CANBAS Research Memo(3):新パラダイムの免疫系抗がん剤分野でCBP501臨床試験を実施中
3. 抗がん剤開発動向とパラダイム転換
がん治療分野では、数年来より欧米の学会を中心にパラダイム転換が起きている。がん治療は、過去50年ほどの間に、外科手術が困難なステージまで進行すると、放射線と化学療法(抗がん剤投与)の治療法しかなかった。2000年頃からいわゆる「分子標的薬」=個別化医療が登場し、国内では大手製薬企業、医療行政、マスコミが挙って、“これから分子標的薬の時代が到来する”と大々的に扱われた。一方、欧米の学会ではその後、分子標的薬が大部分の患者に効かないという論文が相次ぎ発表され、分子標的薬の限界が訴えられてきた。
(1) 免疫チェックポイント抗体の登場
今話題のオプジーボ®を始めとする免疫チェックポイント抗体は、がん治療法を根本から覆らせるインパクトが生じている。従来の抗がん剤(化学療法、分子標的薬)は「余命を数ヶ月延ばす」ことを積み重ねてきたが、一旦効果が出てもすぐにがん細胞が復活し、効果が持続しなかった。一方、免疫チェックポイント抗体は「長期生存を年単位で延ばす」こととなり、抗がん剤の開発目標が大きく変わった。さらに治癒も望める可能性も出てきている。
既に、欧米では免疫チェックポイント抗体中心の抗がん剤開発競争にシフトしている。国内製薬企業も遅ればせながら重い腰を上げて、免疫系抗がん剤開発に着手している。
「オプジーボ®」は2014年7月に世界に先駆けて日本で承認されて約4年が経った。「夢の薬」と言われながら、一方で医療費を圧迫するとして高額薬剤の象徴としてやり玉に挙げられていた。当初の薬価は1瓶(100mg)当たり約73万円だったが、段階的に薬価が引き下げられ、2018年11月には17万円にまで下がることが決定、現行の薬価から「4割値下げ」となる。とは言っても、1回投与240mgの注射が必要で、1年間投与し続ければ約1千万円の薬剤費となり患者の負担は高いと言える。
(2) (併用型)免疫チェックポイント抗体の開発では先頭に立つ
免疫系抗がん剤の課題である「恩恵を受ける患者比率」を高めるために、免疫系抗がん剤と他の抗がん剤の併用の臨床試験が多数進行している。組み合わせとしては、「免疫チェックポイント抗体+免疫チェックポイント抗体」、「免疫チェックポイント抗体+在来の化学療法剤」があるが、前者は、副作用問題と高薬価が課題で、後者は、少数の患者で見る限り良好なデータが得られており、効果のある患者比率が高く、低薬価対応、副作用も問題なく、現時点でベストな方法と考えられている。同社が現在進めているCBP501の臨床試験は「免疫チェックポイント抗体+在来の化学療法剤」方式に該当し、臨床試験から得られているデータはいまだ少数のサンプルではあるが良好な兆候が伺われ、現時点では一歩リードしているようである。
4. 同社の新抗がん剤候補化合物の研究開発戦略と新臨床試験計画
(1) 臨床試験の取り組みと反省・教訓から得たノウハウ
2013年のCBP501(抗がん剤候補化合物)の肺がん臨床第2相試験では、残念ながら主要評価項目を達成できなかった。しかし改めて当該臨床データを同社の基礎研究チームで解析すると、白血球数の正常な被験者では改善し、白血球数の異常な被験者では悪いことに気付き、白血球数の多寡がCBP501の作用に影響していることが判明した。この解析結果と、それに続く基礎研究成果は、同社の研究開発の方向性を決めるきっかけとなった。
(2) 新発見とデータ獲得
近年の臨床試験や解析で同社が獲得したデータのポイントは2つある。1つは、生体内の数多くの分子をあたかも電子楽器のイコライザーのように制御するカルモジュリンという分子の制御機能の調整をするCBP501が、プラチナ系抗がん剤との併用でがん細胞の「免疫原性細胞死」を増やすことである。免疫原性細胞死が増えることは、免疫系抗がん剤の作用を高める効果がある。もう1つは、マクロファージという免疫細胞ががん患者で免疫を抑制する働きをしているところ、CBP501がマクロファージの働きを阻害して、がん細胞の免疫抑制を遮断することである。
(3) 「免疫系抗がん剤+化学療法(プラチナ系)+候補化合物CBP501」の併用の可能性
CBP501とプラチナ系抗がん剤(シスプラチン)との併用は過去約200人の患者投与実績があり、副作用の問題はない。また、悪性胸膜中皮腫では主要評価項目をクリアしており、動物実験では高い効果を得ている。
(4) CBP501臨床フェーズ1b試験の実施
2017年4月より米国FDAの規制下、臨床フェーズ1b(第1b相試験)に取り組み、安全性の観点から推奨投与量の決定、有効性の観点から治療効果の向上、対象がん患者比率の向上、効果のあるがん腫の発見と確認などを行ってきた。
何種類かのがん腫で試験しているが、特に、すい臓がんと大腸がんでは良い感触が得られ、(併用型)免疫抗がん剤分野では頭一つ抜け出しているようである。
(5) 適用がん腫の選定
現在、すい臓がんや直腸大腸がん分野でオプジーボ®単剤の効果がある患者は5%未満であるのが一般的に知られている。
CBP501の臨床第1b相試験では、オプジーボ®にCBP501とプラチナ系抗がん剤(シスプラチン)を併用することで、これらのがん腫におけるオプジーボ®の奏効率を引き上げられると判断し、この後の“拡大相試験”では、すい臓がんと直腸大腸がんの2つのがん腫に絞り込んだ(10月11日発表)。
この拡大相試験で薬効を裏付けるデータが得られれば、有用ながん治療法の期待が高まる
5. 抗がん剤開発の変化期
一般的に創薬の成功確率は3万分の1で、新薬が市場上市されるまでに約2千億円の研究開発投資がかかると言われている。製薬会社は標的の発見から創薬までに長い年月と莫大な研究開発費を投じ続けなければならない。また、オプジーボ®の登場で免疫抗がん剤は世界から一躍注目を浴び、欧米のバイオベンチャーを中心に独自の創薬アプローチで臨床開発や臨床試験が進められてきた。しかしながら、免疫抗がん剤は最近の臨床試験でその大半は効果が薄いことが判明、いわゆる“多産多死”状態となっている。
また、国内の保険行政にも変化が生じつつある。今話題の「オプジーボ®」の度重なる薬価引き下げが象徴している。最近の厚生労働省や財務省は、医療費高騰化対策の一環として、「薬効効果の低い新薬は承認するが保険収載はしない」方針を打ち出している。
今後は高薬価な免疫抗がん剤も薬効が低いと保険収載されなくなり、薬効が高い薬剤だけが生き残るサバイバルな開発競争となる。これまで金に糸目を付けないで開発してきた大手製薬企業や挑戦意欲旺盛なバイオベンチャーなどにとっては大きな開発リスクを抱えることになる。
(併用型)免疫系抗がん剤はこれまで約2千種類以上の開発品や組み合わせによる臨床開発が試みられているが、臨床試験の途上で大半はドロップアウトするのが通例である。CBP501は現時点では有効な兆候(オプジーボ®単剤によるよりも優れた薬効の兆候)が得られており、免疫抗がん剤のサバイバル開発競争を勝ち抜き、3~5年後には保険適用の日が訪れることも十分可能性があると推測される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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