三井化学 Research Memo(6):次世代アイウエア「TouchFocus(TM)」の販売が順調に拡大
3. ヘルスケアの進捗状況
ヘルスケアでは2026年3月期の営業利益目標を450億円としている。このセグメントはビジョンケア、歯科材料、紙おむつなどで利用される不織布の3つの事業で構成されている。ヘルスケアは3つの事業ドメインそれぞれの事業モデルが異なるが、需要が成長を続けていること、三井化学<4183>の技術的優位性を発揮できること、高シェアを握っていること、などの共通点がある。これら同社の特長・強みと、需要に応じた適切な能力増強及び新製品開発の実行によって、2026年3月期目標の達成を目指す方針だ。
ビジョンケアでは、メガネレンズ材料の世界的高シェア(プラスチックのメガネレンズ材料で世界シェア45%)という状況にはまったく変化はない。そうしたなかで今第2四半期の進捗としては、同社が2018年2月に発売を開始した次世代アイウエア「TouchFocus(TM)」の順調な販売が挙げられる。これは液晶レンズの採用により、ワンタッチで遠近を切り替えられる点が最大の特長となっている。2018年10月にはチタンフレームモデルを販売開始し、これまで4シリーズ・61種類のラインナップとなった。販売店は2018年11月時点で全国20店舗にまで拡大しており、目標とする2019年中の100店舗体制も視野に入ってきている。今後はアジア・欧米への展開を進め、2023年3月期で5万本/年の販売を目指す計画だ。
不織布においては需要拡大が続く高機能不織布の能力増強工事が完了したことが挙げられる。名古屋工場の新工場(15,000トン/年)建設と四日市工場の増設(6,000トン/年)が今第2四半期に完成し、いずれも10月から稼働している。順次生産量を拡大してきており、2019年にはフル稼働となる見通しだ。足元では、国内の高機能不織布の能力は58,000トン/年となり、タイの30,000トン/年、中国の15,000トン/年と合わせて103,000トン/年の体制となっている。高機能不織布の増強は今後も続く見通しで、次はタイ工場で生産する中空糸を利用した不織布エアリファ®の拡大や、新拠点の設立などが検討課題となってくるとみられる。
歯科材料の分野では今第2四半期は目立った進捗はない。2018年3月期までにKulzerののれん償却を実施し、デジタル3Dプリンタのインク材料の開発も終了している。販売に集中できる体制が整ったことで、今期以降の国内外の市場での売上拡大に注力している状況だ。
農業化学品の新規5原体の最後の化学品をライセンスアウト。産業向けの製品の収益も順調な拡大が続く
4. フード&パッケージングの進捗状況
フード&パッケージングでは2026年3月期の営業利益目標を400億円としている。同セグメントは農業化学品、コーティング・機能材及び機能性フィルム・シートの3つのサブセグメントから成っている。このうちコーティング・機能材や機能性フィルム・シートは、同社が強みを持つイソシアネート・チェーンから生み出されるコーティング材や接着剤の製品・技術と、同様に強みを持つ高機能ポリオレフィン樹脂、及び、そのフィルム化技術で構成されている。用途・需要先が非常に幅広く、セグメント名の持つイメージから離れた半導体や電子部品などの産業分野でも幅広く使用されている。農業化学品や食品包装材料といった分野での安定成長に加えて、ICT関連を含む産業分野での用途・市場の拡大の取り込みによって成長を目指す方針だ。
今第2四半期の進捗としては、農業化学品分野の成長けん引役と期待する“新規5原体”のうちの5番目の化学物質について、独バイエル社の動物薬部門であるバイエル・アニマル・ヘルス(BAH)社との間で、グローバルライセンス契約を締結したことがまず挙げられる。この物質はペット用(犬・猫)の殺虫剤(ノミ、ダニ等)で、新規作用性が高く評価されている。同社は今後、BAH社と共同で、世界で拡大するペット市場向けのグローバル展開を進める計画だ。
動物薬のライセンスアウト契約が締結されたことで新規5原体はいずれも収益貢献が待たれるステージに入った。第1弾のトルプロカルブは2016年3月期第4四半期に国内販売が開始されている。今後期待が大きいのは市場性が大きい殺虫剤ブロフラニリドだ。提携相手のBASFとともに世界各国で登録申請を進めており、順調に進めば2020年には販売を開始できるとみられる。ブロフラニリドは新規の作用機序によって薬剤耐性のある害虫に対しても効果が認められており、既存薬の代替が期待される。既存薬の市場規模等から考えて、数百億円規模の製品に成長する可能性も十分あると期待されている。
