エルテス Research Memo(6):「情報銀行」や「電子政府」を見据えた活動にも取り組む
エルテス<3967>の2019年2月期は、2018年2月期に引き続き、今後の事業拡大に向けた先行投資(新規事業等)に積極的に取り組んだ1年となった。特に、新たな成長軸として期待されるAIセキュリティ事業のほか、ポテンシャルの大きな新規事業(情報銀行、電子政府関連等)について、他社との連携や新サービスの開始などで数々の成果を残し、今後の事業拡大に向けて明確な方向性を示すことができたと言える。
1. デジタルリスク事業
(1) ソーシャルリスクサービス
前述のとおり、契約継続率の高い「モニタリングサービス」への移行や原価低減(リスクモニタリングのAI化等)に取り組み、一定の成果を上げることができた。また、食品への異物混入や運営施設での対応、顧客情報の管理体制、従業員の不適切投稿などによる危機意識の高まりを受け、リスクの発生を早期に検知及び把握するサービスの導入が様々な業種で伸長。顧客基盤の拡大や顧客層が広がってきたところは、業績の底上げへの貢献はもちろん、幅広い教師データを蓄積(資産化)するうえでも、大きなアドバンテージとなるだろう。特に、2018年末よりSNS上に従業員が不適切動画を投稿する事象が多数発生している状況等を踏まえ、メディア(TV番組等)への登場のほか、今期からはCM配信※による認知度の向上にも取り組んでおり、その反応からも確かな手応えを掴んでいるようだ。
※ターゲット(経営層)へ効率的なアプローチを重視し、まずはタクシーの映像広告(デジタルサイネージ)やYouTubeにて配信している。
(2) 内部脅威検知サービス
「働き方改革」の影響もあり、隠れ超過残業、メンタルヘルス、内部情報持ち出し、内部不正などの対策ニーズが拡大しており、それに伴って「内部脅威検知サービス」も順調に伸びてきた。売上規模はまだ小さいものの前期比で倍増し、今期についても大きな伸びを見込んでいる。特に、個人情報を大量に保有する企業や高度な技術情報を持つ製造業など、これまでとは違った顧客層への展開にも成功しているようだ。同社では、大企業になるほど、内部脅威への意識が高い上、サービス提供に必要となるログデータがそろっていることから、既存顧客へのアップセル(セット販売)やデータ管理ツールベンダーとの連携を含め、大企業への深堀りを推進していく方針である。
2. AIセキュリティ事業
(1) AIプラットフォーム「AIK(アイク)」
警備業界のデジタルトランスフォーメーションを推進するため、AIによる警備需要と警備員の効果・効率的な配置を行うAIプラットフォーム「AIK(アイク)」※を開発するとともに、本プラットフォームを用いた警備保障サービスを開始した。今後は、オープンデータやクローズドデータを警備員専用のウェアラブルカメラや各種センサーと連携させる研究・開発を推進。AIKとの連携により、警備員の適正配置、警備員の位置情報の把握、不審者情報の早期確認、不審者に対する警備員の迅速対応等の事前予防処置の策定が可能となる。
※効率的な需給のマッチングを実現するとともに、案件管理やスケジュール管理などの機能も併せ持つプラットフォームである。旺盛な警備需要が続くなか、慢性的な人手不足や人的リソースに頼るアナログ管理など、警備業界が抱える問題を解消するところに狙いがある。
(2) デジタル信用調査
60万件超のデータベースによる「属性チェックサービス」とインターネット・SNS上の風評から企業や組織の信用情報を可視化する新サービス「Web信用スコア」を提供している。「属性チェックサービス」は全国に基盤を持つ物流業への導入に成功したようだ。一方「Web信用スコア」は同社が独自開発したアルゴリズムを用いてGoogle検索などの検索エンジンやSNS上に表示される内容から企業や組織の信用情報を「経営」「組織」「法務」「商品」などの項目ごとに可視化するものであり、リスクを定量的に評価・管理することで、インターネットやSNSといった新たなリスクに対するマネジメント体制を整えることが可能となる。今後は、購買履歴やクレジットヒストリー、交友関係など外部との連携機能を開発することにより、採用候補者や取引相手の信用情報を可視化する社会的信用スコアを目指している。
3. 新規事業
提携パートナーであるサイバネティカ(エストニア)との連携による本人認証技術については、実証実験を終え、いよいよ事業化に向けて動き出した。具体的には、注目されている情報銀行※1向けソリューションの提供を開始。情報銀行の立ち上げに必要となる技術(複数のデータベース連携やデータ提供を容易にするユーザビリティ、信頼性を担保するセキュリティ対策など)については、実績のあるサイバネティカの技術※2を採用するとともに、同社が展開する「内部脅威検知サービス」や「デジタル信用調査」との組み合わせにより、情報漏えいや暴排など、情報銀行及び利用事業者が備えるべきセキュリティ対策も併せて支援するサービスとなっている。
※1 IoT、AIの発展により、膨大な量のデータを収集・分析する環境が整いつつあるなか、パーソナルデータの利活用が注目されているが、その仕組みの1つである「情報銀行」とは、個人からパーソナルデータ(プロフィール、購入履歴、健康情報など)を預かり、預かったデータを個人に代わって管理・提供し、得た利益を個人に還元する仕組みである。一方、利用事業者にとってはデータの提供を受けることにより、個人のニーズに即したサービスの提供が可能となる。政府は2019年3月から事業者認定が開始しており、多数の企業が参入を表明している。
※2 エストニアの電子政府基盤システム「X-Road」のベースとなっており、既に安定運用が実証されている。
また、デジタルデータの集積・利活用、信託関連業務(相続や事業承継にかかる業務など)におけるイノベーションの実現に向け三井住友信託銀行(株)との事業協力も開始(それに伴って、三井住友信託銀行が同社株式の一部を取得)。さらには、今国会で審議が予定されているデジタルファースト法案※の成立を見据え、電子政府関連ビジネスに向けた研究開発や営業活動にも取り組んでいる。
※企業や個人の行政手続きを原則として電子申請に統一するもの。法案が成立すれば、インターネット上で本人確認が行われ、スマートフォンやパソコンで住所変更や法人設立手続きなどができるようになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
<YM>
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