エコモット Research Memo(3):強みは「つなぐ力」「構築力」「組織力」
1. 事業概要
(1) ソリューション別売上高構成
2018年3月期の売上高は前期比18.6%増の1,625百万円となった。ソリューション別構成比は、インテグレーションソリューションのデータコレクトプラットフォーム「FASTIO」が11.2%、コンストラクションソリューションの建設情報化施工支援ソリューション「現場ロイド」が38.2%、モニタリングソリューションの融雪システム遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」が10.7%、GPSソリューションの交通事故削減ソリューション「Pdrive」が39.8%である。前期比増収率は「FASTIO」が51.2%増、「現場ロイド」が7.5%増、「ゆりもっと」が11.3%増、「Pdrive」が25.5%増であった。
売上高は、センサーや通信デバイスの設置工事などのイニシャル(フロー)の売上げに加えて、顧客がサービスを利用する限り、ストック型のランニング収入が積み上がる。2018年3月期に、ストックビジネスは売上高の21%を占めた。2019年3月期は、23%へ上昇すると予想している。創業事業の融雪システム遠隔監視ソリューションは、市場の成熟化によりストックビジネス比率が65%へ拡大し、安定収益を生み出している。ストックビジネスは、毎期のフロー売上により積み上がる。顧客獲得のための追加的費用が発生しないこともあり、収益性はフロー売上よりも高い。2018年3月期の役務提供売上原価の最大項目は通信費であり、役務提供売上原価の35.5%を占めた。通信料金が下落傾向にあることも朗報だ。
(2) IoTシステムの構成
モノのインターネットであるIoTは、センサーをインターネットにつなぐことで、離れた場所の状態を知ることや、遠隔でモノを操作することを可能にする。現実世界で起こる温度、湿度、気圧、照度、騒音、振動などの物理現象をセンサーにより電気信号に変換し、通信デバイスにより通信回線でインターネットに接続してクラウド上のサーバーにデータを収集する。サイバー空間では、クラウドサーバーからの計測データの表示、画像監視、遠隔操作、車両の運行管理を行い、機械の稼働状況などを解析する。データ解析には、人工知能(AI)を活用することもある。また、データをビジネスに生かすため、グループウェアやBIツール※とリンクさせる。
※BIツール:Business Intelligenceツールの略。企業の業務システムの一種で、膨大なデータを蓄積・分析・加工し、意思決定に活用できるような形式にまとめる。昨今は、情報の収集や成型といった入り口側の機能を簡略化し、美しく直感的なアウトプットに特化したものが注目されている。
同社のインテグレーションソリューションは、独自のIoTプラットフォーム※「FASTIO」を基盤として提供される。 「FASTIO」は、IoT運用により大量に発生するセンサーデータをリアルタイムかつ効率的に扱うための各種機能を実装している。
※IoTプラットフォーム:IoTを実現するためのプラットフォームのこと。一般的なIoTのフローでは、データの発生源であるセンサーから計測データが発信され、当該計測データを加工・分析した結果をトリガーとして、現地のデバイス(アクチュエーター)に対して何らかのアクションを起こす。この一連の処理を実現するソフトウェア並びにインフラを、IoTプラットフォームと呼ぶ。現在では広く解釈されており、データの収集や蓄積に特化したものや、データ解析に特化したもの、モバイル通信サービスに特化したもの等もIoTプラットフォームと総称される。
同社の特長は、サイバー空間から現実世界までのサービスや作業をワンストップで提供できることにある。一般的なIoTプラットフォームは、業務がサイバー空間に限定されがちだ。同社は、AIやBI、グループウェアなどは外部アプリケーションと連携し、クラウドサーバーや通信網は大手ベンダーやキャリアのサービスを利用するが、IoTプラットフォームから、システム構築、現実世界で使用される通信デバイスの設計・製造から屋外現場での設置工事までを手掛けられる稀有な存在になる。
(3) 強みは「つなぐ力」「構築力」「組織力」
同社は、豊富なノウハウに裏付けされたコンサルティングにより、顧客ニーズに即したソリューションをワンストップで提供できることが独自性・強みとなる。過去10年間に累計9,000現場にIoTシステムを設置した実績を持ち、常時23,000アイテム以上を運用している。IoTシステムインテグレータとして同社が有する機能は、ワークフロー順でマーケティング・サービス企画、ハードウェア設計・製造、組込ソフト・プラットフォーム設計・開発、ネットワーク設計・開発、Web アプリケーション設計・開発、システムインテグレーション、他社アプリ連携、設置・工事、保守運用・アフターサポートと多岐にわたる。
IoTを活用した現実世界の課題解決のためには「モノ・コト」をセンシングする機能が要る。パートナープログラムを通じて2,000種類以上の接続実績があるセンサーを用意し、多彩なニーズに対応可能としている。多様な顧客ニーズに適応するため、豊富な自社開発の通信デバイスを製品化している。また、顧客の利用形態に応じて、自社エンジニアがカスタマイズもする。多くの導入実績に基づき、多種多様な屋内外の設置場所において最もセンシングに適した場所の選定などフィールドでの設置ノウハウを蓄積している。同社の強みは、この「つなぐ力」にある。
第2の強みとして、「構築力」が挙げられる。同社がSIerとしてIoTシステム開発することで、各ベンダーやメーカー間の調整に時間をかけず、迅速なシステム構築が可能になる。API連携により、各ベンダー、メーカーの良い部分を取り込んだシステム使用を提供する。構築ノウハウ、接続実績が豊富なため、安定したシステム構築と運用を実現している。
