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サイネックス Research Memo(4):地方創生への貢献と収益成長の両立を目指す


■中長期の成長戦略と進捗状況

1. 成長戦略の全体像
会社概要の項で述べたところと一部重なるが、サイネックス<2376>の経営理念は“地方創生のプラットフォームの役割を担う『社会貢献型企業』へ”というものだ。そしてこの経営理念と具体的な事業とを結び付けるフレームワークとして『地方創生プラットフォーム構想』を打ち出している。

同社は創業以来60年以上にわたり地方とともに歩み、これまでに『わが街事典』を800超の自治体と共同出版してきたことを始めとして、様々な分野・事業で自治体や地域経済と深い連携を積み重ね、地方創生のための幅広い知識や経験を培ってきた。現在同社が展開している様々な事業はいずれも、「官民協働事業」という視点を共通項として有しており、『地方創生プラットフォーム構想』の構成要素として機能している状態にある。

このように同社は多面的な事業展開によって地域や行政の幅広いニーズに対応できる体制(プラットフォーム)を作り上げており、そのプラットフォームの上で、同社と自治体及び地域経済(事業者など)が連携して地域イノベーションの創出を目指すというのが『地方創生プラットフォーム構想』の趣旨だ。

地域イノベーションの創出の具体的ゴールとしては“産業振興”や“公共革新”などが掲げられている。産業振興は言うまでもなく地域経済の活性化につながり、公共革新は地方財政の再建につながるものだ。そしてその過程の中で同社の各事業も収益を拡大し、同社全体として持続的成長を実現するという構図だ。

同社の地方創生プラットフォーム構想を中核とする成長戦略の特長は、自治体支援、地域支援の姿勢が徹底していることにあると弊社では考えている。地方創生プラットフォーム構想のサービスの中には収益モデルが確立していない(すなわち同社の収益につながらない)ものもあり、株主、投資家の目線からすれば、収益チャンスを見逃しているように見えるケースもある。しかしながら同社の姿勢が自治体支援、地域支援に徹しているからこそ、官民協働の機会を(地域的にも事業領域的にも)幅広く獲得できているのも事実だ。同社自身は上場企業として株主リターンの最大化にも大きな責任感を持って取り組んでいるのは疑いない。ポイントは、リターンの獲得を急ぐのではなく、自治体支援・地域経済支援を通じて関係をより深く強固なものにした上で、着実に収益を拡大させていくという同社の中長期的なアプローチであり、これこそが同社の真骨頂であるという弊社の考えは従来から変わらない。


『テレパル50』でベースを形成し、『わが街事典』の再販需要と派生商品型出版物で成長を目指す
2. 出版事業の成長戦略と進捗状況
(1) 事業の構造と成長戦略の全体像
出版事業の内容は大きく3つに分けることができる。1つは地方自治体との共同発行する行政情報誌『わが街事典』の事業だ。2つ目は地域別に発行される50音別電話帳『テレパル50』の事業だ。3つ目は『わが街事典』の派生商品とも言えるジャンル別・テーマ別情報誌などの出版物だ。収益の構成としては『わが街事典』と『テレパル50』とでセグメントの収益の大半をほぼ二分し、3)の派生商品型出版物の収益がわずかにオンされている構図だと弊社では考えている。しかしながら3)については今後徐々にその比重を高め、成長戦略上、重要な役割を果たすとみている。

一方、収益変動という視点では、『わが街事典』のインパクトが大きい。それに対して『テレパル50』は収益のベースを形成し、派生商品型出版物は隙間を埋めるという役割で、収益変動の前面にはあまり出てこない構図となっている。この違いは事業モデルの違いから来ている。『わが街事典』は自治体との共同出版物であるため、作業の進行や発行のスケジュール、タイミングを同社が管理しきれない部分がある。これが期ずれ(そのほとんどは後ずれ)を引き起こし、収益の計画差へとつながる。一方『テレパル50』は同社独自の出版物であり、発行地域やタイミングはすべて同社が管理できる。同社は年間1,000万部を発行するという大枠を基本方針として有しており、その中で『わが街事典』の進行状況や工場の稼働状況を見ながら『テレパル50』の発行作業を進め収益のベースを作っている。派生商品型出版物は自治体との共同作業ではあるが全体のプロセスが『わが街事典』に比べてずっと短いため、収益面では『テレパル50』と同様の自由度があるとみられる。

出版事業における成長戦略は以上のような収益構造を反映して、『テレパル50』で収益のベースを形成し、その上に『わが街事典』と派生商品型出版物とで収益拡大を図るという構図となっている。

