クオール Research Memo(4):改定影響による減益は限定的で、2020年3月期には増益に転じると予想
1. 2018年改定の概要とクオール<3034>への影響
2018年4月に2年ぶりの薬価及び調剤報酬改定が実施された。その改定内容は非常に厳しく、同社は2019年3月期の保険薬局事業セグメントの業績について、前期比11.9%の営業減益を予想している。
しかしながら、弊社では、2018年改定は同社の中長期の成長戦略に大きな方針転換を迫るようなものではなく、減益インパクトを2019年3月期の1年間で収束させ、2020年3月期には再び増益基調に回帰できると考えている。
2018年改定の最大のポイントは、国(厚労省)が目指す方向性が一段とクリアになったことと、内容の厳しさにより調剤薬局業界の再編が加速されると期待されることの2つだと弊社では理解している。この点同社は、コアビジネスであるマンツーマン薬局において、“患者に求められる薬局”を掲げ、国が掲げる「患者のための薬局ビジョン」の実現に取り組んでいる。この取り組みは今後も続くが、その過程で2018年改定による減益インパクトの何割かは取り返せると考えている。一方、業界再編本格化の結果として今後増大が予想されるM&Aオポチュニティに対しては、マンツーマン薬局のコンセプトが強みを発揮し、業界再編という追い風を着実に自社の成長につなげることができるとみている。
以下では、2018年改定の中で、特に重要と思われる調剤基本料、後発医薬品調剤体制加算及び基準調剤加算の廃止と地域支援体制加算の新設の3点について詳述する。これら3項目の影響は、各店舗が取り扱うすべての処方せんに及ぶためだ。また、地域支援体制加算の算定要件には国が薬局に要求する事項がすべて詰まっていると言えるが、これへの対応方針は各社の店舗戦略や成長戦略で大きく異なってくると考えられ、投資における銘柄選択においても重要な役割を果たすと考えている
門前薬局の評価見直しが継続し、調剤基本料が大きく低下
2. 調剤基本料の改定
国は薬局の形態に応じて調剤基本料に差を設けている。薬局の形態に対する国の認識は、1)大型を含む門前薬局が多数であり、面分業(様々な医療機関からの処方せんを受け付けること)を行っている薬局は少数、2)大手調剤チェーン(20店舗以上の店舗を持つ大手保険薬局)が増加し、多店舗展開により収益率が高くなる傾向がある、というものだ。そのうえで、こうした現状は国が目指すべき「かかりつけ薬局」が実現しているとは言えないとの判断に至っている。そこで、門前薬局の調剤報酬適正化を目的に調剤基本料を特例的に引き下げる施策が導入されている。
改定前は、集中率と処方せん枚数に応じて、調剤基本料を1(41点)~3(20点)の3段階に分けている。調剤基本料1と3の差は21点であるが、この調剤基本料は当該店舗で取り扱うすべての処方せんに適用されるため、1日200枚の処方せんを取り扱う店舗を例に取ると、「200枚×21点×22日(週休2日と仮定)×12ヶ月×10円/点=11,088,000円」の収入(それはほぼ利益に等しい)差が生じることになる。
2018年改定においては、集中率の基準が引き下げられ、これまで調剤基本料1を算定されていた店舗が2に算定されやすくなったほか、調剤基本料3がさらに2段階に分けられ、月40万枚超のグループは“3−ロ”として点数が15点に引き下げられることとなった。また病院の敷地内に立地する薬局を対象に、特別調剤基本料(10点)が新設された。
改定直前の2018年3月において同社の全店舗に占める調剤基本料1算定店舗割合は70.1%だった。2018年改定を当てはめるとその割合は40.1%に大きく低下する。反対に調剤基本料3−ロの割合は57.4%に増加するほか、新設された敷地内薬局に対する特別調剤基本料の算定店舗の割合が1.6%となる。2018年3月末の調剤薬局店舗数689店舗をベースにした加重平均点数は、改定前が34.9点であったのに対して改定後は25.4点に低下することになる。
調剤基本料の改定による同社への影響は小さくない。前述のように、調剤基本料に対する特例は門前薬局の評価見直しが背景にある。しかし、網のかけ方が集中率であるため、同社のマンツーマン薬局もその網にかかったということだ。マンツーマン薬局は特定の医療機関との1対1の関係をコンセプトとするため、(処方せんの絶対数は大きく異なるものの)集中率という点では門前薬局と同様に高くなってしまうことが響いた。
ジェネリック医薬品の使用割合では改善の余地が大きく、増収・増益要因へと転化可能とみる
3. 後発医薬品調剤体制加算