第3は「組織力」になる。IoTシステムによる課題解決するため、IoTネイティブのマインド、全社員参加型の業務推進、一元的な体制でIoTをフルスタックエンジニアにより提供することを実現している。IoTシステム開発では、「つなぐ力」「構築力」「組織力」が合わさって、同社の強みが増幅する。
2. インテグレーションソリューション「FASTIO」
IoTインテグレーションソリューションに対するニーズが高かったことから、IoTプラットフォームとして「FASTIO」を開発し、外部顧客へ提供している。クラウド提供であることから、通信インフラやクライアントソフトのインストールが不要であり、短期間で、安価にIoTサービスを利用することができる。IoTの導入はセンサーやゲートウェイ※端末選定が重要となるが、アライアンスプログラム「FASTIO LINK」及び「FASTIO DATALINK」により多様なデバイスからのデータ取り込みを可能にしている。
※ゲートウェイ:異なるネットワーク同士を接続するネットワーク関連機器及びソフトウェアの総称。
標準のアプリケーションで、画像・動画管理、遠隔接点制御、位置情報管理等に対応しており、様々な産業、市場が利用できる。さらに、複雑な分析やBIツール、AIのマシンラーニング等の先進分野における外部クラウドサービスとの連携を前提として設計されている。外部クラウドサービスがセンシングデータを利用できるようAPI※を充実させ、シームレスなデータ提供を可能とする。クラウドベンダーに対しても、インテグレーションソリューションの提供を行っている。
※API:Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアコンポーネントが互いにやりとりするのに使用するインタフェースの仕様。
同ソリューションにおいては、パートナー企業との協業を推し進めている。「KDDI IoTクラウド Standard」は「FASTIO」をKDDI向けにカスタマイズしたものになる。データコレクトプラットフォーム「FASTIO」は、APIで外部クラウドと接続できる。2016年1月に業務・資本提携したテラスカイ<3915>のグループウェア「mitoco」との連携を図っている。また、同年12月に外部AIエンジンを活用した「FASTIO AI」を利用した画像解析システム及び気象予測システムをリリースした。顧客のニーズに対応するため、自社で不足する経営リソースは、それを得意とする外部のベンダーとのパートナーシップにより最適なソリューションを提案する。
3. コンストラクションソリューション「現場ロイド」「防災ソリューション」
(1) 建設情報化施工支援ソリューション「現場ロイド」
「現場ロイド」は、土木工事のIoTになる。工事現場に設置され、工事現場の安全性向上、業務効率化、品質向上に大きく貢献している。屋外に設置した環境センサーやネットワークカメラからのデータにより、建設現場を見える化する。センサーによる常時警戒や、異常を検知してからの迅速な警報発報は、コストや精度など多くの面で人が行う作業を凌駕する。同社は、土木建築や災害の現場において、管理者や作業員がより高度で本質的な働きに集中できるよう、ワイヤレスコネクティビティ技術で現場を足元から支える。
収入形態は、工事期間の機器レンタル料とサービス利用料になる。1件当たりの平均月額利用料は約10万円で、平均3ヶ月程度利用される。同サービスはパッケージ化されていることから、建機レンタル業者等の販売店経由で提供する。保安安全用品の販売及びレンタル事業を行う(株)仙台銘板が最大の販売店であり、2018年3月期の仙台銘板への売上高依存度は、24.6%であった。
業務効率化の実現や安心安全の確立をサポートする約300種類のサービスラインナップをそろえている。サービス事例としては、遠隔クラウド計測システム、遠隔監視カメラシステム、コンクリート養生温度管理システム、ワイヤレス警報検知システム、熱中症対策システムなどがある。
国土交通省は、新技術活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として、新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)を整備している。NETISは、国土交通省のイントラネット及びインターネットで運用されるデータベースシステムである。公共工事等において総合評価落札方式の場合、NETIS登録技術を提案することで加点対象となる場合がある。NETISの本格運用は2006年8月に開始され、更なる普及促進のため2014年4月に制度改正が行われた。
「現場ロイド」は、6技術がNETIS登録されており、多くの公共事業に導入されている。国交省やゼネコンなど、上位工程に対する情宣活動を行う。
NETIS登録製品の「おんどロイド」を紹介する。打設したコンクリートは打ち込み時の状態から硬化する過程で熱を発するため、既に硬化して冷えた表面部分と、硬化中で熱を持った内部とで過度な温度差が発生すると、膨張率の違いから表面にひび割れが生じてしまう。そのため、コンクリートの品質管理のためには、温度計測が不可欠になる。「おんどロイド」は、温度の24時間計測、計測値の遠隔確認、異常の警報及びメールによる通知等を可能にする。データは携帯電話網を使い自動収集されるため、データ回収のための移動が不要になる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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