(2) 『わが街事典』事業の成長戦略と進捗状況
『わが街事典』(出版物の名称としては「○○市便利帳」等となることも多い)は自治体ごとに制作され、製本された上で当該自治体の全世帯に無料配布される地域行政情報誌だ。内容は当該自治体についての歴史や文化などの知識やレジャー・イベント情報などから、最も重要な行政情報(各種制度や手続き・窓口の案内など)や防災情報、医療機関情報、交通機関の情報などが網羅されたものとなっている。

収益モデルは広告収入モデルだ。『わが街事典』の発行事業は、同社と当該自治体の官民協働事業であり、発行は同社と自治体の共同発行という体裁となる。自治体側にとっては資金負担がないゼロ予算事業であり、行政情報の提供などで協力する。一方、同社は『わが街事典』の広告スペースを各種事業者に販売し、その広告収入が同社の収益となる。当該地域の事業者を広告主とすることで、自治体、住民、事業者の3者を“三方よし”の関係でつなぐことになる。

『わが街事典』事業のパートナーとなる市町村(東京23区を含む)の数は1,741(2018年10月現在)であり、理論的にはそのすべてが協働事業の対象となるが、広告主となる事業者数などがボトルネックとなるため、弊社では市区部と一定規模の人口を有する町村を合わせた900~1,000自治体が現実的なターゲットと推測している。この見方は従来から変わっていない。

これに対して『わが街事典』の発行自治体数は2018年9月末時点で累計で826自治体に達した。上記の900~1,000自治体という数値にかなり近づいてきてはいるが、それが『わが街事典』の市場縮小を意味するわけではない。むしろ今後の成長余地は依然として大きいと弊社では考えている。理由は更新需要、すなわち再版需要があるためだ。更新サイクルは自治体によっても異なるが3年~5年が一般的だ。したがって、仮に新規発行の自治体が消滅したとしても、更新需要だけで年間200~250件の発行が期待できる状況となっている。2018年3月期は自治体ベースで195件の発行を行ったがそのうち再販が117件を占めた。2019年3月期第2四半期の100件についても再販が58件と過半を占めた。

『わが街事典』自体が成長力を有しているが、それ以外の成長分野も育ちつつある。1つは『わが街事典』をジャンル別・テーマ別に切り分けた形の行政情報誌の発行だ。『子育て便利帳』、『ゴミ便利帳』のようなものだ。これは派生商品型出版物として後述する。もう1つは都道府県との共同発行事業だ。これについては。2018年3月期において神奈川県との間で情報発信に関する協定を締結し、その一環で都道府県レベルでは初めてとなる情報誌共同発行を行った。神奈川県のケースをモデルケースとしてサービスや収益モデルを確立できれば、都道府県が新たな市場として登場することになる。

(3) 派生商品型出版物
派生商品型出版物は、典型的なものに「ゴミ出しハンドブック」や「子育て便利帳」といったものがあり、“ジャンル別・テーマ別の『わが街事典』”といったものが多い。収入モデルは『わが街事典』同様、広告収入モデルだ。

この派生商品型出版物は、今後、東京23区などの大都市圏の自治体を攻略するうえで威力を発揮することが期待される。大都市圏では『わが街事典』の再版が行われないケースが多い。その理由としては地域への帰属意識の低さや住民の流動性の高さ、ITリテラシーの高さゆえに紙媒体への依存度が相対的に低いこと、など様々な要因が挙げられ、それらが複合的に組み合わさって再版しない状況につながっているとみられる。しかし一方で、子育て世帯や高齢者世帯などではそれぞれの置かれた状況に則した情報発信を求めるニーズも存在している。そうした隙間にフィットするのが派生商品型出版物ということになる。

派生商品型出版物はまた、既存の概念にとらわれることなく、新たなタイプの出版物を生み出す可能性がある。直近の事例では山梨県都留市と共同発行した“移住ハンドブック”がある。これは対象とする読者が都留市の非住民という点で『わが街事典』とは大きく異なる。この視点は出版事業の商品開発においてまだまだ大きな市場が存在していることを暗示している。

収益の面でも派生商品型出版物は『わが街事典』と同等かそれ以上の広告価値を持つ可能性がある。大規模都市での発行が多く、テーマが絞ってあるため広告主へのアピール度も高いと考えられるためだ。大都市圏での事業展開と地方と共創した新ジャンルの共同出版物の開拓に期待したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)



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