クロスマーケ Research Memo(6):Kadenceの構造改革を加速
2. 2019年12月期第2四半期の業績動向
クロス・マーケティンググループ<3675>の2019年12月期第2四半期の業績は、売上高8,808百万円(前年同期比2.3%増)、営業利益423百万円(同7.7%減)、経常利益340百万円(同16.6%減)、親会社株主に帰属する四半期純損失954百万円(前年同期の親会社株主に帰属する四半期純利益は186百万円)となった。
同社は2019年12月期に入って、国内の事業は順調に推移したが、海外リサーチ事業におけるKadenceグループの4社で、業況低迷や大型案件の収益計上の期ずれなどにより当初想定した収益が見込めなくなった。このため、売上高で626百万円、営業利益で43百万円、経常利益で36百万円、各社ののれん1,021 百万円の減損損失を特別損失に計上したため、親会社株主に帰属する当期純利益で1,102百万円の業績未達となった。なお、売上総利益率が1.4ポイント改善しているが、これは低採算の海外大型案件の収益計上が先送りになったこと、販管費率が1.9ポイント上昇しているが、売上未達の中でITソリューション事業やその他事業への投資を継続したことが要因である。また、のれんの減損損失などにより、バランスシートにおけるのれんが327百万円と前期末比1,153百万円減り、下期ののれん償却費は約70百万円程度軽減されることになった(通期ベースでは約140百万円の軽減)。
Kadence以外の事業は順調に進捗
3. 2019年12月期第2四半期のセグメント別業績動向
(1) リサーチ事業
リサーチ事業は売上高6,845百万円(前年同期比3.8%減)、営業利益874百万円(同14.6%減)となった。国内外の事業会社は新規顧客開拓や既存顧客の深耕を進め、各種マーケティングリサーチサービスの提供を進めた。しかし、Kadenceの業績低迷により、国内リサーチ事業の業績で海外リサーチ事業を補いきれず、業績は未達となったと見られる。
a) 国内リサーチ事業
国内リサーチ事業の売上高は4,831 百万円(期初予想比2.4%減、前年同期比8.0%増)となった。国内リサーチの市場は2%超の成長と堅調だが、同社を含み大手上場リサーチ会社は8~10%とより高い成長となっている。これは、ネットリサーチでは常に新しい技術が必要なためシステム投資や運用に多額の資金がかかること、中小リサーチ会社を中心に代替わりの時期に入っていることなどから、上位集中が進んでいることが背景にあると見られる。同社はそうした環境の中で規模や組織面で基盤を確立しつつある。営業体制の強化やデジタルマーケティング・ビッグデータ領域などを含む新サービスの開発・提供により、一部に低迷する事業会社もあったが、調査会社・広告代理店などを中心に受注が増加、医療系調査もグローバル案件対応強化など外資系への積極的な営業展開も奏功し、業績を大きく伸ばすことができた。
創業で主力子会社の(株)クロス・マーケティングも堅調だったが、2015年にクロス・マーケティングから医療系の専門調査領域を分離して立ち上げたメディリードが、高齢化で環境が良好なところに、外資系大手メーカーのニーズを取り込んで大幅増益となった。国内製薬メーカーと異なり患者側調査を重視する海外メーカーは好採算でリサーチニーズが強く、メディリードも専門家を雇うなど陣容を拡大したことが奏功したと言うことができる(結果的に業界にも深く入り込めるようになった)。これに併せてメディリードは、既に全国の男女を対象に「Medilead Healthcare Panel(「MHP」)構築調査」を実施し、国内最大規模となる一般生活者35万人の疾患情報パネル(直近1年以内に入通院歴のある一般生活者:約15万人、同期間に入通院歴のない一般生活者:約20万人)を構築した。
b) 海外リサーチ事業
海外リサーチ事業の売上高は2,015百万円(期初予想比19.6%減、前年同期比23.8%減)となった。海外の事業会社の業績は、リサーチ会社の賞を獲得するなど堅調に推移する拠点がある一方で、複数拠点において業績が低迷した。中でも米国を中心にグループで受注し第2四半期に期待していた大型案件の売上計上が、案件のスタートに時間がかかったため、当初予定から下期以降に期ずれして今期中の投資回収が難しくなった。また、英国やインドネシア、シンガポールでは、買収後の組織体制の変化などにより足元の業況が不安定化している。以上から、保守的な観点から構造改革を加速し、Kadenceののれんを一気に減損したのである。精査が残るエリアもあるが、ガバナンスについては大きく前進したと考えられる。なお、大型案件については、消滅したわけでなく、また、毎期何らかの案件を獲得できているため、一定の期間で考えれば大きな影響にはならないと思われる。
(2) ITソリューション事業
ITソリューション事業は、売上高1,590百万円(期初予想比2.9%増、前年同期比28.6%増)、営業利益159百万円(同45.2%増)となった。金融業界での良好な関係をベースに既存顧客から継続的に受注を獲得、技術力と営業力の強化を背景に新規顧客の開拓も積極化している。一方、開発リソースや品質の管理を徹底することで、粗利率の確保にも努めている。(株)クロス・コミュニケーションでは、上場ネット証券会社の取引アプリのシェアが約60%まで実績が積み上がってきたが、こうした証券業界での信用を背景に、ネット銀行や保険会社など金融機関向けアプリ開発の受注も順調に拡大、売上高は2ケタ増となった模様である。金融機関向けアプリ開発はセキュリティや信用力が重要な要素となるため、安定して開発できるアプリ開発企業が少なく、大手SIerが参入するほどの市場規模がない。このため同社の独壇場となっていると思われ、今後も地方銀行やカード会社などへと拡大する余地は大きいと考えられる。また、2018年に株式取得したサポタントの収益も大きく貢献した模様である。
(3) その他の事業
その他の事業は、売上高371百万円(期初予想比14.1%減、前年同期比34.9%増)、営業利益52百万円(前年同期は1百万円)となった。その他の事業は、プロモーション事業を行っているディーアンドエムを中心に、プロモーションサービスの販売・提供をしている。収益好調の理由は、デジタルマーケティング市場の活況、リサーチ事業とのグループ内連携強化などによる営業組織体制の強化、運用型案件の獲得積極化、好採算案件の確保、シナジーとも言えるアンケートをツールにした集客——などにあると考える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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