得した段階で、製薬企業に開発・販売権を導出することを想定している。
ARDSは根本的な治療薬がないため、有効なARDS治療薬が開発できた場合の潜在的な事業機会は世界で25億米ドル以上あると期待されている。また、将来的には喘息など他の疾患にも共同開発を広げていく可能性がある。同社はHGF遺伝子治療用製品の開発を通じて蓄積した血管疾患に関する知見とノウハウを、今回の共同開発で生かしていくとしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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