システム ディ Research Memo(6):大規模自治体への納入で売上高と学校数が大きく拡大
4. 公教育ソリューション事業
公教育ソリューション事業は公立の小・中・高校向けに校務支援システム『School Engine』を提供している。公立学校のほうが予算の制約が厳しく、中小規模の学校が多いことに適合すべく、システム ディ<3804>では『School Engine』をクラウドサービスで提供している。競合の中にはパッケージソフトで提供しているところが多く、クラウド対応をしているのは業界の中では同社だけという状況だ。
2018年10月期第2四半期の売上高は前年同期比51.7%増の325百万円となり、第2四半期末の納入実績数は1,952校へ大きく伸長した。2018年10月期第2四半期は札幌市など複数の大規模自治体で納入が進んだことで、学校数と売上高の伸びが大きくなった。
同じ学校向けソフトウェア事業であっても公教育ソリューション事業は県あるいは市町村の教育委員会であるという点で、私立学校法人や独立行政法人である国公立大学を対象とする学園ソリューション事業と大きく異なる。公教育ソリューション事業のモデルでは、商談がまとまれば当該教育委員会の管轄下にある学校すべてに導入される流れとなるため効率が良い。しかし一方で、教育委員会は一般的に保守的で、クラウドサービスに対してはセキュリティへの懸念がネックとなって商談が進まないケースも多いもようだ。また、公共向けビジネスでは入札という関門もある。
こうした市場環境のなかで、同社の公教育事業部門の成長は今後も順調に拡大していくと弊社では予想しており、成長余地としては現状から4~5倍程度は十分に可能だとみている。そう考える理由は以下のとおりだ。
公立高校は基本的には都道府県の教育委員会が管轄しているが、政令指定都市(全国20市)や中核市(全国54市)などの市立高校も対象となる。同社のシステムは16県・4政令都市において導入されており、都道府県数ベースのシェアは約35%だ(何らかの校務支援ソフトを導入した都道府県をベースとすればシェアは約50%)。システムの導入を決定していないところが約15都道府県残っており、最終的に都道府県数ベースではシェア50%の獲得を目指している。都道府県レベルの教育委員会はクラウドサービスに対して比較的抵抗が少ない点も同社には追い風と弊社では考えている。
小・中学校は基本的に全国の1,741市町村(東京の23特別区を含む)の教育委員会が交渉相手となるが、この市場では同社のシェアは高校に比べて低い状況にある。先行・競合企業が10社前後あり、同社は5番手のポジションとみられる。苦戦している背景の1つはクラウドサービスという同社の提供形態だ。競合他社がパッケージソフトの売り切り(利用者側からいえばオンプレミス型の運用)であるのに対して、同社のサービスはクラウド型であり、セキュリティ面での懸念から導入への抵抗感が都道府県レベルと比較してまだ根強く残っているとみられる。また市町村によって意思決定メカニズムがそれぞれ微妙に異なるケースが多い点も、拡販を妨げる一因となっているもようだ。
しかしながら、こうした状況も着実に変わりつつあるのもまた事実だ。クラウドサービス自体は日常生活において様々な形で浸透してきている。また、少子化で学校当たりの生徒数が減少していく流れのなかでは、オンプレミス運用(ソフトの自前運用)よりもクラウド型の方が低コストであるのは明白だ。こうしたクラウドの利点への理解が深まれば、市町村レベルにおいても同社のシェアは着実に拡大していくと弊社では考えている。
公教育ソリューションの市場規模は全国約30,000校と言われている。2018年4月末の同社の導入実績は前述のように1,952校であり、シェアは約6~7%といったところだ。前述した公立高校市場におけるシェアや、学園ソリューション事業での実績(例えば、全国1,100大学中約350校で導入)に鑑みれば、市町村の公立校市場でも同様のシェアを獲得する可能性は十分あると弊社では考えている。
前期の反動で減収となったが、地方自治体の新公会計への移行は依然進行中。新製品と更新需要の取り込みで収益拡大を図る
5. 公会計ソリューション事業
公会計ソリューション事業は、地方自治体向けの公会計システムやソリューションを提供している。総務省は地方自治体に対して企業会計原則に基づく会計制度(複式簿記に基づく発生主義会計)の導入を2018年3月末までに完了させることを求めており、これが公会計ソリューション事業を後押しする背景となっている。総務省は新会計制度普及のためJ-LIS(総務省の外郭団体)が開発した無償ソフトを用意しているが、実際の必要機能や運用支援の有無という点が、各自治体が民間事業者の有料ソフトを導入する動機付けとなっている。
