BS11 Research Memo(5):春の番組改編では、新番組の積極投入と大胆な番組編成で収益成長の加速を狙う
3. 2018年8月期下半期の取り組み
今下半期(2018年3月−8月)では2018年4月の番組改編を迎えたが、日本BS放送<9414>はこれに対して、これまでにない大胆かつ大規模な取り組みで臨んでいる。この背景には昨秋の番組改編に対する取り組みを通じて、視聴者のニーズや自社制作番組に対する評価などについて、より精緻な把握に努めてきたことがある。
番組作りの面では、2017年秋の改編とは打って変わって、新番組を積極的に投入している。紀行・教養分野では個性豊かな国境ハンターが世界各国の国境地帯を訪れる『世界の国境を歩いてみたら・・・』を投入した。またスポーツ分野では、アスリート個人ではなくチームに焦点を当てた『ザ・チーム 勝利への方程式』を、紀行・教養分野では『京都浪漫 悠久の物語』を、それぞれ新番組として投入した。
従来からの人気番組についてもリニューアルを実施している。『報道ライブ インサイドOUT』では月曜~木曜のキャスターを交代したほか、『アニゲー☆イレブン!』でもMCを交代し、2代目として声優のLynnを起用した。また歌舞伎俳優の尾上松也を起用した『尾上松也 蔵出し!とことん歴史紀行』を新たにスタートさせた。
一方、番組編成の面では、いわゆるゴールデンタイム帯において月曜から金曜日までの毎日、2時間番組(夜7時~9時の2時間枠)で編成する試みをスタートさせた。前述のように、同社は今第2四半期に、人気番組の『あなたが出会った 昭和の名曲』を2時間枠に拡大して放送したが、ここで得られた結果をもとに今回の大胆な番組編成を決断したものとみられる。
弊社では、毎日のゴールデンタイムに2時間番組の投入というアイデアを即座に実行した点に同社の特長が明確に出ており、今後の推移を注視していきたいと考えている。同社は独立系のBSデジタル放送局として、番組編成において高い自由度を有することが特長・強みの1つとなっており、今回の番組編成はこの点がいかんなく発揮された典型例であると言えよう。また、「4つの“力”」に表象される番組作りに必要な実力が着実に向上していることと、きめ細かい市場ニーズの把握や綿密なマーケットリサーチの取り組みも、今回の番組編成の決定において重要な役割を果たしたものとみている。
シナジー効果を狙える老舗の児童書特化型出版社2社を子会社化
4. M&A戦略
同社は2018年1月31日をみなし取得日として、理論社と国土社の2社の全株式を取得し、子会社化した。
理論社及び国土社はともに老舗の児童書関連の出版社で、それぞれ70年、80年の歴史を有している。児童書特化型の出版社という特色を生かして、営業面では全国の学校図書館や公共図書館を中心に販売を行い、厳しい事業環境にさらされている出版業界にあって比較的安定した経営を維持している。また、コンテンツという側面でも、長い歴史もあり数多くの優良コンテンツを有している。
同社がこの2社を子会社化した理由は、言うまでもなくメインの事業であるBSデジタル放送とのシナジー効果を期待してのことだ。同社の有する映像コンテンツを紙媒体に変えて販売するケースと、両出版社のコンテンツを映像化して放送するケースの、両方向が考えられる。また3社が協働して新たな商品・サービスを展開する可能性もある。
両社の収益規模は2社合計で、売上高で年間10億円弱、営業利益で年間数千万円程度と弊社では推測している。利益インパクトという点では当面は限定的なものとなるとみられるが、今後の展開を見守りたいと考えている。
同社はM&Aについてはその性質上、ことさらに成長戦略の一部として位置付けてはいない。しかしながら今回の案件については前述のようなシナジーが期待できることから子会社化に踏み切った。同社では、今後もシナジー効果が期待できる案件があれば、M&Aについて前向きに検討するとしている。
なお、今回のM&Aにより、同社は今第2四半期から連結決算へと移行したが、情報開示上はこれまでどおり、BSデジタル放送の単一セグメントとなり、出版2社の収益は、売上高の項目別内訳の中の“その他”に組み込まれて開示される見通しだ。
4K・8Kは2020年をターゲットに準備中。「次世代メディア局」を設置し、技術やサービス等の未来像についても準備を進める
5. 4K・8K放送及び次世代技術への取り組み
同社は依然として毎年2ケタの成長を続けているものの、BS放送業界全体としてはここ数年、成長率が大きく鈍化しているのは前述のとおりだ。これはBSデジタル放送市場が急速に拡大した後の一時的な踊り場を迎えたためと考えられるが、成長軌道回帰のためには新たな成長エンジンとなる新商品・サービスや技術的ブレークスルーが必要であるのはどんな市場でも同じだ。BS放送を含む放送業界において次の成長エンジンと期待されるのが4K・8K放送の開始だ。今第2四半期を終えた時点では、同社のみならず業界全体の進捗状況に関し、前回レポートで述べたところから大きな変化はない(4K・8K放送については2017年11月15日付の前回レポートで詳述)。
同社は4K放送については2020年頃とされている次回の免許募集に応募するべく準備を進めている。先行するキー局系BS放送各社から2年以上の遅れとなるが、弊社では、4K放送が現行放送からの“移行”ではなく追加的なサービスであることや、4Kテレビの普及スピードやコンテンツの充実度、4K放送開始に伴う設備投資額の大きさといった様々な要素を比較考量すれば、同社が次回募集をターゲットにすることには十分説得力があり、むしろ正しい判断ではないかと考えている。
同社は2017年9月1日付で次世代メディア局を新設した。その趣旨は、4K・8Kも含めた、放送業界における技術革新や環境変化、次世代のメディア全般に関して情報収集や調査・研究、分析等を行うことにある。
次世代においてメディアがどのように変貌を遂げるか、確固たる将来予測を示すことは非常に難しい。同社自身も将来的にどのように事業を発展・展開していくのか明確なビジネスプランができているわけではない。しかし現状でもコンテンツ自体の進化はもちろん、その配信方法(ネット配信など)やインフラ(第五世代移動通信システム(5G)など)、法制度、視聴者の嗜好や行動様式などが、急速な変化のただ中にある。それゆえ、次世代メディアについて準備を怠らないという同社の姿勢は極めて重要なことだと弊社では考えている。
同社は2018年3月の取締役の担当職務変更において、齋藤知久社長が自ら次世代メディア局を担当することとした。次世代メディアに対する同社の意欲と関心の高さを象徴するものと言え、今後の展開を見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<MH>
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