同社はまた、新規5原体に続くパイプラインも複数保有しており、中長期的に農業化学品事業の成長シナリオは継続すると期待される。しかしこれらのパイプラインの収益貢献にはまだかなりの時間を要すると考えられ、当面の成長戦略としては、既存の製品の海外展開(同社は現状、国内販売比率が高い)による収益拡大と、上記の新規5原体からの収益貢献、の2つが軸になってくる見通しだ。具体的数値目標として同社は、2026年3月期の農薬売上高を1,000億円に引き上げ、国内外の売上比率を50対50とする計画を有している。足元の状況(2018年3月期実績では売上高は約450億円で、大部分が国内売上)から大きく様変わりすることになる。
コーティング・機能材や機能性フィルム・シートの分野でも用途開発や市場開発などが着実な進捗を見せているが、その中ではセラミック電解コンデンサ(MLCC)の製造工程用フィルム「SP-PET」を取り上げたい。これはセグメント名のイメージと異なる産業分野の製品だ。MLCCは代表的電子部品の1つで、村田製作所<6981>や京セラ<6971>、太陽誘電<6976>などが代表的なメーカーだ。日本製のシェアが高い電子部品でもある。SP-PETはMLCCの原材料ではなく、MLCCを製造する過程で使用されるフィルム材料だ。同様のコンセプト・機能を有する同社の製品として、半導体チップを製造する過程で使用されるイクロステープ(TM)がある(イクロステープ(TM)の能力増計画の詳細は2018年7月5日付前回レポート参照)。
MLCCはスマートフォンを始めとするモバイル端末や自動車の電装化率上昇などを需要先として年率10%のペースで拡大が続いている。そうしたなかで同社のSP-PETに対する需要も増加している。同社は今期において休止設備を再稼働させるほか次期増設も検討している。半導体チップ製造分野においてイクロステープ(TM)は世界トップシェアを有しているがSP-PETはそこまでのシェアはまだない。今後、能力倍増でシェア拡大を目指す方針だ。
収益確保に向けた地道な取り組みが奏功し、安定収益の確保が続く。今第2四半期はタイのPTA・PET事業の再編を完了
5. 基盤素材の進捗状況
基盤素材事業に期待される役割は、市況サイクルに影響されず安定的に利益を確保することに加え、同社全体の競争力の強化ということがある。基盤素材セグメントは他のセグメントに対して様々な種類の素材を提供するという重要な役割があり、この部分での競争力なしには同社の成長戦略は成り立たない。こうした位置付けゆえに、基盤素材の長期営業利益目標2026年3月期で300億円と、現状と同水準の数値となっている。しかしこれは、市況サイクルの谷間においてでも確保を狙うベースとしての利益水準であり、状況次第ではこれ以上の利益を目指す方針だ。
今第2四半期決算において基盤素材事業は184億円の営業利益を確保した。海外化学品市況などの外部要因の好調という要素が貢献した面も大きいが、それ以上に、同社が進めてきた1)ナフサクラッカーの高稼働率の維持、2)地産地消、3)高付加価値品シフト、の3つの施策で利益体質のベースを創り、さらに(販売強化も含めた)稼働率向上のための取り組みやプラントのブラッシュアップによる競争力強化の取り組み、誘導品の増強や特徴ある差別化製品の拡大といった地道な努力を継続してきたことが、今第2四半期の利益につながったと言える。同社が“再構築3事業”と位置付けるフェノール、PTA・PET、及びウレタンは、2018年3月期に黒字化を達成したが、今第2四半期もしっかりと黒字を継続した。
今第2四半期の主な進捗事項としては、タイにおけるPTA(高純度テレフタル酸、PET樹脂の原料)・PET事業の再編が挙げられる。PTA/PETは再構築3事業の1つであり、現状は黒字化を達成しているが、それに満足することなくさらに手を打ったということだ。
これまで同社はPTAではJVの50%、PETではJVの60%の出資比率だったが、新体制ではJVパートナーがいずれも従来のSCG Chemicals(サイアムセメントグループ)からPTT Global Chemical(PTT公開株式会社(旧タイ石油公社)のグループ企業)へと変わり、同社の出資比率もPTA、PETのいずれも26%となった。PTTとのパートナーシップにより、パラキシレンやエチレングリコールといった原料からPTA、PETへとつながる原料一貫体制の構築が可能となり、コスト競争力や収益性の面で大きなアドバンテージを獲得できると期待される。またこれをきっかけとして、PTTとの新たなパートナーシップの枠組みへと発展する可能性も出てきたと考えられる。新体制は2018年12月からスタート予定だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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