BS11 Research Memo(6):自社制作番組やアニメ番組の強化で個別売上高150億円、先頭集団入りを目指す
1. 中期成長戦略の概要
(1) 中期経営計画の概要
中長期の成長戦略については、日本BS放送<9414>は中期経営計画を策定し、中期経営計画への取り組みを通じて中長期的な持続的成長を実現することを目指している。
現在同社が取り組むのは2018年8月期−2020年8月期の3ヶ年中期経営計画だ。これは前中期経営計画『Forward 18 by Team BS11』を1年前倒しで2017年8月期をもって終了し、その基本戦略を引き継ぎつつ、業界環境の変化や各種施策の進捗状況などを反映させて修正を加えたものだ。計数目標としては、最終年度である2020年8月期において個別売上高150億円の実現を掲げている。
個別売上高150億円という値は、先行するキー局系BS放送5社の売上高が150億円~180億円のレンジにある状況のなか、先行5社と肩を並べてその一角に割って入るだけのシェアを確保することを象徴するものと言える。言うまでもなく、売上高150億円という目標はあくまで通過点であり、これまでと同様にBSデジタル放送業界の平均を上回るスピードを維持しながら持続的な成長を実現することこそが真の経営目標と言える。
中期経営計画の実現に向けた基本戦略は、「4つの“力”」と「5本の矢」だ。この基本的な枠組みは前中期経営計画の『Forward 18 by Team BS11』から引き継いだものだ。
「4つの“力”」は同社が持続的成長を実現するために必要と考えるものを示している。すなわち、企画力、キャスティング力、マーケティング力、及びプロデュース力の4つの要素だ。同社の経営理念にもある“質の高い情報を提供すること”を実現するためにはいずれも必要不可欠であり、2007年の本放送開始以来これまでの11年間で着実に積み上げてきたものだ。これらの“力”はこれでよいという“ゴール”がなく、他社との競争や事業環境などで変動する相対的なものと言える。同社が一貫して4つの“力”の強化に取り組む理由はここにある。
「5本の矢」は番組作りと編成に関する5つの重点施策だ。同社の成長戦略において最も重要かつ本質的な取り組みである番組作り・編成に関するアクションプランが「5本の矢」として表現されていると言える。これらのいずれもが重要な施策であることは疑いないが、なかでも1番目の“自社制作番組の充実と拡大”が特に重要かつ象徴的な施策であると弊社では考えている。自社制作番組は主としてプライムタイム(夜7時~11時)という最も競争が激しい時間帯に放送される。同社は昼間帯や深夜帯においては特長ある番組ラインアップで競合他社と同等のポジションを確立しているが、プライムタイムではまだ改善の余地は大きい。同社がプレゼンスをさらに高めて収益拡大につなげるためには自社制作番組の充実と拡大は避けて通れない重要な課題であるという考えは従前から変化はない。
(2) 事業環境の変化と同社の対応
こうした中期経営計画のもと、先行するキー局系BS放送5社を猛追する同社であるが、その事業環境には変化が出てきている。電通<4324>が毎年公表している「日本の広告費」によれば、2018年(暦年)の衛星メディア関連(BS、CS、CATV)の広告費は1,275億円で、前年の1,300億円から1.9%減少した。同社が属するBS放送は衛星メディア関連市場の70%強を占めている。BS放送市場は2000年12月にBSデジタル放送がスタートしたことで本格的に立ち上がり、黎明期の2001年~2003年を除くと順調に右肩上がりで成長が続いてきた。2018年の前期比減少は、正確には2003年以来15年ぶりだが実質的には初めてと言って良いだろう。ただし、市場全体の成長率は2010年代前半までは2ケタ成長が続いていたが2015年以降は1ケタ台に鈍化していた。それが2018年においてマイナス成長になったことで、BS放送市場は明確に踊り場に入ったことが確認されたと言える。
しかしながら、こうしたBS放送市場の停滞は、決してマイナスばかりではない。BS放送市場をマラソンレースに例えれば、キー局系列のBS放送5社が先頭集団を走り、同社は2番手集団のトップとして先頭集団入りをうかがうというポジションにある。BS放送市場全体が低迷しているということはとりもなおさず先行5社の成長が止まっていることだ。同社の立場からすれば先行5社に追いつくチャンスと言える。
同社も同様の現状認識を有しており、ピンチをチャンスに変えてできる限り早期に先頭集団の一角に食い込むこと(すなわち個別売上高150億円の達成)を目指す方針だ。そのための施策は前述の「4つの“力”」と「5本の矢」を基本戦略とする中期経営計画の実践ということになる。その具体的アクションの中核は自社制作番組強化やアニメ番組の強化であり、これらを今後の成長のメインエンジンと位置付けている(詳細は後述)。
こうした同社の目論みの成功はもちろん保証されているわけではない。1つ参考になるのは過去の実績だろう。先行5社は2000年12月からBSデジタル放送を開始したのに対し、同社はそこから7年遅れの2007年12月にBSデジタル放送を開始して市場に参入した。以来、同社の売上高成長率は衛星メディア市場全体やBS放送市場全体の成長率を上回る状態を続け、2019年現在では、売上高において先頭集団にあと一歩に迫った状況にある。
「4つの“力”」と「5本の矢」は同社が直近の4~5年にわたって採用している成長のための基本戦略であり、番組作りや編成、広告宣伝といった具体的アクションにおいては、毎年ブラッシュアップが進んでいる。こうした蓄積は過去の成功例の再現に寄与するものと期待される。
今第2四半期における同社の減収(個別売上高)の主要因となったショッピング業界からの広告出稿の減少について、前述したように同社は悲観していない。ショッピング業界からの出稿量の減少の背景には、商材の一巡があるとみており、これは新たな商材の開発により解決されるとみている。また、新たな顧客層の開拓が進めばそれもまた広告出稿の押し上げ要因になるとみている。しかし一方で、ショッピング業界からの収入について、いわゆるV字回復や一直線での右肩上がりを期待しているわけではなく、上下動を伴った緩やかな回復をメインシナリオとしている。今後の成長のメインエンジンとして自社制作番組強化やアニメ番組の強化を掲げているが、これにはショッピング業界への依存度を下げていくという意思も込められているとみられる。同社のこうしたスタンスは中長期的には経営の安定性増大に寄与すると弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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