イノベーション Research Memo(5):2019年3月期業績見通しは保守的に策定
1. 2019年3月期の業績見通し
イノベーション<3970>の2019年3月期の業績は、売上高で前期比11.5%増の1,500百万円、営業利益で同54.3%減の13百万円、経常利益で同60.9%減の13百万円、当期純利益で同77.0%減の5百万円と増収減益を見込んでいる。前期業績が会社計画を下回ったことから、今回は保守的な前提により達成可能な計画で発表した。
具体的には、「ITトレンド」のGoogle検索結果順位が改善せず、来訪者数も回復しない前提での計画となっている。ただ、前述したように4月以降は来訪者数も前年同月比で増加に転じるなど、回復トレンドに転換している。企業におけるIT製品の導入意欲が引き続き旺盛なことに加えて、2018年度も「IT導入補助金」制度が継続され、かつ予算規模も前年度比5倍の500億円と大きくなったことが要因と見られる。
費用面では人件費や開発費の増加が見込まれるものの、前期に実施した認知度向上のための広告宣伝施策(38百万円)がなくなる。ただ、「ITトレンド」の集客施策であるSEO対策費については、今後の来訪者数の動向次第となるため、保守的に見積もっているものと思われる。なお、第1四半期については新入社員の研修費用などで費用が偏重するため、利益の進捗が低くなる可能性がある点には留意する必要がある。2018年4月の新入社員は13名となっている。従業員数全体では、2019年3月期末は89名程度と前期末並みの水準を見込んでいる。
2019年3月期は主力の「ITトレンド」「List Finder」とも2ケタ増収を見込む
2. 事業セグメント別の施策
2019年3月期の事業セグメント別の売上見通しは開示していないが、売上構成比は前期とほぼ同様の傾向となる見通しであり、オンラインメディア事業、セールスクラウド事業ともに10%台の増収が見込まれる。
(1)オンラインメディア事業
オンラインメディア事業では主力の「ITトレンド」「BIZトレンド」の成長により2ケタ増収を見込んでいる。ここ数年はITベンチャーが様々なIT商材をクラウドサービスとして開発、提供しているが、ベンチャーであるがゆえに顧客獲得のための販売ネットワークを持たず、同社のような比較・資料請求サイトが顧客開拓のための重要なツールとなっている。同社ではこうした掲載企業を取り込み、掲載製品数やカテゴリー数を拡充していくことで、売上高を拡大していく戦略となっている。特に、「IT導入補助金」制度の拡充により中小企業のIT投資も促進されることが見込まれており、同社にとっては追い風となる。
課題は2018年3月期に減少に転じた来訪者数をどのように増やしていくかだが、同社ではSEO対策だけでなく、新たな施策にも取り組み始めている。具体的には、2017年12月に「ITトレンドスタイル」というメディアを開設した。「働き方改革」をテーマに関連ニュースやオリジナルコンテンツを発信する会員制のビジネスサイトとなる。「働き方改革」に関心の高い企業を、Google検索やSNS、キュレーションメディア、日経BP等のIT系ビジネスメディア等に掲載したコンテンツなどを通じて「ITトレンドスタイル」に誘導し、ユーザーの関心の高いIT製品の資料請求や問い合わせ等をできる仕組みとなっている。また、会員制にすることでメルマガ配信による資料請求件数の増加も期待できる。「ITトレンドスタイル」はキュレーションメディアやIT系ビジネスメディアからの顧客流入も増えるため、「ITトレンド」とは異なったユーザー層を獲得できることも狙いの1つとなっている。
また、同部門の売上高の約1割は日経BP向けのWeb広告サービス(販売受託手数料を売上高として計上)で占められているが、企業の旺盛な広告出稿意欲を背景に、同サービスについても増収基調が続く見通しとなっている。
(2)セールスクラウド事業
セールスクラウド事業では「List Finder」の販売戦略として、新たに日本マイクロソフトとの協業が始まっており、同ルートを通じた契約件数の増加が見込まれること、また、2018年4月に追加機能の拡充と合わせて料金プランの改定を実施したこともあり、前期比で10%台の増収を見込んでいる。なお、他社Webサービスの販売についてはほぼなくなっており、2019年3月期の売上高への影響はない。
同社では「List Finder」のサービス基盤として従来、AWSを使用していたが、2018年6月に「Microsoft Azure」に移行したことを発表している。この移行によって今後は日本マイクロソフトのクラウドパートナープログラムに組み込まれることになり、中堅・中小企業向けの販促活動について共同で実施していくことになり、今後3年間で200アカウントの新規導入を目指していくとしている。実際には「Microsoft Azure」の導入支援を行うパートナー企業がサービスメニューの1つとして「List Finder」を販売することになる。このため、同社にとっては販促費をかけずに契約件数を獲得していくことが可能となる。また、同社の顧客ターゲットは中小企業が多いため、これらの顧客基盤を持つ大手ITベンダーやWeb制作会社等とも販売パートナー契約を結び、契約件数の拡大を目指していく。その他の販売施策としては、展示会への出展や営業マーケティングのノウハウをブログにした「Urumo!」のサイトを通じた見込み顧客の獲得にも取り組んでいく。
一方、サービスの機能拡充としては新たに、名刺スキャン・データ化、名寄せ・属性付与、アプローチ管理、メール配信機能の強化などを実施し、合わせて料金プランを改定した。従来は月額約3万円だったが、新プランのうち、ライトプランでは39,800円となり、機能の拡充したことに伴い値上げした格好となっている。このため、アカウント当たりの平均単価は上昇することが見込まれる。なお、既存顧客については契約期間が6ヶ月となっているため、2018年3月に契約した顧客も基本的には9月に新料金プランに移行することになる。新料金プランの移行によって解約が発生するリスクもゼロではないが、追加機能はニーズの高かった機能であり、競合製品との料金比較から見ても、大半の顧客は継続するものと弊社では見ている。
その他、「List Finder」では顧客満足度向上の取り組みとして、ユーザー同士の情報交換・交流を目的に「List Finder Users Conference」を2018年3月に開催した。運営も「List Finder」のユーザーが自主的に行い、約40名が参加し、ユーザー事例の発表や情報共有を行った。今後も、同様のカンファレンスを定期的に開催することで、ユーザーの声を聴きながら「List Finder」の新機能開発や利便性の向上につなげていきたい考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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