アンジェス Research Memo(4):HGF遺伝子治療薬の国内承認申請に向けた準備が進む(2)
3. 高血圧DNAワクチン
DNA治療ワクチンの1つとして、高血圧症を対象としたDNAワクチンの開発を進めている。大阪大学の森下教授の研究チームにより基本技術が開発されたもので、昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシン2に対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシン2の作用を減弱させることで、長期間安定した降圧作用を発揮するワクチンとなる。
高血圧治療薬の市場規模は国内だけでも5,000億円以上、世界では数兆円規模となっており、この一部を代替することを目指している。現在、主力の治療薬としてはARB(アンジオテンシン2受容体拮抗薬(経口薬))があるが、毎日服用する必要があるほか薬価も高い。このため、発展途上国では医療経済上の問題から使用が限定的となっている。アンジェス<4563>が開発するDNAワクチンは高薬価になると想定されるが、1回の治療で長期間の薬効が期待できるため、トータルの治療コストは低くなる可能性があり、開発に成功すれば発展途上国も含めて普及拡大が期待される。
同社ではオーストラリアにおいて2017年7月に臨床試験開始届けを規制当局であるTGA(薬品・医薬品行政局)に提出済みとなっている。実質的な審査機関であるHREC(Human Research Ethics Committee)の審査は既に終了しているが、事務的な手続きに関する追加の要求がなされ、現在その対応中である。問題が解決次第、第1/2相臨床試験を進めていくことになる。症例数は24例で、観察期間は1年、試験の終了時期は2019年中を目途としている。安全性や副作用等の確認だけでなく有効性の確認も行うことになる。同プロジェクトに関しては潜在市場が大きいこともあり、グローバル製薬企業からの注目度も高い。このため、POCを取得した段階でライセンス契約が決まる可能性もあり、今後の動向が注目される。
なお、DNAワクチンに関しては出資先であるVicalと戦略的事業提携契約を締結している。同社はDNAワクチン分野を、遺伝子治療薬及び核酸医薬に次ぐ第3の柱として育成していく考えで、そのためにDNAワクチンで長年の経験と広範な知識・開発ノウハウを持ち、製造設備も保有するVicalを最良のパートナーとした。
また、高血圧DNAワクチンでは犬慢性心不全を対象とした動物用医薬品としての開発も、共同開発先であるDSファーマアニマルヘルス(株)※で行われているほか、東京大学医学部附属病院の寄付講座において、脳梗塞や心筋梗塞の発症率を低下させる効果があることも同研究グループの成果として論文発表されている。
※大日本住友製薬<4506>の子会社、2015年10月に共同開発契約締結を発表した。
4. その他開発プロジェクト
(1) 慢性B型肝炎遺伝子治療薬
2017年4月に、Vicalと慢性B型肝炎の治癒を目指した遺伝子治療薬の共同開発を進めていくことを発表している。今回の共同開発契約で同社は、日本における開発・販売権を対象とした優先交渉権を獲得している。慢性B型肝炎の持続的なウイルス感染者(キャリア)数は、国内で130万人以上、世界で約3.5億人いると推計されている。現在の標準的な治療法である抗ウイルス剤の投与では、ウイルスを完全に排除することができないため治癒には至らず、基本的には生涯にわたって薬剤を服用し続ける必要がある。B型肝炎治療薬の市場規模は2021年に世界で約4,200億円まで拡大することが予想されている。
今後の開発スケジュールとしては、2018年春まで約1年かけてマウスを使った実験を共同で実施し、その効果を確認する。好結果が得られた場合には、次の段階に進むことをVicalと協議することになる。同プロジェクトに関しても潜在市場が大きいだけに、ヒトでのPOCを取得した段階でライセンス契約できる可能性がある。同社業績への影響としては、日本エリアを対象とした契約金やロイヤリティ収入等を獲得できることになる。
(2) エボラ出血熱抗血清製剤
エボラ出血熱に対する抗血清製剤の開発を2015年より進めている。エボラウイルスのタンパク質をコードとするDNAワクチンをウマに接種し、その血清に含まれる抗体を精製して抗血清製剤を製造する。DNAワクチン技術を保有するVicalより国内の独占的開発販売権を取得し、現在はワクチンと感染症の研究開発で世界有数の施設を持つカナダのサスカチュワン大学と共同で、本製剤の特性、品質の検証を進めている段階にある。マウスを使った動物実験の中間報告ではウマ血清が治療薬としての機能を有することを示唆する結果が得られている。引き続き実施していく動物試験において良好なデータが得られれば、製薬企業とライセンス契約を締結、またはライセンスアウトする計画となっている。2017年の冬頃には動物実験の結果が判明する見通しとなっている。主に罹患者の治療用や感染リスクの高い医療従事者等の携帯用、備蓄用等の緊急対策用の需要を想定している。
(3) CIN治療ワクチン(参考)
韓国バイオリーダースから導入したCIN治療ワクチン(子宮頸がん前がん病変治療ワクチン)については、2016年12月に森下仁丹に国内外の独占的開発・製造・販売権の再許諾を行っている。今後は森下仁丹が開発を進めていくことになる。同ワクチンの開発に成功し、上市されれば、販売額に応じた一定のロイヤリティ収入を同社が受け取ることになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<MW>
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