同社の公会計システム『PPP』(トリプルピー)はバージョン5まで熟成が進み、他社に先駆けた新統一基準対応版という特長がある。これを活かして1,788の地方自治体と1,595の関連公共団体を対象に販売を進めてきた。
2018年10月期第2四半期の売上高は前年同期比9.7%減の285百万円であったが、導入団体数は929団体に拡大した。これらの中には13府県5政令指定都市7特別区(東京都)が含まれている。売上高が前年同期比減収となったのは、前述の総務省が要求する締め切りに合わせるべく、2016年度下期から2017年度上期に導入した団体が多かったことの反動であり、導入団体数は着実に積み上がっている。同社は、公会計ソリューション事業における当面の目標として1,000団体(地方自治体と関連公共団体の合計)への導入を掲げてきた。2018年4月末の導入数が929団体となったことで、2018年10月期下期中に達成するめどがついたと弊社ではみている。
2018年3月という区切りを超えたことで公会計ソリューション事業の成長は止まるのかという懸念もあるだろうが、必ずしもそうではないと弊社では考えている。
これまで複式簿記に基づく会計報告書を提出した地方自治体数は、実は400程度にとどまっており、1,400近い自治体はまだ未提出だ。2017年度の会計報告書の提出期限にはまだ時間があるため、最終的にはこの数字は変動するが、総務省の要求に応えられない自治体も相当程度出てくるとみられる。これらの自治体は“出さない”のではなく“出せない”状況にあるのではないかと弊社では推測している。会計ソフトだけでは不十分で、適切なサポートが会計報告作成作業のスムーズな進行には不可欠だと弊社ではみている。こうした状況は、サポート体制の充実を特長とする同社の『PPP』の拡販にとっては追い風になると弊社では考えている。
ソフトウェアにはまた、更新需要が必ず存在する。機能性や活用性で劣っている他社ソフトや総務省配布の無償ソフトを利用する自治体の取り込みもまた同社にとっては成長機会となる。
同社は公会計ソリューション事業における新製品ソフト『創生』を2018年6月にリリースした。これは新公会計制度で生成されたデータを活用するためのもので、言わば企業分析ソフトの地方自治体版だ。固定資産データから資産更新必要額を把握することや、事業別・施設別のセグメント分析、財政シミュレーションなどを行うことが可能となっている。
『創生』は『PPP』との親和性も高く、『創生』導入をきっかけに『PPP』への乗り換えが進むことがベストシナリオと言える。しかしそうでなくても、更新需要の出現にはまだ時間を要するため、それまでの間をつなぐ新製品として今後の拡販に期待が高まる。
顧客数は横ばい圏だが保守・サポートの増加で売上高は増収を確保
6. 薬局ソリューション事業
薬局ソリューション事業は連結子会社のシンクが手掛ける事業で、小規模の独立系調剤薬局に対してレセプトコンピュータ(レセコン)の『GOHL2』などを提供している。2015年10月期には新製品の医薬品過誤防止システム『GOHL PICKING』をリリースした。
2018年10月期第2四半期の売上高は、前年同期比10.3%増の38百万円で、2018年4月末の導入店舗数は1,224となった。導入店舗数は過去半年で2ヶ所の増加にとどまったが、既存ユーザーの深耕で各種クラウドサービスの利用が増加し、保守・サポート収入を中心に売上高が増加した。
同社の薬局ソリューション事業は、個人経営の小規模薬局が主な対象で、地域的には大阪を中心とした関西圏での展開となっている。大手薬局チェーンは自社でシステム開発を行っており、将来的にも薬局ソリューション事業は小規模事業者を対象とした事業展開が予想される。
国内では約58,000店の調剤薬局店舗があるとされるが、その半数以上が個人経営とみられている。同社にとってのパイは非常に大きいようにも見えるが、一方で業界再編の本格的到来が予想されている業界でもある。厚労省が掲げる“患者のための薬局ビジョン”の実現は個人・小規模薬局にとっては極めてハードルが高く、また個人事業者の場合には事業承継の問題などもあり、必ずしも楽観はできない。一方で、こうした厳しい事業環境は、業務効率化や経営改善に寄与できるソフトウェアやサービスにとっては成長チャンスでもある。同社の製品ラインナップにはレセコンのほか服薬情報一元管理ができる『薬歴情報電子ファイル』など、個人・小規模薬局の経営効率改善に寄与できるソフトウェアがそろっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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