ヨシムラフード Research Memo(4):ビジネスモデルの原型創出と事業統括担当の設置がターニングポイント
1. ターニングポイント
ヨシムラ・フード・ホールディングス<2884>のターニングポイントは、2008年設立の時と2013年(株)オーブン買収の前である。設立の時、12月に子会社化した楽陽食品とヨシムラ・フード、それに同社の3社でビジネスの在り方を模索するところからスタートした。このとき、食品業界の中小企業へフォーカスすることになるとともに、M&Aと子会社間シナジーによる活性化の両輪で成長するという方向感が出され、現在のビジネスモデルの原型が出来上がった。その後、2010年2月に白石興産(株)、7月に(株)ジョイ・ダイニング・プロダクツ、12月には(株)桜顔酒造と3社のM&Aをほぼ同時に進行するが、依然として子会社の活性化という点で試行錯誤が続いていた。しかし、2013年1月のオーブン子会社化を前に、事業の集中と選択を図る一方、事業統括担当を設置して社内に事業を統括的に見る横串の仕組みが形作られ、M&Aのデューデリジェンスも子会社の活性化も同一人物が責任を持って見るという現在の形がほぼ出来上がった。これにより組織的対応が可能となり、M&Aも子会社の成長も加速することになる。
2018年2月期上期は大幅増益だったが、下期は一転減益となった
2. 2018年2月期の業績動向
2018年2月期の業績は、売上高が20,035百万円(前期比23.4%増)、営業利益494百万円(同0.2%増)、経常利益554百万円(同4.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益419百万円(同18.6%増)となった。価格競争など厳しい経営環境にある食品業界では、経営者の高齢化による事業承継問題などの課題が山積した状態になっている。このような環境下で同社は引き続きM&Aによる規模の拡大を図ったが、東証1部に市場変更したこともあって、2017年10月にヤマニ野口水産、12月に初の海外案件となるJSTTの2社と、M&Aの件数としては少なかった。なお、固定資産売却益や組織再編に伴って発生した法人税等調整額の戻りがあったため、親会社株主に帰属する当期純利益の伸び率が高くなっている。
製造事業については、「中小企業支援プラットフォーム」を核に販路拡大など種々の取り組みを各社で実施したこと、ヤマニ野口水産が新たにグループ企業入りしたこと、前期グループ入りした(株)エスケーフーズなど3社がフル寄与したこと、楽陽食品とオーブンで新商品やPB商品が好調だったことなどにより、売上高は15,306百万円(前期比28.6%増)と大きく伸びた。利益面では、原材料価格の高騰などコストアップにより厳しい状況にあり、セグメント利益で682百万円(同3.3%増)とかろうじて増益を確保するにとどまった。販売事業については、グループの情報網を活用し、既存取引先への販売や企画提案を強化した。このため、主要取引先向け販売が好調に推移し、売上高は4,728百万円(同9.0%増)、セグメント利益は225百万円(同7.8%増)となった。
子会社別の販売状況は総じて好調であった。楽陽食品は、主力のチルドシウマイと餃子が安定的に伸びたほか、新商品の販売が好調に推移、大手スーパー向けにPB商品の新規受注もあり、販売数量が飛躍的に増加した。オーブンは、市場価格の低迷を受けて主力のかきフライの販売単価が下落するなど厳しい環境だったが、大口取引先への販売に注力したことで販売数量を大幅に増加することができ、また、水産関連の新商品も好調に推移した。エスケーフーズは、「中小企業支援プラットフォーム」を通じた販路の拡大や既存取引先への深耕が奏功した。ヨシムラ・フードは、主力の産業給食において、的確なニーズの把握とメニューの提案により、売上を継続的に伸ばすことができた。
なお、2018年2月期は増収率の大きさに比べ増益率の伸びが小さくなっている。2018年2月期下期にいくつかのコストアップが生じたことが要因である。このため、下期比較で見ると営業利益は59.7%の減益、計画比でも154百万円の未達となった。M&A一時費用の増加と原材料費や人件費などの増加という想定外のコストアップは、致し方ない面もあるが、上期業績が好調だったため目立ってしまった。
M&Aに際して、取得時のアドバイザリー費用や取得後のシステム入れ替え、会計手直しなどの一時費用が発生し、期初にM&Aするのと期末にM&Aするのでは一時費用の期間損益への影響が異なってくる。JSTTにおいて、一時費用が同社平均の20~30百万円に対し83百万円ほどかかった。一時費用が高くなったのは、海外では今後も経済成長が見込まれることや、M&Aの市場が整備されていることからEV/EBITDA倍率が8~10倍と、日本に比べて高くなる傾向があり、アドバイザリー費用が増加するためである。また、M&Aしたのが12月だったことから収益寄与が2019年2月期以降となるため、2018年2月期は一時費用だけが計上されたのである。今後、特に海外の案件については、EV/EBITDAや投資収益といった観点からより精査していく考えである。ただし、M&Aのタイミングまではコントロールできないので、少なくとも短中期的にリスクは残るが、同社の規模がもう少し大きくなるか、コンスタントにM&Aできるようになれば、期末にM&Aがあっても一時費用を吸収できるようになると考える。
下期に入って原材料価格や人件費、物流費が上昇してきたことも収益の足を引っ張った。楽陽食品では、売上げは期を通じて好調だったが、下期に入って原材料の豚肉が高騰した上、想定を上回る受注により追加的な人件費や横持ち費用(物流費)が発生した。他の子会社でも原材料価格高騰や人件費上昇の影響が現れたが、売上好調がゆえにコストアップへの対策が後手に回った感がある。ただし、2019年2月期に関しては、楽陽食品は値上げに踏み切り(商品力が強化されてきたので値上げ後も販売数量は落ちていないもようである)、エスケーフーズは豚肉のカットを外注から内製へのシフト、ダイショウではピーナッツバターの原材料となるピーナッツのローストの内製化と、既に対策を講じており、リスクを吸収する考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
<TN>
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