後発医薬品(ジェネリック医薬品)の調剤状況に応じて各店舗は加算を受けることができる。加算点数はジェネリック医薬品の調剤割合(数量ベース)によって、異なり、従来は75%以上の店舗は加算2が算定され22点を加算できていた。しかし、2018年改定により、その基準が80%以上へと引き上げられた。80%という数値は国(厚生労働省)が2020年までの全体目標とする水準だ。また、新たに85%以上の店舗には加算3(26点)が算定されることとなった一方、加算1(18点)を獲得する水準を75%に切り上げた。言わばアメとムチの戦略であり、目標達成に向けた国の意気込みの強さがうかがえる。
同社のジェネリック医薬品の使用割合は71.5%(同社単体では74.8%)で、国が目標とする80%とはまだ開きがある。改定前は加算2(22点)の店舗割合は54.1%だったが改定後の基準では22.8%に低下する。反対に加算1(18点)獲得の基準が引き上げられた結果、加算なし店舗の割合が17.4%から42.2%へと上昇する。これらの変化の結果、加重平均点数は改定前の17.0点から改定後は12.2点に下落することになる。
しかしながら前述のように同社はジェネリック医薬品の使用割合が全体的に低いため、引き上げ余地が大きい。これに際しては、同社のコアビジネスモデルであるマンツーマン薬局が威力を発揮すると弊社では期待している。マンツーマン薬局は特定の医療機関と緊密な連携関係にあるためだ。医師とのコミュニケーションを強めてジェネリック医薬品の処方促進を図ることで、後発医薬品調剤体制加算の回復は比較的早期に進むものと期待している。
加算獲得を目指すのではなく、“患者さまに求められる薬局づくり”に注力する方針
4. 基準調剤加算の廃止と地域支援体制加算の新設
これまでは、調剤基本料について1の算定を受けた店舗については、一定の要件を満たすことで基準調剤加算(32点)が算定された。しかし2018年改定ではこれが廃止され、地域支援体制加算(35点)が新設された。
その算定要件として11項目の施設基準が設定されているが、その中の最大のポイントは「地域医療に貢献する体制を有することを示す相当の実績」という要件(以下、「実績要件」と略す)だ。実績要件の具体的内容は、1年間に常勤薬剤師1人当たりとして8項目をすべて満たすことが必要とされている。
調剤基本料1の店舗については実績要件の適用はなく、従来の基準調剤加算と同じ要件をクリアすればよいことになっている。前述したように、国の方針は門前薬局については調剤基本料1の算定をしない方針を明確にしており、調剤基本料1が適用されるのは街中の個人薬局や面対応薬局等になる。門前薬局の割合が高い大手調剤チェーンは調剤基本料が引き下げられた分を地域支援体制加算によって補わざるを得ず、加算獲得の取り組みを通じて各薬局を国が目指す薬局像に近づけようというのが国の目指すところとみられる。
同社は、改定前の2018年3月時点で、39.9%の店舗で基準調剤加算を獲得していた。しかし、新たな地域支援体制加算の要件を適用すると加算獲得店舗割合は22.8%に低下する(加重平均点数は改定前の12.8点から改定後は8.0点に低下する)。これは、前述のように調剤基本料1の算定店舗割合が改定後の基準では大きく低下することが影響している。調剤基本料が1以外の店舗が地域支援体制加算を獲得するためには1年間の実績要件8項目をクリアする必要があるため、一定の時間が必要だ(1年間の実績は毎年4月に直前1年間について評価が基本。2018年は制度導入初年度のため7月に算定)。
地域支援体制加算の獲得のハードルは高いが、これに対する同社のスタンスは明快だ。まずは調剤基本料1の店舗割合40.1%と、地域支援体制加算獲得店舗割合22.8%のギャップを埋めることだ。調剤基本料1の算定店舗は実績要件8項目が適用されず、より簡易な用件で加算獲得が可能となるため、まずはこれを目指す方針だ。
調剤基本料1以外の店舗については、地域支援体制加算を無理に狙わない方針だ。理由は、実績要件8項目の中に、同社のマンツーマン薬局というコンセプトでは実現が難しい項目が含まれているためだ。本末転倒のような活動をするよりも、患者に選ばれる、患者のための薬局づくりを追求することが、最終的には店舗の収益力アップにつながるとの信念の下、地域支援体制加算については自然体で臨む方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<MW>
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